Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

鋭い指摘

2015-10-18 01:00:00 | 雪3年4部(遠藤の~それぞれの意見)


雪は鋭い視線で目の前の柳瀬健太を見据えていた。

健太は思わず言葉に詰まる。

「いや‥その‥」



そんな三人の姿を、教室内に居る学科生全員が遠巻きに見つめていた。

しんとした空気が張り詰める室内。



今教室に入って来たらしい柳楓、着席してずっと彼らを窺っている佐藤広隆も、

雪ら三人のことを見つめている。

 

その沈黙を破ったのは健太だった。

「おい!俺は‥」

「過去問でも何でもそういった個人的なものをー‥」



少し不機嫌に口を開いた健太の言葉を、雪の凛とした声が遮る。

「どうして強制的に皆で共有しないといけないのか、

その理由を教えて下さいますか?」




雪の理路整然とした主張に、隣に居た聡美が「そうよ!」と言って頷く。

雪は健太に向かって淡々と言葉を続けた。

「私は”過去問担当”ってわけですか?」

「いや赤山、どうしてそうなるんだよ?

そうカリカリすんなって!」




健太は手を横に振りながら、幾分前のめりになって以前のことを言及した。

「つーかそう考えたらこの前のアレもそうだよな。

財務なんちゃらの資料見せ渋って、ソッコー逃げて!何度も何度もよぉ。それじゃ使えねぇっつの」




「同じ学科の先輩後輩じゃねーか。ちょっとは使えるヤツになろうぜ~?」



健太は若干雪のことを睨みながら、周りの人間のことについても言及する。

「つーかこう思ってんのは俺だけじゃねーよ。お前に不満持ってる奴らも沢山いる」



”不満持ってる奴ら”こと糸井直美とその友人は、ギクッとして三人から目を逸らした。

しかし内心ビクついているのは、彼女達だけではないのだろう。



雪はチラ、と周りを窺ってみた。

以前親しくもないのに挨拶をして来た先輩達、

そして同期達が、皆どこか後ろめたそうな表情をしてこちらを見ている。

 

こんな衆人環視の中で、皆が密かに様子を窺っている事柄について言及する柳瀬健太。

彼の判断は、明らかに皆の総意では無いだろう。

「‥‥‥‥」



雪の頭は冴え渡っていた。

そして彼女は数々のファクターから判断して、彼に然るべき賢明な対処を施す。

「‥健太先輩。あの時一度断ったでしょう。

こんな風に教室で大声を上げて、再び言及しなきゃいけませんか?」


「雪!もういいよ!行こっ!」



聡美がそう叫ぶ中、雪は顔を曇らせて言葉を続ける。

「本当に酷いです」「ちょ、待った待った!」



そんな雪の態度にピンチを感じたのか、健太は真っ青になって待ったを掛けた。

幾分声を荒げながら、どうにか気を取り直させようと言葉を続ける。

「いや本来こんな大事になる問題でもねーじゃん!

ただ先輩からのお願いだと思って、ちょちょっと見せてくれたらなって!

つーか赤山の過去問じゃねーんだから、んな恩着せがましくしなくたってよぉ!」




「俺、就職も出来ずに卒検もパス出来ねーかもしんねーんだぞ?

