亮は絶句した。
目の前の雪が、突然鼻血を出し始めたからだ。
そんな亮の表情を見ながら、雪は不思議に思って彼に尋ねた。鼻の辺りに違和感を感じながらも。
「‥改まってどうしたんです?別にいいですよ、何でダッシュして来てまで謝っ‥」
そして鼻を拭いた手元を見て、雪は目を丸くした。
「ん?」
‥秋の葉色づく構内に、雪の叫び声が響く。
慌てる雪と、呆れる亮‥。
「‥‥‥‥」
暫しアタフタした雪であったが、やがてティッシュで鼻を押さえながら上を向いた。
するとそんな雪に向かって、荒い口調で亮がこう言う。
「頭下げろ!喉まで血が行っちまうだろーが!」
さすが喧嘩で鼻血を出し慣れた亮である。亮はそう言いながら幾分強い力で、雪の頭を押さえ込む。
雪は鼻を押さえながら、どうしてこんなタイミングで鼻血が出るのかと、その間の悪さを呪っていた。
こんな自分は、亮からからかわれるのに絶好のカモだ。
「授業中に鼻でもほじってたんか~?」
案の定亮はそんな雪を見ながら、ニヤニヤと笑ってそう口にした。
違いますよと言い返そうとする雪に、亮は缶ジュースを寄越してその反論を封じ込む。
雪がジュースを受け取って黙りこむと、亮は幾分得意そうな顔でこう言い始めた。
「頭に血でも上っちまったか?度々そうなった女共を見て来たけどよ‥。
オレのセクシーさに耐えることが出来なくて‥」
「もう!バカな事言わないで下さい!」
怒ってそう言い返す雪に、亮はニヤリと笑って更に続ける。
「おい、正直なところを言ってみろって」「何をですか?」
そして亮は己の顎に指を添わせダンディー(?)なポーズを取ると、雪に向かってこう質問した。
「マジで客観的に見て、正直淳よりオレの方がイケメンじゃね?公平に顔だけ見たら、だぜ。
高校の時も論争になってよ‥」「何言ってるんですか‥この人は‥」
呆れながら流そうとする雪に対し、亮は尚も食い下がった。
スペックやこれまでの経緯など全部取っ払って顔だけ見た時に、どちらがよりイケメンなのか、と。
雪はニヤッと笑いながら、亮に向かって口を開く。
「そりゃあもちろん‥」
そして亮の方を振り返った雪が目にしたのは、
可愛い仕草で自分を見つめる、亮の姿‥。
雪は一瞬言葉を忘れ、目の前にある亮の顔に見入っていた。
しかし次の瞬間笑顔を浮かべ、用意したその台詞を口にする。
「もちろん青田先輩ですよ」「今躊躇ったな?」「チガイマスヨ。ワタシガイツ?」「棒読みじゃねーか」
雪は本心を亮から見破られ、彼から目を逸らして口元を手で覆った。
実のところ雪は、濃い顔の男性がタイプなのだ‥。
「オッケー了解ッ!!客観的評価頂きましたァ~!」
亮は高らかに笑いながら、雪の本心を汲み取って彼女をからかう。
「いや~どうしよっかなぁ~!日頃から気をつけなきゃいけなかったのに、
鼻血まで流させちまって‥マジイケメンでゴメンナサイね」
「違いますってば!!」
雪は真っ赤になりながら、必死になって否定した。
と同時に、その勢いで鼻に詰めていたティッシュがポンと外れる。
「うおっ!何してんだ!ティッシュ貸せティッシュ!」
亮は慌てながら、雪の膝の上に載っていたティッシュを何枚か引き出した。
「ったくよぉ!どーしてお前はこうなんだよ!」
亮はティッシュを雪の鼻に当てながら、強い口調でそう口にする。
その言葉の奥の方に、彼女を心配する優しさを込めながら。
鼻に当てられた大きな手の平越しに見える、彼の顔。
雪は瞬きも出来ないままに、その眼を見開いてじっとその顔を見ていた。
鼻から喉へ、赤い液体が落ちて行く。
その光景は雪の心に、赤い痕跡を残して行く‥。
亮はティッシュを手で押さえながら、どうして彼女が鼻血を出しているのかを思って眉をひそめた。
目の前にある彼女の顔はどこかやつれて、目の下には若干のクマも見える。
「ったくなんなんだよこのザマは。お前、最近すげーキツイんじゃね?」
「ほら、頭下げろって!」
「お前一日の睡眠時間はどのくらいだ?寝れてんのか?睡眠時間が足りねーからこんな‥」
雪は頭を下げた姿勢でも尚、亮の顔を見続けていた。
心の中に赤い痕跡がポタポタと、ゆっくり、しかし色濃く残って行く。
「疲れてんのにどうして午前中仕事すんだよ。その分寝てから大学に来るべきだろーが」
少し厚めで形の良い唇が、自分を心配する言葉を紡ぐ。
雪は鼻に当てられた亮の大きな手を意識しながら、
「自分でやりますから‥」と言って彼の手からティッシュを受け取った。
雪は自分で鼻を押さえると、さっと亮から視線を逸らした。
亮はそんな雪を見ながら、呆れるように小さく息を吐く。
そして亮は、疲れて見える雪に対してこう声を掛けた。
「お前家帰ったらよぉ、母親にスタミナのつく牛骨スープでも作ってもらえよ。分かったな?」
亮は色々と気苦労の多い雪を心配していた。
「もうあのおかしなヤツもいなくなったことだし、もっと気を楽に持てよ。
‥ったく、服にもついてら」 「あ‥すいませ‥」
雪は彼の服に自分の鼻血がついてしまったことを謝りつつ、この間のことについて礼を述べた。
「あ!そういえばスプレー、本当にありがとうございました!
あいつの目、パンパンに腫れたと思いますよ。まともに見れなくて残念です、本当に!」
亮は「そっか」と言って満足そうに笑った。
「ほら見たか!オレのそんけんの明!」と言い間違う亮に、雪が苦笑いで「先見ね‥」と言い直す。
すると不意に亮は大きな声を出し、パッと顔を上げた。
「あ!んじゃオレ行くわ。遅刻したらまた殴られちまう」
「あ、はい」「お前も授業行けよ」
そして亮はジャケットを羽織ると、雪に背を向けて後ろ手に手を振った。
「家でちゃんと休めよ!」
ザクザクと、亮は落ち葉を踏みながら去って行く。
雪は暫くベンチに腰掛けたまま、亮の後ろ姿をじっと見つめていた‥。
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<赤い痕跡>でした。
こ‥これは‥
この自然の風景の中で時が止まる感じ‥
この場面とかぶります。。
ひぃ~どうなるの?!とハラハラですが、作者さんのブログでは来月休載とか‥。
まだまだ先は長いかもですね‥。
というか、雪ちゃんの好みのタイプって濃い顔(亮>淳)だったのか‥!とビックリでした。。
今回のハイライトは、やっぱりこのキュート亮さんですね~^^
亮派の皆様には堪らないショット!いいなぁイケメンは‥。
次回は<覗く素顔>です。
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