Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

赤い痕跡

2014-10-24 01:00:00 | 雪3年3部(二人の弟~痕跡の正体)


亮は絶句した。

目の前の雪が、突然鼻血を出し始めたからだ。



そんな亮の表情を見ながら、雪は不思議に思って彼に尋ねた。鼻の辺りに違和感を感じながらも。

「‥改まってどうしたんです?別にいいですよ、何でダッシュして来てまで謝っ‥」



そして鼻を拭いた手元を見て、雪は目を丸くした。

「ん?」



‥秋の葉色づく構内に、雪の叫び声が響く。

慌てる雪と、呆れる亮‥。








「‥‥‥‥」



暫しアタフタした雪であったが、やがてティッシュで鼻を押さえながら上を向いた。

するとそんな雪に向かって、荒い口調で亮がこう言う。

「頭下げろ!喉まで血が行っちまうだろーが!」



さすが喧嘩で鼻血を出し慣れた亮である。亮はそう言いながら幾分強い力で、雪の頭を押さえ込む。

雪は鼻を押さえながら、どうしてこんなタイミングで鼻血が出るのかと、その間の悪さを呪っていた。

こんな自分は、亮からからかわれるのに絶好のカモだ。

「授業中に鼻でもほじってたんか~?」



案の定亮はそんな雪を見ながら、ニヤニヤと笑ってそう口にした。

違いますよと言い返そうとする雪に、亮は缶ジュースを寄越してその反論を封じ込む。



雪がジュースを受け取って黙りこむと、亮は幾分得意そうな顔でこう言い始めた。

「頭に血でも上っちまったか?度々そうなった女共を見て来たけどよ‥。

オレのセクシーさに耐えることが出来なくて‥」


「もう!バカな事言わないで下さい!」



怒ってそう言い返す雪に、亮はニヤリと笑って更に続ける。

「おい、正直なところを言ってみろって」「何をですか?」



そして亮は己の顎に指を添わせダンディー(?)なポーズを取ると、雪に向かってこう質問した。

「マジで客観的に見て、正直淳よりオレの方がイケメンじゃね?公平に顔だけ見たら、だぜ。

高校の時も論争になってよ‥」
「何言ってるんですか‥この人は‥」



呆れながら流そうとする雪に対し、亮は尚も食い下がった。

スペックやこれまでの経緯など全部取っ払って顔だけ見た時に、どちらがよりイケメンなのか、と。



雪はニヤッと笑いながら、亮に向かって口を開く。

「そりゃあもちろん‥」



そして亮の方を振り返った雪が目にしたのは、

可愛い仕草で自分を見つめる、亮の姿‥。







雪は一瞬言葉を忘れ、目の前にある亮の顔に見入っていた。

しかし次の瞬間笑顔を浮かべ、用意したその台詞を口にする。

「もちろん青田先輩ですよ」「今躊躇ったな?」「チガイマスヨ。ワタシガイツ?」「棒読みじゃねーか」



雪は本心を亮から見破られ、彼から目を逸らして口元を手で覆った。

実のところ雪は、濃い顔の男性がタイプなのだ‥。

「オッケー了解ッ!!客観的評価頂きましたァ~!」



亮は高らかに笑いながら、雪の本心を汲み取って彼女をからかう。

「いや~どうしよっかなぁ~!日頃から気をつけなきゃいけなかったのに、

鼻血まで流させちまって‥マジイケメンでゴメンナサイね」


「違いますってば!!」



雪は真っ赤になりながら、必死になって否定した。

と同時に、その勢いで鼻に詰めていたティッシュがポンと外れる。

「うおっ!何してんだ!ティッシュ貸せティッシュ!」



亮は慌てながら、雪の膝の上に載っていたティッシュを何枚か引き出した。

「ったくよぉ!どーしてお前はこうなんだよ!」