なぁ赤山。お前はそれでもこんなに冷たく当たるのか?」




そう言って情に訴えかけようとする健太。

雪は真っ直ぐに彼を見据えながら、鋭い指摘を口にする。

「ほらそれ。それが問題なんです、それが。

見せなければ悪者扱いするその態度が、問題なんです」




「先輩なら先輩らしく、わがまま言わないで下さい」



一瞬、時が止まった。

健太は白目になって、今後輩から言われた言葉を反芻している。

「‥は?」



「わがまま?」



そして彼はぐにゃりと顔を歪めながら、恐ろしいほどの剣幕を纏う。

「てめぇ今俺にわがままって言ったか?あぁ?」



皮膚に何本も浮かぶ青筋。

雪は思わずビクッと身を竦める。



低い声で口撃する健太。

しかし雪は彼から目を逸らさずに、自分の恐怖心を客観視して物事を捉えていた。

「赤山よ、ちょいと言葉が過ぎるんじゃねーか?朝何か悪いもんでも食ったんじゃねー?」

この人はいつも、情けないながらも恐ろしい。



そして

恐ろしいながらも、滑稽だ。




それが雪が柳瀬健太に下した、結論だった。

一旦そう思ってしまえば、先程覚えた恐怖も引いていった。

「だから先輩なら先輩らしく‥うぐぐ」

「何か間違ってます?」



吠える聡美の口を抑えつつ、雪は至極冷静にこう彼に問う。

「入学してから今まで、私は健太先輩を助けて来ましたよ?」



「チーム課題の時もDがついたにも関わらず、先輩のノルマまで全部私がやりましたし、

この前の財務学会の資料だって、先輩の分コピーして渡したじゃないですか」




一つ一つ、健太に対して売った恩を口に出していった。

その上で、雪は改めて彼にこう聞いたのだった。

「健太先輩は私に、一度でも心からありがとうとか申し訳ないとか、

示してくれたことありましたか?」







雪の発した言葉に、ギャラリーが「それはその通り」と相槌を打ったり、頷いたりしていた。

しかし健太は何を言われているのか分からないといった体で、あっけらかんとこう答える。

「いや、俺その度にありがとうとかごめんなとか言っただろ?何が問題なんだ?

「口先だけですよね」



そして雪は、彼の改善すべき点をハッキリと口にしたのだった。

「これからは頼み事をするならするなりに、それなりの態度を見せて頂きたいです」



しかしそれが再び健太の癪に障った。

健太は大きな音を出して机に両手を付くと、大声で雪の言葉を反復する。

「は?どういうことだよ!態度だと?!」



「この‥ぬけぬけと‥!」



怒りのあまり震える健太。

そんな最年長学科生の姿を見て、佐藤広隆は眉をひそめ、柳楓は溜息を吐く。

 

雪は冷静だった。

今の状況を踏まえながら、冷静に周りを観察する。







糸井直美とその友人は幾分焦った表情で何やら会話をしていた。

その他、ヒソヒソと話している先輩達や、不満そうな顔をしてこちらを見ている学科生も居る。



これ以上事を大きくしない方が良い。

雪はそう判断し、健太を見据えながら聡美に声を掛ける。

「行こ」「そうよ!行こ行こ!相手にしちゃダメ!」



そんな雪に対して、健太は「逃げんのか?!」と噛み付いたが、雪は返答しなかった。

健太は雪の方を指差しながら、皆に聞こえるようにこう叫ぶ。

「おいおいおい!赤山マジで変になっちまったよなぁ?!

人ってあんなにも変われるもんなのかぁ?!」


「マジでこの人は~~!」



そんな健太に対して聡美はカンカンだったが、

雪は冷静に「行こう」と言って教室を出て行った。



後輩から好きなように言われ、結局過去問は手に入らない‥。

健太は雪が去って行った方向を睨みながら、ギリギリと歯噛みした。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<鋭い指摘>でした。

雪ちゃん、言ってやった!

しかし毎度のことながら真っ向勝負ですね~~。

でも雪ちゃんが心から納得して健太に過去問渡せる日なんて、来ない気がします

雪ちゃんが望んでいるのは「心から感謝する」等の意識の問題ですから、

これはもう健太に期待しても‥と。。

先輩はその辺割り切っていた気がしますがね。


次回は<彼らの援護>です。


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淡い期待

2015-10-16 01:00:00 | 雪3年4部(遠藤の~それぞれの意見)
太一が、瞳をキランと光らせながらこう言った。

「それじゃその日は来て下さいネ。俺のイケてる姿を拝みに!」



太一は○月x日、萌菜の仕事先のバイトにて、モデルとしての撮影があると言う。

太一は残念そうな顔をして、雪に向かって話し掛けた。

「マジで雪さんは来れないんスか?」

「うん、ごめん。色々やることあって‥



聡美はその現場に行く予定なのだが、雪は多忙のため行けないのであった。

「せっかくのアンタの晴れ姿、見たかったけど‥。萌菜によろしく言っといてね

「”せっかくの晴れ姿”?俺はいつでもイケてますヨ?」



相変わらずの太一。

そんな太一の前に、聡美がサッと踊り出る。

「心配無用!あたしがめっっちゃ写真撮ってきてあげるから!

