Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

連鎖の残像

2013-09-07 01:00:00 | 雪3年2部(グルワ発表~知れば知るほど)
「え?」



雪は耳を疑った。先ほど言った聡美の一言は、それほど雪にとって予想外の一言だった。

なんであたしばっかり悪者にするの?!



雪は聡美に詰め寄った。

「私がいつあんたを悪者扱いしたのよ?なんでそうなるの?!」



雪はただ、今の自分の状況をうっかり口にしてしまっただけだったのだが、

聡美はそれを自分の非が責められているかのように感じていた。

「あたしが空気読めないこと言う度に、内心イライラしてたんじゃないの?! 

あたしは別にあんたをムカつかせたくて言ってるんじゃないわよ!

少しでもそれらしきことを言ってくれたら、あたしだってこんなに言わないのに!」




聡美の言葉を受けて、雪は先ほど漏らした本音を自分がどう思っているかを伝えようとした。

「家の事情や奨学金のことは、私個人の問題でしょ?!そんなこと重くて言えるわけないじゃない!

言ったところで解決出来るわけでもないのに!










静寂が緑道に佇む三人を包む。

聡美は雪の言葉に、モヤモヤとした感情を覚え、

「そう言うことを言ってるんじゃない」と、絞り出すように声を出した。



そして聡美は、前々から気になっていたことを話し始めた。

去年、横山翔が雪にストーカー行為を行なっていたことについてだ。

「横山の件だってそう。あんな大事なこと‥。あたしは太一に後から聞いたのよ。

休み前のテストの時から変だったって!それなのに、あたしは何も知らなかった‥!」




再び三人を包む静寂。

今度は雪の心の中に、モヤモヤとした感情が現れる。



俯いた聡美に声を掛けようと雪が口を開きかけた時、

聡美は「先行くね」と言ってその場を後にした。

早足で緑道を行く聡美の後ろ姿に、雪は何度か名前を呼びかけたが、彼女が振り返ることは無かった。





雪は今の状況に、一人戸惑っていた。



いや、戸惑っているのは彼女だけでなく、隣りに居る太一もまたそうだった。

オロオロと、聡美の行ってしまった方向と雪の方へ何度も目を遣る。

「あ~もう!なんでこうなっちゃうんスか!雪さん大丈夫っスか?!」



徹夜明けの頭痛は、今やその鼓動に合わせてズクズクと響くようだ。

雪は溜息を吐くと、太一に「早く聡美んとこ行ってあげて」と聡美へのフォローを促した。



聡美のことよろしくね、と言い残して、帰路に就く雪。

その場に置いていかれた太一は、困ったように一人頭を掻いた‥。







風にざわめく深い緑の木々の合間を、痛む頭の片隅でボンヤリと考え事をしながら歩いた。

夏休み目前の空は、どこまでも青く澄んだ色をしていたが、

雪の心の中は、白く不透明な靄がかかった様に暗澹としていた。



ムカツクことや申し訳ないこと 色々なことが突然なだれ込んで、

何からどう動けばいいのか、さっぱり分からない。



出来ることと言えば、まずは今すべきことに取り組む、ということだけ。

解決出来ることから‥。




家に帰って取り敢えず睡眠を取った後は、残りのテスト勉強が雪を待っていた。

友人との関係で悩みが生じたといっても、成績はそれを考慮してくれるわけではない。



それでも集中出来るかと言ったら話は別だ。

雪は何度も携帯電話の方を横目で見ては、聡美へ連絡した方が良いんじゃないかと気が急いた。



メールすべきか、電話をすべきか、それとも直接会って話をするべきか。

それならばいつがいいだろう、今がいいのか、明日がいいのか、それともテストが終わってからがいいのか?