亮はティッシュを雪の鼻に当てながら、強い口調でそう口にする。

その言葉の奥の方に、彼女を心配する優しさを込めながら。



鼻に当てられた大きな手の平越しに見える、彼の顔。

雪は瞬きも出来ないままに、その眼を見開いてじっとその顔を見ていた。



鼻から喉へ、赤い液体が落ちて行く。

その光景は雪の心に、赤い痕跡を残して行く‥。









亮はティッシュを手で押さえながら、どうして彼女が鼻血を出しているのかを思って眉をひそめた。

目の前にある彼女の顔はどこかやつれて、目の下には若干のクマも見える。

「ったくなんなんだよこのザマは。お前、最近すげーキツイんじゃね?」



「ほら、頭下げろって!」



「お前一日の睡眠時間はどのくらいだ?寝れてんのか?睡眠時間が足りねーからこんな‥」



雪は頭を下げた姿勢でも尚、亮の顔を見続けていた。

心の中に赤い痕跡がポタポタと、ゆっくり、しかし色濃く残って行く。

「疲れてんのにどうして午前中仕事すんだよ。その分寝てから大学に来るべきだろーが」



少し厚めで形の良い唇が、自分を心配する言葉を紡ぐ。

雪は鼻に当てられた亮の大きな手を意識しながら、

「自分でやりますから‥」と言って彼の手からティッシュを受け取った。



雪は自分で鼻を押さえると、さっと亮から視線を逸らした。

亮はそんな雪を見ながら、呆れるように小さく息を吐く。



そして亮は、疲れて見える雪に対してこう声を掛けた。

「お前家帰ったらよぉ、母親にスタミナのつく牛骨スープでも作ってもらえよ。分かったな?」



亮は色々と気苦労の多い雪を心配していた。

「もうあのおかしなヤツもいなくなったことだし、もっと気を楽に持てよ。

‥ったく、服にもついてら」
 「あ‥すいませ‥」



雪は彼の服に自分の鼻血がついてしまったことを謝りつつ、この間のことについて礼を述べた。

「あ!そういえばスプレー、本当にありがとうございました!

あいつの目、パンパンに腫れたと思いますよ。まともに見れなくて残念です、本当に!」




亮は「そっか」と言って満足そうに笑った。

「ほら見たか!オレのそんけんの明!」と言い間違う亮に、雪が苦笑いで「先見ね‥」と言い直す。



すると不意に亮は大きな声を出し、パッと顔を上げた。

「あ!んじゃオレ行くわ。遅刻したらまた殴られちまう」

「あ、はい」「お前も授業行けよ」

 

そして亮はジャケットを羽織ると、雪に背を向けて後ろ手に手を振った。

「家でちゃんと休めよ!」



ザクザクと、亮は落ち葉を踏みながら去って行く。

雪は暫くベンチに腰掛けたまま、亮の後ろ姿をじっと見つめていた‥。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<赤い痕跡>でした。

こ‥これは‥



この自然の風景の中で時が止まる感じ‥

この場面とかぶります。。



ひぃ~どうなるの?!とハラハラですが、作者さんのブログでは来月休載とか‥。

まだまだ先は長いかもですね‥。

というか、雪ちゃんの好みのタイプって濃い顔(亮>淳)だったのか‥!とビックリでした。。

今回のハイライトは、やっぱりこのキュート亮さんですね~^^



亮派の皆様には堪らないショット!いいなぁイケメンは‥。


次回は<覗く素顔>です。


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不意打ち

2014-10-19 01:00:00 | 雪3年3部(二人の弟~痕跡の正体)