もしかしたらコイツの黒歴史になるかもよ?モデル初仕事が怖~い人達に囲まれて、

さぁ脱いでみようか‥なんて~www」




楽しげに喋る聡美の後ろで、太一は呆れたような表情だ。

聡美の頭上から、その大きな手を華奢な肩に掛ける。

「あ~‥ったく」



「心配ご無用。姐さん方三人よりは、怖くないですから」



聡美は後ろに居る太一を見上げた。

太一は口をぎゅっと結びながら、軽く頷いて見せる。



どこか淡い感情が聡美の胸を過ったが、聡美は彼に向かって声を荒げた。

「な、何よ!」「それじゃこれにて!」

 

若干スネたような態度を取る太一を、どこか不満気な表情で見つめる聡美。

その心当たりを、聡美はヒソヒソと雪に囁く。

アイツまだ家に遊びに行かなかったこと根に持ってるよ

ウン



三人の小姑の存在が気掛かりで、結局聡美も雪も太一家の晩餐には行けずじまいだった。

最近何を考えているのか分からない太一。

聡美はそんな彼の背中を、じっと一人見つめている‥。








教室に着いてから、聡美がやけにソワソワしながらこう言った。

「てか‥太一さぁ‥いつもとちょっと違う感じしなかった?」



そう言われても、雪には何のことやら、である。

「え?何が?」「いや~ほら、いつもなら見に来いってもっと何度も誘ってくるじゃん」

「そうだけど‥」

 

するといきなり聡美はブルブルと震え始めた。

「うう‥」「トイレ?」



聡美は若干顔を赤らめながら、ヒソヒソとこう話し出す。

「やっぱり何か隠された意図があるんじゃないかと‥」

「??何?意図って?」「それは‥」



「どうやら今回はアイツ、ちゃんとー‥」



聡美がほのかに感じた太一の「意図」を言葉にする前に、それは遮られた。

彼女達の目の前に、190センチの巨体が視界を塞ぐ。

「ちょい、ちょい、ちょい、っと」



ドカッ



柳瀬健太はおもむろに、雪達の前にどっかりと座った。

その突然の展開に、雪は目を丸くし、聡美は思わず白目になる。



そして健太は雪のことをじっと見つめながら、こう言ったのだった。

「赤山。ちょっと話をしようぜ」







健太を前に固まる雪と聡美。

それと同時に、教室に居る皆の時が止まった。

 

皆の視線が雪達三人に注がれる。その中には佐藤広隆の姿もあった。

雪の表情には、次第に本心が顔に出始める。



そして雪は無理矢理笑顔を作って、こう聞いたのだった。

「‥何ですか?」「気に入らねぇって顔してんな」



遂にこの時が来たか、と雪は内心思っていた。

健太は愚直な程真っ直ぐに、本題へと話を切り込んで来る。

「ときに赤山よ。聞いた話によると‥」



そして健太は何を思ったか、皆に聞こえる大声でこう言った。

「お前が青田の卒験過去問を手に入れておきながらぁ!」



これで教室中の全員が雪と健太の方を向いた。

健太はボリュームを戻して話を続ける。

「俺を始め学科の奴らにも全く見せないとか?