雪は頭を抱えた。

しかし悩んでいる間にも、残酷にも時間は刻々と過ぎていく。

取り敢えずやるべきことから始めて、後のことはその後考える。



雪は再び教科書に向き合った。

その日も夜遅くまで、悶々としながらもテスト勉強に取り組んだ。






また朝が来て、大学へ登校する。

朝の明るい日差しの下でも、やはり雪は考える。

自分にとって大切なことに、優先順位を付けるのは難しい。



雪は一人で構内を歩いている。

自分のテンポで、心地良い歩幅で。

自ら基準を立てるのも難しいことだけれど、

他人と合わせるのはもっと難しい。




廊下には沢山の人が歩いている。

それぞれのペースで、好きな人と連れ立って。


私たちは一人じゃない。皆が皆、支え合って暮らしている。

けれど他人と関わり合って生活するということは、

時に煩わしさを背負うことも余儀なくされるものだ。

こじれゆく人間関係

 

途中出くわした直美さんと健太先輩は、雪にたどたどしい挨拶をした後、すぐに目を逸らした。

雪はどちらにも挨拶を返さなかった。




そして友達



雪は向こうから歩いてきた聡美と向き合って立っていた。

顔を見合わせた二人は、何を言うでもなくただ視線を合わせている。

「‥‥‥‥‥」  「‥‥‥‥‥」

  

聡美がポツリと、「テスト?」と言った。

雪が小さく、「うん‥」と答える。



二人の間には、今までには感じたことのない隔たりがあった。

ぶちまけられた不満の残像が、見えない壁となって二人を阻んでいた。


聡美は「そう」と言うと、雪の傍を通り過ぎた。



すると俯いた雪の耳に、小さな聡美の声が届く。

「‥頑張って」



小さくなっていく彼女の後ろ姿に、雪は追いかけるように声を出した。

「あ‥聡美もね‥!」



いつの間にか誰も居なくなった廊下に、雪の声は置いてけぼりになったかのように、寂しく響いた。

いつもの聡美との間の雰囲気とは、何もかもが違っている。

このぎこちなさ‥



心につかえたわだかまりも、今はそのままにして試験に臨まなければならない。

急いで教室へと向かう雪の後ろで、ドアノブに手を掛けたままその事態を窺っていた人物が居た。



二人の間に流れた微妙な空気。

淳はそれを感じていた。



そして自分がどうすべきか。

寂しそうな彼女の後ろ姿を見ながら、彼はじっと思案する‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<連鎖の残像>でした。

時折はさまれる雪のモノローグがとても好きです。

「大事なもの」の優先順位は本当人それぞれですが、中でも青田先輩の価値観は独特そうですねぇ。

その点は河村さんあたりは単純明快そうでいいですね!

