![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/01/0d/ac3a29362b44a29f858ed5b366d1d0a9.jpg)
顔を両手で覆った雪の叫びが、カフェにこだました。
そんな彼女の目の前に居る彼は、ニコニコしながらその話を聞いている。
「過去問のこと、ごめんね。つい話しちゃって‥」
「あぁぁぁ思わぬ伏兵がぁぁぁ」
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思わぬ伏兵‥それは青田淳のことだった。
彼から貰った過去問のせいで、悩みの種が一つ増えたのだ。
それでも、優秀な人の過去問を貰えたこと自体は素直にありがたい。
いいえ‥過去問ありがとうゴザイマス うんうん
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淳は雪の肩をポンポンと叩いてから、机の上にあるカップに手を伸ばした。
ゆっくりとした口調で、彼は自分の思いを口に出す。
「まぁ‥俺もこれ以上あの子達に良くしてあげる必要性を感じなくて‥もう会社勤めしてるわけだし」
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そして淳は雪のことを見つめながら、さりげなくこう提案した。
「この際、上手く利用してみたらどう?」
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雪は目を丸くした。
もしやもしやと思っていたことが、グレーからブラックへと舵を切る。
この人‥わざとだったのか‥
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目を白くしている雪のことを、淳はじっと見つめながらカップに口を付けた。
試すような、少し観察するような、幾分含みのある視線を投げかけながら。
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雪は別段、それに対して問い詰めることはしなかった。
心のどこかで「やっぱり」と、彼の意図を見抜いていた部分があるからだ。
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けれどそれ以降、二人はもうそのことには触れずに、ただ世間話をしたりして時を過ごした。
ガヤガヤとした喧騒に紛れる二人の会話‥。
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カフェを出た二人は、秋の夜道を歩きながら、また色々な会話を重ねた。
しかし雪の内心はソワソワし始める。
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携帯を取り出して時刻を確認すると、既に20時15分。
今から家に帰ったとしても、軽く22時は超えてしまうだろう。
もうこんな時間‥
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22時過ぎに帰って、そこから勉強スタートだ。
鞄の中にギッチリ詰まったテキストは、雪を焦燥に駆らせる。
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淳はそんな雪の様子を目にして、こう言葉を掛けた。
「最近忙しそうだね」「あっ‥まぁ‥」
「うーん‥」
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「もうちょっと会う頻度減らす?」
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その彼の提案に雪は目を丸くし、思わず彼の方を向く。
いいの?それじゃちょっとー‥
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減らしても構わないなら、正直助かるー‥。
そう思いながら、先輩の方を見上げると‥。
しゅん‥
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先輩は、見るからに寂しそうに項垂れていた。
思わず目が点になる雪。
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そして見る間に、淳の顔がだんだんとふくれっ面になる。
そんな彼を見て、雪は慌てて声を上げた。
「え?あぁぁぁ‥
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「そ、そこまでする必要ないですよ~!ま、臨機応変で!」
「そう?」
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雪がそう返すと、淳はニカッと笑って顔を上げた。
「毎日会うわけじゃないんだしね」
「ですよ!」
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というわけで、二人のデート頻度は現状維持に留まった。
淳はゴキゲンに、雪は合わせて笑いながら、二人並んで歩く‥。
でも今日はもう帰ろうか
はい フフ
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小一時間後、車は雪の家の近くに停車した。
雪は鞄から財布を出すと、用意してあったお金を掴んで彼に渡す。
「これ、ガソリン代です」
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雪からそれを掴まされた淳は、思わず目を丸くした。
「え?これ‥。いやちょっと待ってよ‥」
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そう言って顔を上げた淳の目の前には、指でバッテンを作り、首を横に振る雪の姿があった。
断固拒否
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こうなってはどうやっても返せそうにない。
「ダメですよ、ダメ。もう受け取ったでしょ」
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淳は不本意ながら、お金と共に彼女の律儀さを受け取る。
そして雪はシートベルトを外すと、そのまま車外へと出た。
「それじゃ行きますね。
気をつけて帰って下さい」
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淳は車内を覗く雪を、微笑みながら見つめていた。
付き合いも深くなった現在でも、彼女の律儀さは健在だ。
彼はそんな彼女に、一つアドバイスを与えてやる。
「考えてごらん」
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「どんなにいがみ合ったとしても、最後は皆実利を選んで収まるものだよ。
それは雪ちゃん、君にも良く分かるだろ?」
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![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0c/a2/c79f1ec29ad49ef6380976e2e09f65f7.jpg)
”青田淳から貰った過去問”を巡って、雪の周りの人間が動き始めた。
上辺だけの笑顔と耳あたりの良い言葉は、きっと彼が今まで晒されてきたもの‥。
「‥分かってます」
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雪は彼の意図に触れた後、一人こう考えていた。
そういうことは、既に先輩の周りで十分に目にして来た。
彼らがどれだけ要領良く立ち回るかということは、誰より良く分かってる。
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それが悪いことだとは思わない。
ただ、
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もう少し賢明に対処してみようと思っただけ。
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物事の先を読み、動かす、先輩の意図。
雪は全てを知っていた。
それを受けて、周りがどう動いていくかということも。
そしてそれを知った上で、彼女なりに動いてみようと思ったのだ。
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<先輩の意図>でした。
「過去問を雪にあげた」と、淳はわざと言ったんですね~‥意図を持って。(@@;)
昔ならまた喧嘩になっていただろう事実ですが、雪ちゃんはもう慣れっ子で‥。
彼の性格や考えを受け止めた上で、自分なりにどう対処しようか考えるんですよね。
先輩、雪ちゃん離しちゃあかんよーー!
次回は<主導権を握って>です。
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