それって本当なのか?それが事実なら、どうしてそんなことをする?」


 

呆気に取られる聡美、そして雪。

皆からの視線を感じて、雪は幾分動揺している。

「な‥何を‥」



開いた口が塞がらない。

目の前に座るこの人は、一体何を考えているというのかー‥。



そんな雪の心情にはお構いなしに、健太は話を続けていた。

「いや、俺はだなぁ、赤山がそれを苦労して手に入れたんならまだ理解出来る。

でもお前はそれを青田から貰ったわけだろ?だったら一人で抱え込んじゃいかんと思うわけだ」


 

健太の後ろで糸井直美が友人と顔を見合わせていた。

しかし健太は饒舌に、心の中に淡い期待を抱いて持論を語り続ける。

「先輩後輩、皆仲良くしてこそ‥」



そう言って締め括ろうとした時だった。

今まで沈黙を守っていた雪が、鋭い言葉を切り返したのは。

「それで何が言いたいんですか?」



「えっ?」



意図してなかったその返しに、思わず健太の目が点になった。

見開いた目の先に居る後輩は、その切れ長の目から鋭い光を健太に向ける‥。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<淡い期待>でした。

聡美の言う「太一の意図」気になりますね。そこに淡い期待を抱いているのかな?^^


そして健太‥まだ出てくるとは‥。

雪ちゃん、ケチョンケチョンにしておしまい!!


次回<鋭い指摘>に続きます。


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賢明な対処

2015-10-14 01:00:00 | 雪3年4部(遠藤の~それぞれの意見)
家の近くまで帰って来た雪が空を見上げると、空はまだ明るい街の明かりを反射し、鈍く光っていた。

そんな空を眺めながら、雪は思う。

今までスムーズに運んでいたことが、ある日突然行き詰まることもある



「あれ?」



視線の先に、見覚えのある人影があった。

フードを目深に被ったその人は、一人その場に佇んでいる。



少し離れているので、その表情は窺えない。よく見ると彼は、

カフェを経営する雪の叔父と、向い合って何やら会話をしている。



雪はその場に突っ立ったまま、彼の姿を見ていた。

ここ最近の彼とのぎこちなさから、すぐには声を掛けられない。



叔父は心配そうな顔をしながら、彼に何か声を掛けていた。

それを聞く彼は、あまり目立ったリアクション無く、ただ雪の叔父の言葉に頷いている。



暫くすると会話も終わったのか、二人はそれぞれの方向へと踏み出した。

叔父はカフェに戻り、彼は雪の居る方向へと歩みを進める。






するとこちらへ向かってくる彼と、目が合った。

雪は「あ‥」と言葉に詰まりながら、じっと彼のことを見つめている。



河村亮は雪から視線を外さず、それでも歩調を緩めはせず、ただこちらに向かってくる。

二人の間の距離が縮み、亮の視線は雪を見ている為下を向く。



雪はそんな亮のことを、ぽかんと口を開けながら見つめていた。

大きな切れ長の目が、亮の色素の薄い瞳を追って上を向く。



そしてすれ違うその時、雪と亮は同時に口を開いた。

「あの、河村氏ー‥」

「よぉ!」



亮はバッと手を上げて雪に応えると、そのまま立ち止まらずに歩いて行った。

雪は思わず呼び止める。

「えっ?いやあの!ちょっと‥!」



振り返った雪の目に映ったのは、

まるでガッツポーズのような格好をした亮の姿だった。

「”いやあの!ちょっとぉ~!”」



亮は雪の口調を真似すると、その後は鼻歌をハミングしながら歩いて行った。

あんぐりと口を開けた雪の目には、彼の背中しか入ってこない。



思わず首を捻った。

どうして河村氏は、最近ずっとこうなのだろう。

対処の仕方が分からないー‥。

「へ?はぁ‥?」










「知らないの?アイツが夜ここに来て、練習してること」



叔父は水筒いっぱいのコーヒーを差し出しながら、意外そうな顔をしてそう言った。

雪はそれを受け取りながら、「本当?」と初耳のその話を聞き返す。

「あぁ。コンクールに出るからって。ヘッドフォンして練習してるから出来はよく分からないけど、

指が踊ってるみたいに動いてたよ」
 「あ‥」



リハビリの成果は着実に出ているようだ。

雪は宙を眺めながらこう思う。

すごく回復してるみたい‥






以前ここのガレージで「Maybe」を弾いてもらった時は、指がつっかえて演奏が止まった。

あれから時が過ぎ、彼の左手はきっと快方に向かっているのだ。

雪が思いを馳せていると、叔父が心配そうな顔をしながら口を開いた。

「何にしたって気掛かりだよ。口は悪いが、情に厚い良いヤツじゃないか。

だろう?」


 