笑い飛ばしてくれそうなイメージです。

次回は<助け舟>です。


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不満の連鎖

2013-09-06 01:00:00 | 雪3年2部(グルワ発表~知れば知るほど)
雪はトボトボと、一人帰路を歩いていた。



脳裏では、先ほど教授部屋を訪ねた時の記憶が繰り返し思い出された。

雪は教授に言ったのだ。

「いくらなんでも私までDなんて‥」と。



教授は項垂れる雪を見て、溜息を一つ吐くと諭すように話し始めた。

「君が頑張ったのはよく分かる。

だが私は事前に、共同作業が何より大事だと忠告したはずだ」




教授は、共同作業を円滑に進めるために、

グループ内でのコミュニケーションや互いにモチベーションを上げる努力など、

そういった働きかけをすべきだったのだと言った。

締め切りまでの期間も十分あった、互いに都合を合わせる機会もあったはずだ、と。

「君は協力的でないメンバー達を容易く放棄して、

全部一人でやってしまったんじゃないのかな?」




「この課題は内容云々ではなく、社会性を試すためのものだったんです。残念ながら」

教授の言葉は全て事実だったし、課題の主旨もあらかじめ聞いていたものと寸分も違わなかった。

雪は分かっていたが、納得するにはあまりにもその代償は大きかった。

「‥‥‥‥」



俯き黙り込んだ雪を見かねて、教授が彼女の名を呼ぶ。

「赤山雪さん、でしたね」



教授の言葉が、緑道を一人で歩く雪の脳裏に反響した。

レポートはとてもうまく書けていたよ。きっと今までは自分一人の力で良い成績を取ってきたんでしょう。

だが社会生活というものは、決して全てが一人の力で解決出来るものではありません。

経営学科は人事管理は勿論、コミュニケーション能力が何より求められます。

もう三年生だし、単位だけではなく社会性も育むべきでしょう。


とにかく君だけ例外的に点数を与えることは出来ません。



頭のてっぺんから足の先へと、血が下っていく。

冷えた頭の中に、これまでの記憶の断片がフラッシュバックした。

家族の顔が浮かんでくる。






「それじゃあ今月の収入はほとんどないってこと‥?」

実家で耳にした、我が家の経済状況。

「父さん大変みたいだし、姉ちゃんがもっと気遣ってやってよ」

人任せで自由奔放な弟。



「おっとお小遣いあげないとな」

父親からもらった初めての気持ち。

「雪は全校一位だし」

両親から向けられるプレッシャー。優等生であることが当然とされている日々。


続けて記憶は、大学生活での場面を切り取った。


「あの先輩が首席?」 「知らなかったの?有名なのに」

休学から帰ってくると、全額奨学金は他の人に渡っていた。



「いい会社のどの部署?」

容赦の無い就活相談。何も決まってない未来。具体的な展望のない将来。


脳裏には、最近耳にした言葉、感情、そしてその記憶が雪崩れ込んでくる。


「私、休学する」

必死に考えて出した結論。ズキズキと痛む心。

「いーもん、服屋さんでもするから」

経済的にも父親からの愛情にも恵まれた友人。決まった将来への安心感。



「塾に通わなくちゃならないのに‥」

底をついた通帳の残高。初めて話した抑制され続けた心の内。



そして突きつけられた、想定外で最悪な現実。



グループ5は全員Dです






はあっ、と雪は深く息を吐いた。



胸の奥が苦しくて頭が痛い。

狭く暗い迷路に、彷徨い迷って行く心持ちがした。


そんな雪の後ろから、近付いて来る人影があった。



「雪さ~ん!」 「雪ぃ~!」



いきなり現れた二人に、雪は心の準備が出来ていなかったため、思わず動揺した。

聡美に「なんで一人で帰っちゃうのよ~」と言われて、

ようやく二人に連絡もしていなかったことに気がつく程だ。



続けて聡美が、発表は上手く行ったかと尋ねて来たが、

雪は、「ダメだった」と小さく答えた。



二人は幾分驚いたが、あまり重大には受け止めていないようだ。

「あのメンバーじゃしょうがないよ、残念だけど過ぎたことはさっさと忘れよ」



次第に雪の表情は曇って行ったが、聡美はそれには気づかず、

彼女なりに雪を気遣う言葉を続ける。

「残りのテスト勉強頑張れば挽回出来るって!あんた頭いいんだしさ!」



雪は頭が痛んだ。

前向きな聡美の意見も、今は楽観的で無責任にしか聞こえない。


続けて聡美は、夏休みの旅行についての話を始めた。

両手を上げてはしゃぐ聡美が、雪にその内容を話し始める。

「そういえば結局旅行先、海に決めたんだけど大丈夫?

海の幸の美味しいものいっぱい食べてさ~」




「いいんじゃない?」



聡美がまだ言い終わらない内に、雪は投げやりに言った。

場の空気が凍ったのが、俯いた姿勢でも分かった。



聡美はそんな雪の顔を覗きこむと、彼女の意向を窺った。



もしかして旅行に行きたくないんじゃないか、これじゃあ私達が無理矢理連れて行くみたいだと。

そんなことない、と下を向いたまま雪は言った。しかしその口調はやっぱり投げやりだった。



それを受けて聡美と太一は、だったら雪の行きたいところへ行こうと旅行先を色々提案し始めた。



海より山派? それとも川遊び? てかもう美味しいもの求めて全国行脚しちゃおうか‥。

そう言って二人はケラケラと笑い合った。



そして聡美は、もう一度雪に向かって言った。

「とにかく、勉強もいいけど遊ぶ時はハメ外してパーッと行こうよ!

何もかも忘れて、楽しい休みを過ごしちゃおうよ!」




徹夜明けの頭が痛む。

こめかみが絞られるような、ズキズキとした痛み。


聡美そんな雪の様子には気が付かず、彼女はもう一度旅行先を提案し始めた。

海? 山? 川? それとも‥。



雪は目をギュッと瞑った。

そして考えるより先に、感情がこう叫んでいた。

「どこでもいいって言ってるでしょ?!」




雪の荒ぶった声が、緑道にこだました。

聡美と太一は、予想だにしなかった雪の反応に固まる。

「何回言えば気が済むの。いい加減にしてよ!」



いつも温和で自分の意見も言わない彼女のそんな姿を、二人は初めて見た。

聡美が雪の顔を覗き込む。彼女の機嫌を窺いながら。

「ねぇ‥なんで怒るのよ‥楽しく旅行の話してるのに‥」



雪は苛立つ気持ちを抑えきれずに、思わず本音を吐露した。

「私は今回の発表でDもらったの!奨学金だって貰えなくなるかもしれないのに、

旅行の話なんてしてる場合じゃないの!」




その雪の言葉を聞いて聡美は一瞬目を丸くしたが、すぐに雪の肩を掴み、こう言った。

「だったらそう言えばいいじゃない!なんでそんなに怒るの?