結局奇行に走った亮とはそのまま別れ、雪はお昼前の授業に出るため大学へ向かった。

身体の疲れは取れず、授業が終わった時、雪は机に突っ伏した状態だった。

「雪、なんかいつもよりダラケてない?」「逝ってしまわれましたネ」



雪の両隣に座った聡美と太一が、微動だにしない雪を挟んで会話する。

「季節の変わり目は疲れやすくなりますからネ」

「あんたこそバイトしすぎなんじゃないのー?」



聡美は暫し雪が自分から起きるのを待ったが、まるで目を覚ます気配が無いので、

しょうがなく揺り起こすことにした。

「てかこの子寝る前にノート取ったのかなぁ?おい、起きろっ!授業終わったよ!」

「あ、」



すると不意に太一はあることを思い出し、聡美に向かって話を切り出す。

「後で雪さんと一緒に夕飯食べに来ませんカ?」

「アンタの家に?」「姉ちゃん達が一度会いたいって‥」



その「太一+小姑三人からの実家ご招待」に聡美は幾分戸惑い、雪は「ご飯」の話題に反応する。

「ね、姉ちゃん達か‥」「ごはん‥」



ようやく目を覚ました雪が、ヨダレを拭きながら言う。

「ご飯食べに行こ、ごはん‥」 「起きたか‥」








三人は学食に移動して、そこで昼食を取った。

目の下にクマが出来ている雪を見て、聡美が「アンタ何時間寝れてるの」と雪の身体を心配する。

「ん?」



雪はもぐもぐとご飯を食べながら、不意に近くの通路を見知った顔が歩いているのに気がついた。

聡美と太一は雪の視線の先には気づかず会話を続ける。

「てか横山のヤツ、大学来てないよね?w」

「来れないデショ」



そこに居たのは、蓮と恵だった。二人は楽しそうにお喋りをしながら歩いている。

するとそこに、柳瀬健太が通りがかった。

三人がすれ違うその瞬間、健太の影に居る蓮の動きが止まる。



健太が通り過ぎた後で雪の目に入って来たのは、足を押さえて跳ねる蓮と、そんな蓮を心配する恵の姿だ。

健太は振り返りもせずに、「あーすいませーん」とその不意打ち攻撃に対する口だけの謝罪をする。



雪はその場面を見て顔を顰めた。

未だ恵にこだわっている柳瀬健太に、嫌な感情を感じずにはいられない‥。






昼食後、雪は聡美と太一と別れ、一人授業へと向かった。

紅葉で色づく構内を歩きながら、雪は大きな声で不満を垂れる。

「てか蓮はもうここで暮らし続けるの?!無駄に健太先輩から喧嘩ふっかけられてからに!

もう勉強は止めるってこと?!色々聞こうとしてもそれとなく逃げられて‥もう!」




日々に甘んじてアメリカに帰らない蓮に対する雪の不満は、もう爆発寸前だ。

雪はプリプリと怒りながら、早足で構内を歩く。

河村氏にもガツンとやってもらわなきゃ。

蓮、お前はもう死んでいるッ




すると後方から、凄い勢いで近づいて来る足音が聞こえて来た。

雪は不思議に思い、思わず振り向く。



するとそこに、凄い形相で迫り来る河村亮の姿があったのだった。

「ダメージヘアァー!!!」「?!」



走り過ぎて声がガラガラの亮が、ゼェゼェと息を切らせて彼女の愛称を口にする。

雪はあまりに驚きすぎて、「ナッ!ナッ!ナッ!」と言いながらそこらの木にしがみつく。



亮は汗をダラダラ流しながら、雪を睨んでこう言った。

「ダメージ‥クッソ‥足早ぇんだよ‥ったくよぉ‥」

 

突然の変な登場で驚かされた上に、自分に対して文句を言われた雪は、思わず亮を前にしてピキッと来た。

雪はツカツカと亮の方へと歩き出し、彼に向かって強く言う。

「あのねぇ!河村氏!普通に呼ぶか電話でもすればいいでしょ!

一体なんなんですか!