「上手くいくといいけど‥」



彼の行く末を心配しているのは、雪だけではない。

それでも以前は気兼ねなくその関係性を形作っていた彼と、

今自分はどうしてこんなにぎくしゃくしているんだろう。






花火が打ち上がり消えるように、急に冷め切ってしまう日がある。



ではこんな日はどうやって、

どんな方法で対処すれば、賢明なのだろうか。




自分自身が思う”賢明な対処”を、他人が織りなす予測不能な出来事に対して行う。

考えれば考える程、とてつもなく難しいことだと思い知らされる。

彼らは自分とは違う人間で、誰しもが、違う生き方や異なる考えを持っているのだ‥。











帰宅した雪は自室にて、クローゼットを開けて服の選別をしていた。

引っ張り出してきた去年の服を、今年も着られるかどうかチェックしている最中だ。

これはまだイケる‥これはダメだ



お財布の中身が空の今、頼れるのは今持っている物だけである。

最大限去年の服で持ちこたえてみよう‥

どうにかなるハズ‥。にしても、安物は全部ダメだ‥




とりあえず選別は終わった。

が、部屋の中がグチャグチャだ。

あぁ‥こんなことしてる場合じゃないのに‥



溜息を吐きながら、雪は今やるべきことを考えて気を引き締める。

課題と‥期末テストと‥



すると傍らに積み上げてあった本に肩が触れ、

その山を崩してしまった。

「うわっ?!」



部屋の中はもう、何がなんだか‥。

「‥‥‥‥」



雪は天井を見上げながら、ぽつりと独りごちる。

「あーあ‥全部片付けて‥勉強して寝なきゃ‥」



散らかった部屋は、なんとなく雪の人生を象徴しているかのように混沌としていた。

一つ片付けたら一つまた散らかって、やるべきことは常にその後ろに控えている。




空には半月が浮かんでいた。

薄曇りの空に、鈴虫の鳴く声が響いている。


皆既に寝静まった夜更けに、虫の音を聞きながら、雪はまたふと一人思う。

絶えずゴタゴタがあって、

絶えず賢明な対処が要求される日々。




23歳の初冬。



人々の間で曖昧に揺れていた夏から半年、色々なことを経験した。

そしておそらくこれからも、様々なことに直面し、乗り越えて行くんだろう。

自分の判断は”賢明な対処”だっただろうかと、いつだって自身に問いかけながら。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<賢明な対処>でした。

真面目な雪ちゃんらしい、真面目なモノローグを挟む回でしたね~^^

そして叔父さんはまたしても、水筒いっぱいのコーヒーを提供してあげてるんですね。

雪ちゃんの胃が荒れそうですが‥


次回は<淡い期待>です。


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似た者同士

2015-10-12 01:00:00 | 雪3年4部(遠藤の~それぞれの意見)
ひょんなことから、ランチを共にすることになった雪、佐藤、静香。

この後皆で勉強しようという流れであったが、

結局図書館へ向かうのは雪と佐藤の二名だけという結果になった。

「勉強はまたの機会にね~ちょっと用事が‥

「後で授業絶対来いよ!」

 

静香はその佐藤の呼びかけに適当な相槌を打ちつつ、どこかへと去っていった。

自由奔放な彼女に振り回される、愚直な二人‥。



雪は小さくなる静香の後ろ姿を見つめながら、怒りで細かく震えている。

私と仲良くなりたいって何よ。何企んでんのか知らないけど、ダマされないからね?

