詩歌探究社 蓮 (SHIIKATANKYUSYA HASU)

詩歌探究社「蓮」は短歌を中心とした文学を探究してゆきます。

「帆・HAN」28号(佐藤よしみ)

2021-03-23 15:33:51 | 短歌情報

「帆・HAN」28号を紹介する。

佐藤よしみさんの個人誌で不定期刊。全6頁。
短歌「海へ、ふたたび」30首と
連載「琉歌(うた)の見える場所」(17)が載る。


指先を舐めてページをめくらんとして罪びとのごとく戸惑う(「海へ、ふたたび」)

なぜ<罪びと>か。この作品はコロナ禍の暮しを映している。
私ごときもたまにはスーパーで買い物をする。
食材と共に買わされたお店の袋を開くときにどうしても、
マスクをずらしてでも指を舐めたくなる。
コロナ警察が何よりも怖いから、周囲を見てすばやく
こっそりとマスクをずらし、指を舐めマスクを戻す。
あら、不思議。あんなに開かなかったビニール袋が
あっさりと口を開くのだ。
一応、指濡らし用のタマコロみたいなモノが
置いてあるのだが、あんなもん既に乾燥してるし
誰もが指先をつけているわけで、逆に怖いわ!

「琉歌(うた)の見える場所」(17)では
辺野古の埋め立てに沖縄本島南部の土が使われることへの
怒りが描かれている。本島南部は沖縄住民がじわじわと
米軍に追い詰められていった土地である。
考えさせられたという他はない。


ここで何度か書いていると思うが佐藤よしみは
田島邦彦が率いた同人誌「開放区」に創刊まもなくから終刊号まで
およそ30年間、所属していた大先輩である。
私が創刊した「蓮」でも創刊から終刊までお付き合いいただいた。
大袈裟ではなく私の恩人である。
お目にかかったこともお話したこともないけれど。






「夏暦」52号(王紅花)

2021-03-23 12:05:12 | 短歌情報

「夏暦」52号を紹介する。「かれき」と読む。
王紅花さんの個人誌で年三回刊。全4頁。個人誌の大先輩である。
表紙の絵は松平修文氏。短歌「目を閉ぢて」30首と
小文「ペンネーム「王紅花」騒動記」が載っている。

歳末の庭に物干し竿ぶつけガスボンベ鐘のごとく鳴りたり(「目を閉ぢて」)
<ガスボンベ>はプロパンガスのボンベ。彼女が聞いた鐘はいかなる音か。

小文「ペンネーム「王紅花」騒動記」を自戒しつつ興味深く読んだ。

あるメディアの文化欄の短歌コーナーに、先日刊行された
王紅花歌集『窓を打つ蝶』が紹介されたという。
執筆者は長年コーナーを担当する歌人であり
王紅花自身も大変ありがたく思ったそうだ。
ところが
「作者は上海出身の料理人で、国の違いを超えた夫婦愛」云々と書かれていたという。
知らない人が読めば「ふうん、そうなんだ」と思う他ないだろう。
しかし、「王紅花」はペンネームであり
王紅花は根っからの日本人である。彼女の抗議を受けて
次回の誌面に訂正文が掲載されたそうだが、それで済む話ではない。
とはいえ出てしまった記事は取り返しがつかない。

王紅花は
「執筆者は「王紅花」をネット検索し、アニメのキャラクターの「王紅花」と勘違いしたのだろう」
と推測する。
私も検索してみると・・・

王紅花とは、『アリス・ギア・アイギス』のキャラクター。
上海シャードからやってきた中華料理の天才少女。
伯父が経営する池袋の高級中華料理店「紅龍苑」で働いている。
紅花が店先で売る「アタシの中華まん」は大好評。・・・・

とあった。しかし、これを歌人・王紅花と取り違えることなどあるか!
実際あったのだからビックリである。
王紅花は1970年から、このペンネームで短歌と向き合っているし、
主な短歌辞典を捲れば彼女は載っている。(私は載っていない)

私は王紅花歌集『窓を打つ蝶』が紹介された、あるメディアの
文化欄の短歌コーナーを読んでいないので執筆した歌人が誰か
知らないが、あまりにもお粗末だと呆れるしかなかった。