そのまま肩で息する亮に対し、雪は朝の出来事も含めて彼に文句を言う。

「もしかして昨日メールを返せなかったことへのあてつけ?!うーわこんなことするんだ?!」



するとそれまで黙っていた亮が、バッと顔を上げ、突然上着を脱ぎ始めた。

「ったく知るかっ!」



「何してんですか!」と青くなって周りを気にする雪など気にせず、

亮はTシャツ一枚になってその場に座り込んだ。



亮は未だ息を上げながら、汗を流し続ける。

「あーもうマジ、ダッシュして死ぬかと思ったぜ‥」

「だからなんでダッシュして来てんですかって!」



こんな格好で座り込まないで下さい、と雪は注意するが、亮はその場から動かなかった。

高い秋の空を見上げながら、自分がここに来た訳を口にする。

「だから‥」



「ゴメン‥」



亮は空を見上げたままの格好で、一言ゴメンと口にした。

雪は目を丸くしながら、「はい?」と聞き返す。



亮は、幾分決まり悪そうな顔をしながら口を開いた。

「‥さ、さっき‥変に腹立てたりしてよぉ‥」



亮は朝の自分の振る舞いを後悔して、謝罪をするためにこうして走って来たのだった。

息を切らせて、全身に汗をかきながら。



亮は気まずそうに顔の辺りを手で触れながら、ようやく整って来た呼吸を落ち着け、再度それを口にした。

「ゴメン‥」



亮が二度目の謝罪を口にしても、雪が黙っているので、亮はチラリと彼女の方を窺ってみた。

するとそこには、その不意打ち攻撃に当てられた彼女が、鼻血を垂らしてこちらを見ている‥。



「‥‥‥」






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<不意打ち>でした。

太一の家への夕食招待!地味にすごくそれが気になってます。

お姉ちゃん達、弟の好きな子見たいんだろうな~と。笑

太一にそっくりな三人の姉達↓



そして悪いことをしたと思ったら、全力でダッシュして謝りに行く亮さん!

いやはやもう‥いい奴過ぎて何も言えません^^;

次回は<赤い痕跡>です。


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一人相撲

2014-10-18 01:00:00 | 雪3年3部(二人の弟~痕跡の正体)
モゾモゾと、布団の中で雪は動いていた。

どんな風に体勢を変えても、どこかシックリ来なくて。



結局元の仰向けに戻っても、しんどいのは変わらなかった。身体がズシリと重く感じられる。

‥全身がベッドにギュ~ッと押し付けられる感じ‥



雪は息を吐きつつ、再びモゾモゾと布団の中で身体を動かす。

緊張が解けたからかなぁ‥。そういえば今まで色々あったからな‥。

先輩とも、やっと仲直り出来たし‥




「‥‥‥」



雪はぼんやりと、彼と仲直りした先程のことを思い出していた。

ゴロン、と頭の向きを変えながらその記憶を思い出しては、ほんのりと頬を染める。



記憶の中の彼との時間が心をくすぐり、思わず雪は笑顔になった。

ふふ、と小さな声が漏れる。



雪は枕元に置いていた携帯に手を伸ばすと、メールの送信画面を開いた。

彼にメールを打ち始める。

 