それに‥私が口出す問題じゃないかもだけど、目の前で佐藤先輩が利用されそうになんの、見てらんないよ‥。




横に居る佐藤へ、チラと視線を流す。

彼は少し神妙な表情で、静香の去って行った方向をじっと見つめている。

最近良くしてくれるのもあるし、私と似てる面もあるし‥



雪は佐藤に、どこか自分と「似た者同士」な空気を感じ取っていたのだった。

すると佐藤は雪の方に向き直り、開口一番質問した。

「二人は知り合いなの?」「えっ?」



”知り合い”かと聞かれて、雪は曖昧に頷く。

「はい‥まぁ‥。

知り合いの知り合いっていうか‥」




佐藤は質問を続ける。

「‥どうして彼女がいきなり電算会計の勉強を始めたか、

理由を知ってる?」




「え?そりゃ就職‥しようとしてるからでしょう?」



予想外の佐藤からの質問に、雪は目を丸くしてそう答えた。

佐藤は雪から視線を外すと、曖昧にこう返す。

「あぁ‥そうか。そうだよな」



そして佐藤は図書館へと向かって足を踏み出した。

「?」



雪は佐藤の質問とその答えの意図が読めずに、彼の後方で疑問符を浮かべる‥。






そこから数時間後。

A大学の教室の一室で、河村静香は溜息を吐いていた。

「なーによ。あたしには授業絶対来いよっつっといて、

自分は遅刻かよ?」




「ふざけんなっつの。ねぇ?」

「佐藤先輩のことですか?」



静香が同調を促した相手、小西恵は静香のハットを被りながら、くりっとした瞳を彼女に向ける。

恵はニコニコと愛想の良い表情で、ハキハキと静香に向かって話し掛けた。

「あたしあの先輩好きです!なにげに優しいですし!それに頭も良くて!」



しかし静香は恵のその言葉はそっちのけで、ある物に目が釘付けだった。

それはかつて自分が持っていた情熱の、燃えカスに似た遺物のようなもの。

「てかさぁ、」



「めぐちゃんって絵が上手いんでしょうね」



静香は笑顔の仮面を被りながら、恵のアジャスターケースを見つめてそう言った。

恵は依然ニコニコとしながら、無邪気に首を横に振る。

「いえいえ、ただ持ち歩いてる方が便利ってだけです」

「へぇ、そう」



言葉の奥で燻る苛立ちを感じながら、静香は平然と頷いた。

そんな静香に向かって、恵はキラキラとした瞳を向ける。

「それにしても、静香さんのスウェット超可愛いですね!」

「は?当たり前でしょー?いくらすると思ってんの



恵は静香の全身を、羨望の眼差しで見つめている。

「静香さんはいっつも素敵な服着てるし~メイクもめっちゃお上手だし~、

背も高いし~大人っぽいし~!モデルさんみたい!静香さんみたいになりたいです~!」


「そう?アンタ見る目あるわね



自分を褒める恵の言葉を、まんざらでもなく聞いていた静香の心に、ポッと火が灯る。

それは先程心の奥に感じた苛立ちの導火線に引火し、静香の瞳がゆらりと揺れる。




同じ目に合わせてやりたい。

何の苦労も無く美術を続けているこの子に、同じ道を辿らせてやる。


「めぐちゃんの顔だって可愛いわよぉ」



「ねぇ、それじゃお姉さんと良いとこ遊び行っちゃおうか。

イケメンのお兄さん達が沢山居るステキな所があるのよ」




「ニュービーは歓迎されるわよ?勿論めぐちゃんの身の安全はあたしが責任持つし。

TVに出てきそうな所なんだから」




静香は目の前に居る無垢な彼女に、ゆるゆると誘惑の手を差し伸べる。

恵の瞳が、一層大きく開いた。

「わぁ‥本当ですか?」




辿れ。

辿って来い。

お前もあたしと同じ、細く暗い道を。


「そうよ。ねぇ‥どう?」



もう少しだ。

恵の瞳が、静香を映してキラキラと光るー‥。

「わぁ‥」





「遠慮しときます!」



恵はその場から一歩も動かずに、元気良く断りの選択を拾った。

笑顔を顔に貼り付けたまま、思わず静香は固まる。



恵は今までと同じテンションを保持したまま、鞄から様々なチケットを取り出し、静香に見せた。

「あ、そうだ静香さん!そこじゃなくて展示会一緒にどうですか?

今回新しく企画展が沢山開かれてるんですよ!どれも今しか見れないんです!