あんたがどこでもいいって適当に流すから、こっちだって必死に聞いてるんじゃない!」




聡美も、常日頃から思っていた不満が口を吐いて出た。

それこそ旅行の話をし始めた頃から、ずっと彼女は思っていたのだ。


太一が二人の言い合いを前に、オロオロと何も言えないで困っている。



けれど一度口から出た本音は、せきを切ったようにお互いの口から溢れ続けた。

「あんたのこと困らせようとしてわざと聞いてるとでも思ってるわけ?!

あんたの意見を尊重しようとするのがそんなにいけないこと?」


「だから私はどこでもいいって言ってるじゃない!本当にどこでもいいんだってば!」



平行線な話し合いの末に、聡美が心の奥底でずっと思っていたことを言った。

「あんたはいっつもそう!必要な場面で黙ってばかりいて!」



こめかみがズキズキと疼く。

雪は今まで口に出さなかった、自分の気持ちを漏らした。

「私の意見?旅行どころか学費の心配でいっぱいいっぱいだよ。これでいい?」



言ってしまった後で、すぐに雪は後悔した。

個人的なことを言ったって、どうしようもないことだから。


聡美は項垂れて、どうして言ってくれなかったのかと呟くように言った。

今までそんな雪の事情も知らず、一人で浮かれて馬鹿みたいに旅行の話ばかりして‥。



俯いた聡美に、雪が声を掛けようと口を開いた。



しかし聡美は次の瞬間、雪の予想だにしない言葉を吐いた。

「なんであたしばっかり悪者にするの?!」




一度口を吐いて出た不満は、次々と潜在的に思っていた本音を引き連れ、連鎖していく。

聡美の口から出たその言葉を、雪は呆然と聞いていた。



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<不満の連鎖>でした。

二人の言い合いもさることながら、太一の空気っぷりがすごいですね。。


味趣連の旅行先ですが、日本語版では「沖縄」本家版では「釜山」になってます。

このブログでは日本語版でカットされた本家版も取り扱ってるため、キャラクターの名前は日本名ですが、

その他エピソードは出来るだけ本家版に寄り添うようにしています。

しかしここで「釜山」を持ち出すと、なんのこっちゃ本当にこんがらがるので、あえて「海の近いところ」と

ぼやかす表現を取りました。ご理解頂けると幸いです。


次回<連鎖の残像>です。


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ぶちまけた不満

2013-09-05 01:00:00 | 雪3年2部(グルワ発表~知れば知るほど)
授業が終わり、学生たちは三々五々席を立って教室を後にしたが、

雪達グループ5は誰も何も言えず各々佇んでいた。



特に雪は拳を握り締めたまま、ブルブルと怒りのあまりそれを震わせている。

見かねた健太先輩が、機嫌を取ろうと雪に話しかけた。



しかしそれを皮切りに、雪の不満が爆発した。

「ほんっとに最低です!!」



雪は周りの目も気にせずに、思いの丈をぶつけ始めた。

「最小限のことも出来なかった場合、少なくとも基本的な勉強はしてくるべきじゃないんですか?!