先輩‥ちゃんと‥帰れましたか?私は今から‥寝ようと‥



くすぐったい気持ちが雪の瞼まで撫でたのか、雪はメールの最中、次第に眠気が襲って来るのを感じた。

そしてふっと意識が遠のいた瞬間、額に鋭い衝撃が走る。

「あだっ!」



ゴン、という音と共に、携帯が雪の額に落下した。

雪は額を押さえながら、そこに響く痛みに悶絶する。



そしてそのままドスンと、雪はベッドの下に落ちた。

額のみならず身体にまで、鈍い痛みが駆け巡る。







そして暫しそこで悶絶し、「うぅぅ‥」と声を上げていた雪だったが、

その声も次第に小さくなり、じきにそれに代わるように寝息を立て始めた。



解けた緊張と安堵の中で、雪は眠りの世界へ入って行った。

くぅくぅと響く彼女の寝息が、夜が明けるまで部屋に響く‥。







翌朝、雪は食堂の開店業務に追われていた。

慌ただしくテーブルをセッティングする中、店のドアが開き、雪は元気よく挨拶する。

「いらっしゃい‥」



しかし雪は途中で言葉を止める。

そこに居たのは、数日ぶりに目にする河村亮だったからだ。



雪は亮の姿を目にすると、パッと笑顔を浮かべた。

「あ!河村氏だ!」



雪からそう言われても仏頂面の亮だが、雪はそれに気づかずにニコニコと亮に近付いた。

「来られたんですね?私今日は午後授業なので、仕事してから行こうかと思って。

河村氏も今日は大学行く日じゃないですか?」




雪が話し掛けても、亮は無言のままだった。

それでも雪はそれにも気づかず、上機嫌で話を続けようとする。

「あ、それとこの間河村氏がくれたスプレー‥」



雪は以前亮から貰った防犯用スプレーのことを口に出そうとしたが、亮は苛立ちに口元をひくつかせながら、

低い声でそれを遮るようにして話し始めた。

「‥昨日お前の家族が連絡しまくってたけど、知んなかったのか?」



突然亮が口にしたその話に、雪は目を丸くした。

慌ててポケットから携帯を取り出す。

「え?そうでしたっけ?」「遅くなっておいて、なんで返信もしねーで‥」

「家に帰っても皆特に何も言わなかったんで気づきませんでしたよ」



そして今になって、ようやく雪は昨夜の着信履歴やメール履歴をチェックした。

「あれ?河村氏もメールくれてたんですね。うわーお母さん超怒って‥」

「もう知るかっ!!



くわっと亮は口を開き、大声でそう言って雪を押し退けた。

「どけっ!! 「??!!」



雪は突然怒り出した亮を前に、彼の態度が分かりかねて戸惑う。

な、なんなの‥?今そこ怒るとこ?



亮は雪に背を向けながらエプロンをつけると、音を立ててジャンパーをテーブルに叩きつけた。

そして亮は荒々しい仕草でモップ掛けを始める。



しかしその仕事の乱暴なことといったら‥。見ている雪も口をあんぐりである。

おまけにモップを掛ける道すがら、亮はテーブルに勢い良く手をぶつけて悶絶した。

「あだっ!」



それを見た雪は驚いて、思わず亮に駆け寄って声を掛ける。

「大丈夫ですか?!ピアニストは手、気遣わないと!何やってるんですかっ!」



亮を心配してそう口にする雪に対しても、亮はただむっつりと黙っているだけだった。

ぐっと歯を食いしばりながら、白目になって雪を睨む。






雪はじっと亮を観察しながら、彼がどこか変なことに気がついた。

恐る恐る、彼の肩に手を伸ばして聞いてみる。

「まさか‥朝から酒を飲んで来たんじゃ‥」

「‥すんな」



雪の言葉を被るように、亮が小さく口を開いた。

「え?」と聞き返す雪に、亮は拗ねたような口調でこう口にする。

「大切にするフリなんかすんな‥」






雪は、亮が口にしたその言葉の意味が分からなかった。

とりあえず先程までの会話の経緯を整理して、分かる範囲で亮に聞いてみる。

「どうしたんですか?

もしかして、メール無視したの怒ってるんですか?」




その雪の言葉に、亮は苛立ちを隠し切れずに大きな声を上げた。

「あらあら違いますわよぉ?!怒っちゃいませんわぁ!

あたくしを何だと思ってらっしゃるのかしらぁ~?!」




亮はなぜかオネエ口調でそう雪に言い返すと、一人笑いながら外へ出て行こうとした。

「は!は!は!ふあっ!」

「どこ行くんですか?!」



真っ青になりながらそう問う雪に、ドスの利いた声で亮が返す。

「スーパー!!」



雪は亮のその声と眼力に、もう何も言えず彼を見送った。

「は!は!は!」と亮は一人笑いながら、スーパーへと出掛けて行く‥。



やがて亮の背中が見えなくなっても、雪は依然として唖然呆然の体であった。

な‥なんなのあれ‥マジで‥



突然の奇行に走った亮に思いを馳せつつ、雪は大あくびをする。

まだ一日は始まったばかりだが‥。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<一人相撲>でした。

夜、一人で携帯を額に落っことす&ベッドから転げ落ち、痛みに悶絶する雪と、

昨夜雪の帰りが遅いことをあんなに心配したのに全く気に留めてない雪に苛つく亮と。

どちらもなんだか一人相撲の空回り‥という印象を受けたので、題名を<一人相撲>としました^^;