「静香さんは、名画とか興味あります?」



静香は白目になって、暫しその場で固まっていた。

キラキラキラキラと、恵からは善良なオーラが立ち昇る。



ふと、以前夜道で恵と赤山雪が笑い合っていたことを思い出した。

あの時静香は細く暗い路地から、明るく眩しい大通りに居る二人の姿を、ジットリと睨んでいたー‥。





「は!」



静香は即座に感じた。

小西恵と赤山雪は同じ世界に居るのだと。

そして自分が辿って来た細く暗い道には、この子は足を踏み入れないであろうということに。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<似た者同士>でした。

佐藤先輩と雪、そして恵と雪。

似た者同士、という点では前者二人ですが、同じ世界に居る、という点では後者二人ですね。

そしてその世界とは全く違うところにいる静香。

人物それぞれのポジションの対比が面白い回でした。


次回は<賢明な対処>です。


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主導権を握って

2015-10-10 01:00:00 | 雪3年4部(遠藤の~それぞれの意見)
スッカラカーン



翌日の大学構内で、雪は財布を開いておったまげた。

なんと札が一枚も入っていないのである。

えっ?!なにコレ?!???



雪は動揺のあまり、視線を宙に彷徨わせながら記憶を辿った。

ラ、ランチ代が‥。

昨日ガソリン代いくら渡したっけ?確か6~7千円‥




先輩に渡したあのお金は、どうやら全財産だったらしい。

雪は携帯を取り出すと、ネットバンキングで口座残高を確認した。

しかしその残高も凄惨極まりない‥。



まずい。

今月の生活費の逼迫加減に、雪は頭を悩ませた。



ともかく突然ではあるが、緊急節約期突入だ。

‥とりあえず今日のお昼は抜きにしよう‥ご飯抜いたら集中出来ないけど‥しょうがない

「お~い」



すると後方から、聞き覚えのあるハスキーな声が掛かった。

振り向いてみると、そこには河村静香の姿がある。

「一人で何してんのぉ?」「あれ?」



その隣には佐藤広隆だ。

色々突っ込むところはあれど、雪は適当な別れの挨拶を口にし背を向ける。

「私、忙しいのでこのへんで‥」

「広隆がランチご馳走してくれるんだけど、アンタも行く?」



「えっ?」



静香のその提案に、雪は思わず振り向いた。

静香と佐藤は親しげに会話を交わす。

「いいでしょ?」「いいけど。ていうか知り合いなのか?「遠慮しないで~」



そして静香は雪に向き直り、ニッコリと笑ってこう言った。

「うちら仲良くするんだもんねー?」



「‥‥‥‥」



思わず本音が顔に出る雪。

しかし財布が空の今、正直に言ってその静香の提案はありがたかった。

「そ‥それじゃお恥ずかしながら‥」「そんなこと言わなくたって」

「今度高いモン奢んなさいよ?」「まるで自分が奢るかのように言いますね



まるで親しい友人のように、静香は雪と肩を組む。

何食べたい~?

さ、触らないで下さいよ!



仲良しでしょ~?