電話もメールも全部無視しておいてノコノコ出てきて‥発表の台本くらい一生懸命読んで下さいよ!!」




雪はギリッと唇を噛んだ。

脳裏に、様々な記憶が雪崩れ込んでくる。

グループ5は全員Dです



Dとは最低評価である。

雪の高校時代は、努力の果てに常に全校一位の成績を保持していた。



それから受験勉強に明け暮れ、県内トップのA大に入学し、奨学金を貰えるほど上位の成績を得た。

そんな雪が、今回最低評価のDを得たのだ‥。

「Dなんて‥こんな成績初めて取ったわ‥」



雪は怒りに震えた。

そんな彼女を見て、健太先輩が悪かったよと弁解する。



そして清水香織の発表の下手さについてダメ出しし始め、雰囲気は険悪になった。

直美は雪に向かって「ごめんね」と言ったが、続けてこうも言う。

「でも大学に通ってる以上、時にはDをもらう時もあると思うの。

だからそんなに怒らなくても‥」




しかし口ではそう言う直美さんと健太先輩の手に、

「マーケティング論」のレポートが握られているのが目に入った。



雪は呆れるあまり笑ってしまった。

各々発表出来ない言い訳は達者なくせに、個人的なレポートはちゃっかりやって来てるなんて。



そして三人は、ヘラヘラと笑いながら雪に謝罪した。

私らが悪かったよ~とかそんなに怒らないで~とか、何の意味も持たない言葉を並べて。



雪はそれに応えること無く、

「お先に失礼します」と言い捨てた。教室を後にする。



彼女が居なくなった後、直美と健太先輩は揃って顔を顰めた。



特に健太先輩はグチグチと雪の態度をけなした。

先輩に対する態度がなってないとか、これだからガリ勉はイヤなんだとか。

人目もはばからずそんなことを言っているので、周りの人間はその態度に呆れていたが。



そして離れた場所から、淳達グループ4もその様子を窺っていた。

柳が彼らの態度の悪さに呆れ、雪の立場を憂いたが、淳は何も言わずただその成り行きを見守っていた。



気分を切り替えるように、柳が「まぁ俺らはパーフェクトだからな!間違いなくA+だろ?」と嬉しそうに言うと、

佐藤もコホンと咳払いをしながら「当然だ」と言った。

  

続けて佐藤は皆の頑張りを慰労しようと口を開いたのだが、淳も柳もそれに気付かなかった。

特に淳はボンヤリと考え事をしていたので、余計だった。



そして教室を後にする時に、淳が皆を振り返って労いの言葉を掛けた。

「あ、みんなお疲れな」



そのまま去って行こうとする淳に、佐藤は大きな声を出して呼び止めた。

「おい!なんでお前はいつも俺を無視するんだよ!」



そして淳に詰め寄ると、今までの不満をぶちまけた。

「俺をナメてんのか?何度も何度も‥どういうつもりだよ?! 

お前の趣味か?人を無視してそんなに楽しいか?!」




状況を飲み込めない淳も構わず、佐藤は続けた。

俺がお前に何をしたって言うんだと言って、普段の淳の態度に対して噛み付く。



しかし淳は「ちょっと待ってくれ」と言った。

そして彼も日頃佐藤に対して思っていたことを、冷静に口にした。

「お前の方こそ、俺のこと嫌ってなかったか?」



佐藤はそう言われて、ハッと息を飲んだ。



淳は続ける。

「俺が何か言う度に不平不満ばかりで、

入学してから今まで一度も俺に喧嘩腰じゃなかった時が無いように感じるよ」




淳は自分だって完全無欠のロボットではなく、一人の人間だと言った。

皮肉を言われて気分が良いはずがないだろうと。



二人の身長差はゆうに20センチはあった。

そのため向き合うと、自然と佐藤はプレッシャーを感じる形になる。



佐藤は下を向き、言葉を続けられず口ごもった。

そんな彼に敢えて淳は、あることを聞き返した。

「俺に何か不満でもあるのか?」



見上げた佐藤は、淳と目が合った。

その瞳の奥に、深く暗い闇が覗く。



得も言われぬ無言のプレッシャーに、彼は思わず目を逸らした。



そして目を逸らしたまま、そんな覚えはないと切れ切れに言葉を返した。



そんな佐藤に対して、淳は一つ溜息を吐くと「もういい」と小さく言った。

「誤解を招いたなら謝るよ。それじゃ」



佐藤に対して背を向けると、そのまま淳は教室を後にした。

柳が佐藤に毒づいた。被害妄想も大概にしろ、と。



同じグループだった後輩女子も、佐藤に別れの挨拶をしてそそくさと去って行った。

下を向いた佐藤だけが、己の不満を跳ね返された屈辱に苛まれながら、その場にじっと佇んでいた。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<ぶちまけた不満>でした。

それぞれが思っていた不満を相手に伝える、という回でしたね。

特に佐藤先輩は淳に向きあう時、きっと自分の劣等感を反射させる鏡に向かい合っている気分になるのではないでしょうか。

柳先輩じゃないですが、そういった感情は被害妄想になり、相手を素直に受け入れることが出来なくなるんでしょうね。

単純に男の意地のような印象も受けますが‥。


次回は<不満の連鎖>です。

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