それにしても亮さん、挙動不審すぎる‥笑


次回は<不意打ち>です。


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夢の対価

2014-10-17 01:00:00 | 雪3年3部(二人の弟~痕跡の正体)
亮は劣等感に苛まれながらも、結局雪と淳の前に姿を見せること無く家路に着いた。

途中コンビニでアイスを買い、家に帰ると、それが入った袋を掲げながら、姉に対して口を開く。

「おい、これ食え‥」



静香は携帯電話の操作を続行しながら、

「あーサンキュー。こっち投げて」と口にした。



そこで亮の目に入って来たのは、見たことの無い静香の携帯だった。

思わず白目になる亮‥。



亮はいかめしい形相をしながら、静香の手首を強く掴んだ。

「また変えたのか?!お前マジで新しい携帯買う金がどこにあんだよ!」「えっ?」



頭に血が昇った亮は、そのままくどくどと説教を始めた。

「貰ったんなら誰に貰ったかハッキリさせろよ!またオレに濡れ衣着せずに!

ここはwi-fiもねぇってのに、一体通話料幾ら掛かってんだよ!え?!それに淳に貰った携帯はどうした?!」




小うるさい弟に、静香は辟易しながら「アンタに何の関係があんの?それ知ってどーすんのよ」とブツクサ言い返すが、

亮にも亮の言い分があった。

「オレも大体の状況を把握しとかねーと。

それにお前が淳から貰った携帯を捨てたはずねぇし‥」


「それはもう返したけど?」



すると静香は亮が言い終わるより先に、さらりとそう切り返した。

亮は首を傾げながら、静香の口にしたその言葉を反復する。

「は?返したぁ?淳に?」



静香はケロリとして「うん」と頷いたが、亮はその言葉が信じられずに尚も絡んだ。

静香はアンタには関係ないじゃんと言って、ウザったそうにする。



すると静香は思いついたようにニヤリと笑って、弟に対してこう話し出した。

「あ、そうだ。ねぇ最近あんたら、どうしてこんなに笑っちゃうよーなことばっかなの?