そんな雪と静香の姿を、銅像の影から見つめる人影があった。

河村亮である。

「何だあのメンツは‥?てか誰だよあの男



佐藤広隆のことを知らない亮には、今の状況がちんぷんかんぷんだった。

亮は首を傾げながら、上機嫌で二人を連れて歩く姉の後ろ姿を見つめる。



胸の中がモヤモヤと煙って行く。

けれど訝しく思うその感情とは別に、違う感情が記憶の彼方から呼び覚まされる。








高校の時の記憶だった。

まだ三人の関係が、本当の家族のように親密だった時の‥。



その歯車が、狂い始めた時のことを思い出す。

「よぉ!」



教室に着いて、いつも通り淳に向かって挨拶をした時だった。

「ああ」



普段とは違う苦い顔、歯切れの悪い返事。

そのまま背を向けた淳を見て、亮は目を丸くする。



ギシギシと、歯車が軋む音が聞こえる。

運命の風が、絶望へと向かって強く吹き荒れて行く‥。

「‥‥‥‥」



亮は静香達の後を追うことなく、自分が向かうべき方向へと足を踏み出した。

記憶の蓋を閉め、感情を殺して歩いて行く‥。












一方大学近くの焼肉屋にて、三人は昼食を取っているところだった。

雪は改めてこの不思議なメンツを見回してみる。



中でも予想外なのは、佐藤広隆だった。

雪は去年の記憶を思い出しながら、なんだか感慨深い気持ちに駆られている。

まさか佐藤先輩にお昼奢ってもらうなんて‥しかもこの人と一緒に‥

暫く前までは‥



思い返してみれば一年前の自主ゼミで、

「お前も青田目当てでここに来たんだろ?!」とキレられたこともあった。



あれからまだ一年だ。人生、不思議なことは多い。

それにしてもこの二人、一緒に教養の授業受けてるんだっけ‥。どうやって‥



雪が二人が仲良くなった馴れ初めについて考えを巡らせていると、

不意に静香がこう話し掛けて来た。

「てかさー、淳ちゃんお小遣いとかくれないの?

なんかさっきお金に困ってそうだったじゃん」




さらりと口に出す”淳ちゃん”の名前。

雪はピリピリしながら、静香に向かって釘を刺す。

「ったく‥変なこと言うなら話し掛けないでもらえます?

「アンタ何も言わせてくれないわね」



静香はキョトンとしながらそう言った後、携帯の画面を佐藤に向けて甘えたような声を出した。

「あー!てかさぁ広隆ぁ~!これ超可愛くない?

広隆は女物なんて見ないからよく分かんないかもしんないけどぉ、なんてったって材質が‥」




なんと静香は、雪が見ている前で佐藤にバッグのおねだりを始めたのだ。

雪の頭に乗ったサイレンが、ピコンピコンと点滅を始める。



同じ学科の先輩が、静香の毒牙に掛かるピンチだ。

雪はおねだりを続ける静香を制し、会話の主導権を握るべく身体を乗り出した。

「それにこれ、意外に手頃な値段‥」

「あの!佐藤先輩!財務学会で今週までに提出のアレ、まだやってないですよね?!」

「え?うん‥」「ですか!私もまだなんです!」



雪は強引にガンガン話を進める。

「それじゃご飯も食べ終わったところで、

一緒に図書館行きませんか?!」


「あぁ‥そうするか」



しかし佐藤は、隣の静香が少し気になるようだ。

「でもそれじゃ‥」



携帯片手に呆然としている静香を見て、雪は笑顔でハキハキと話を進める。

「静香氏も一緒に行って勉強すればいいじゃないですか!美術でも税務会計でも!」

「はぁ?静香氏ぃ?」

「それじゃなんて呼びましょうか?」



静香は低い声を出し、雪に向かってこう言った。

「‥いいわ」「そりゃ良かった」「はい!それじゃ‥」



地を震わせるような声で。

「そうするべきかしらねぇええ~~」



顔中怒りに歪めながら、静香は恐ろしいほどのオーラで雪に迫った。

しかし雪も負けていない。こんな彼女と相対するのはもう慣れっこだ。

「仲良くしたいんですよね?私と仲良くしたいんなら、勉強しますよ」



主導権は握った。

そう確信して雪は微笑む。

「いいでしょ?」



ピキッと顔を引き攣らせながら、静香はじっと雪を睨んでいた。

雪は笑顔を崩さぬまま、皮肉を込めた言葉を口に出す。

「就職しなきゃですもんね~?Z企業に」

「まぁ~~このお姉さんのこと考えてくれてちゃってぇぇ~



そんな二人に挟まれて、思わず佐藤は心の中で一句‥。

俺最近 この人達に 振り回されてる(字余り)





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<主導権を握って>でした。

‥今回の佐藤先輩‥これは‥



確信犯ですよね‥?!



スンキさんてば‥。


あとここでの雪の回想↓



一年前の佐藤先輩がキレているのは、雪ちゃんのはずです。髪色は静香ですが‥。

ミスですかね。



そして個人的に銅像に隠れて静香達を窺う亮さんがツボでした。



だんだんと左手事件に近付いて来ている感じですね。

早く真相が知りたい‥!

次回は<似た者同士>です。


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