あんたもそうだし淳ちゃんもそうよ、なんでそんなにこだわんの?」




その突然振られた話題を、亮は理解出来ず「何の話だ?」と聞き返した。

すると静香は少し間を開けた後、もったいぶるようにしてこう言った。

「社・長・令・嬢のハナシ~」



社長令嬢‥。それは雪のことに他ならない。

亮が何も言い出せずにいると、静香は甲高い声でケラケラと笑う。



静香は笑いながらソファに寝転がると、腹を抱えて言葉を続けた。

「やめとけやめとけアンタも淳ちゃんも~あの子とはマジ似合わないじゃんよ~もう笑っちゃうわよマジで‥」

「だから何の話かって!」



依然として話が掴めない亮が、再度静香に聞き返す。

すると姉はニヤリと笑ったまま、面白そうにこう言った。

「アンタ、今回淳ちゃんがどれだけ面白いことしたのか分かってる?」



そして静香は語り始めた。

自分と淳の間に取り交わされた、虎と狐の取引きの経緯を‥。







静香の話が終わった時、亮は無意識の内に握っていた拳を震わせていた。

怒りを噛み殺しながら、冷静なトーンで確認する。

「それで‥取引の条件は何だったんだ‥?」



弟からのその問いに、静香は「う~ん」と言葉を濁した。

「取り敢えずデビットカードと最近買ったアレとソレは返してもらったけどぉ、

クレジットカードとアレとソレはまだなのよぉ。あ、後の携帯は他の男から貰ったやつよ」


「アレとソレってなんだよ?!」



亮は、姉のその曖昧な物言いに腹が立ち、思わず声を荒げて言い返した。

すると静香はサッと顔を上げ、不意にその言葉を口に出す。

「あ、美術」



眉をひそめた亮が問う。

「美術?」「うん。また美術をしたければ、したらいいってよ?」



静香は手に入れた戦利品を眺めながら、淳から聞いた話を亮に教えた。

「マジでちゃんと学校まで調べてくれるってよ。会長にもよく言っておいてくれるって。

そろそろあたしも再開したかったしー」




静香のその話を聞いて、亮の脳裏に淳の顔が思い浮かんだ。

そして自然と、口からはこんな言葉が零れ出す。

「‥アイツが、んなこと簡単に口にするってのかよ?」



そう言ってから、亮は急に口を噤んだ。

まるで無意識の中から不意に出たその言葉に、戸惑ったような表情をしながら。



暫し沈黙していた亮だが、やがて不意に笑い出した。

「は‥はは!自分の夢も情熱も無いお坊ちゃんがよ!」



亮の脳裏に、高校時代の淳が浮かんだ。

「勉強の他に何かしたいことはないのか、なりたいものはないのか」と聞いた時、

キョトンとした顔で、「考えたことない」とポツリと一言口にした淳‥。



心の奥が皮肉に歪む。

隠して来たその記憶が、胸を揺さぶる。

「んな簡単に‥人の夢を‥利用して‥」

 

亮は、我知らず動揺していた。

あの日直面したあの男の核心と、先程姉から語られたその言葉のズレが、亮の心を刺激する。



最後に亮は、呟くように再度こう口にした。

その声は、微かに震え、掠れていた。

「んな簡単に‥」










トン、トンと、どこからか音がする。

それは昔聞いた音。



外から聞こえて来たのか、自分の中に響いていたのか、

それは定かではない。



トン、トンと、その音は規則的に時を刻む。

目に入る風景を、徐々に歪ませながら。



トン、トン、トン、トン。

トン、トン、トン、トン。



徐々に大きくなる音。

その音は、亮の左手に向かい迫った。

そしてその音が止む時、亮の希望も未来も、夢も情熱も全て、



消えた。







「!!!」



ガバッと、勢い良く亮は飛び起きた。

はぁ、はぁと息が荒い。全身に汗が噴き出し、心臓がドクドク暴れている。



亮は暗がりの中で、自分の左手を眺めた。

希望から絶望まで、その全てを知った左手を。



先程見た夢の中の光景と、あの過去の暗い記憶が重なる。

亮は無言のまま、自身の左手を眺め続ける。



汗が止まらないくせに、指先が冷たくて震えていた。

感覚の無くなった左手の記憶が、亮を縛って彼を恐れさせる。



そのまま亮はブルブルと震えながら、目の前にあったブランケットをぐっと握り締めていた。

タンクトップ一枚の彼の肉体は屈強に見えるが、今亮は蘇ったその恐怖に、ただ震えるしか出来なかった。



夢も情熱も無い一人の男に握り潰されたのは、かけがえのない未来と希望。

許せなかったのは、人の夢を取引の対価として利用した、その男の核心ー‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<夢の対価>でした。

亮は自分が失ったものがどれだけ重くて大きなものだったのか分かっているから、

その夢を潰した自覚の無い淳が許せないんでしょうなぁ。

といっても何があったのか真実を知るまで迂闊になにも言えませんが‥。


しかし亮さんマッチョですな!!

そんな彼が過去を思い出して震えている‥。一体何があったのか、そろそろ知りたいですね^^;


次回は<一人相撲>です。

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劣等感

2014-10-12 01:00:00 | 雪3年3部(二人の弟~痕跡の正体)


気がついたら、亮は駆け出していた。

思い出す数々の高校時代の記憶と共に、先程目にした雪と淳の姿が頭から離れない。



ぐしゃぐしゃと頭を掻きながら、騒ぐ胸の内を一人持て余す。

そうだよな‥付き合ってんだから当然‥



偶然見てしまった仲の良い二人の姿に、亮は動揺していた。

愛おしそうに彼女の頬にキスをする彼と、くすぐったそうにそれを受ける彼女‥。






思い出すにつれ、亮はだんだんとイライラし始めた。

二人がどうこうというよりも、亮は自分に対して腹が立つ。

「クッソ‥!バッと飛び出して馬鹿騒ぎすりゃ良かったのに!

なに慌てて走り去ってんだオレは!バカなのか?!アホなのか?!」




荒れた亮は、そこに転がったゴミバケツを蹴っ飛ばした。

肩で息しながら、亮はこう考える。

いやいや‥あそこで登場したところで‥



亮は、もし自分があの場面で二人の前に飛び出したなら、という場合を想像した。

「あっれれのれ~♪あれあれあれれ~♪♪」



面白がってそう言いながら二人の前に飛び出したなら、

おそらく二人は目を丸くしてキョトンだろう。



そして自分の目に留まるのはきっと、

淳の持っている高級外車や、きちんと仕立てられた品の良い洋服‥。

 

そしてそんな彼らの前で自分は、何も言葉を続けられずに黙ってしまうだろう。

着古したクタクタの洋服に身を包んだ、カップルの空間に無粋に飛び込んだお邪魔虫として‥。





どーしちゃったんだよマジでオレは!!



亮は再び腹が立ち、辺りにあるものを闇雲に蹴ったり転がしたりする。

どうしてこんなにコンプレックス感じてんだよオレは!しかも想像の世界で!

あの家から出て来た後も、持ってるもんが一つも無くても、一度も他人に引け目なんて感じなかっただろーが!




そう思う心の中とは裏腹に、瞼の裏には先程の光景が蘇る。

オレはそんなん感じる必要なんてねぇんだ‥!



そんなん感じる必要なんて‥






淳と笑い合う彼女の横顔を目にしながら、亮は様々な場面が頭の中に浮かび来るのを感じていた。

まるで赤山家の一員になったみたいに、家族の食事会に紛れ込んだ時のこと。



雪の父と母と弟に混じって、葉の色づいた秋の道を一緒に歩いた。

それでも自分はあの店の従業員で、家族になったわけじゃない‥。




続けて浮かんで来たのは、地方で働いていた時の場面だった。

肉体労働はキツかったけれど、気の合う仲間と笑いながら日々を過ごした。

収入が少なくても、綺麗な服なんて着なくても、自分は自分だった。

恥じることなど一つも無かった。


「高卒認定試験を一度受けてみたらどうですか?」



大学の図書館で、雪は自分に向かってそう提案した。

そんな彼女は名門大学の優等生で、自分は高校中退で学のないフリーター。

そんな現実を、じわじわと実感する。


「わ~これが大学なのね~」



姉と共にA大内を歩いた時、彼女は初めて見る大学のキャンパスにはしゃいでいた。

自分だって初めて来た時は、ソワソワしながら音大の方へ足を運んだ。

そこは自分達姉弟にとっては、非日常の光景だった。


「ねーちゃんは超勉強頑張って、良い会社行くだろーねー

俺はどーしよー」




軽く息を吐きながら、蓮はそう言った。

それでも彼は今アメリカの大学に通っている大学生で、自分とは違うのだ。

どんなに気安い間柄で、同じ冗談に笑い合っていたとしても。




今まで気にしたことの無かったそれに、亮は今縛られていた。

心の中に居るのは、先程まで思い出していた高校時代の自分。

甘い夢を見ていた、将来あるピアニスト‥。



あの頃にはおよそ持ち得なかったその感情が、今亮を縛っていた。

それは一人で生きている内は気づくことのなかった、劣等感という感情だった。




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<劣等感>でした。

淳もそうですが、雪と関わり合う中で無意識に自分が抱えていた感情に気づく、

というのがこの漫画の肝なのかなと思いました。

(亮の場合は劣等感、ピアノへの思い、淳の場合は孤独、狂った価値観など‥)

といってもまだ進行形でしょうが‥。


切ない亮さん‥。


次回は<夢の対価>です。


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