雪は溜息を吐きながら、太一に向かって携帯を翳して見せた。
画面には勿論、今話題のあのスレが表示されている。
「なんで皆がこんなにザワザワしてるのかと思ったら‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/58/11/f5bbb2290ef5258ca13bddfd55ec40d3.jpg)
呆れたような表情の雪の前で、太一は決まり悪そうに目を逸らした。
ポリポリと、頭の後ろを小さく掻きながら。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1a/b6/afab325f3af97f1aa069d7744bb6376b.jpg)
今回の一件の首謀者が太一だということは、雪も聡美も全く知らなかった。
太一はその大きな身体を縮めて、姉的存在二人の説教を聞く。
「アンタどうしてこんなのアップしたりしたのよ!マジで訴えられたらどうするつもり?」
「当事者である私はともかく、アンタにまで被害が及んだらどーすんのよ!」
「そうだよ!名前も伏せずに、どうしてそのままアップなんか‥!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/37/f2/cac682d1261314d46deae5ef8f498240.jpg)
太一は暫し黙ったままその説教を聞いていたが、やがて口を尖らせながら自分の気持ちを語った。
「昨日雪さん、大変なことになるとこだったじゃないスか‥。
それでつい腹が立って‥もういい加減終わらせたかったし‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/76/4a/943c056278a5e72a6baf212178a81dff.jpg)
太一の本音を聞いて、雪は黙り込んだ。
そう言われてしまっては、それ以上彼を責めることは出来ない‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4c/82/6b3cd4d8f348be9c329dd94f3c937e4d.jpg)
そんな雪の代わりに、聡美がもう一度太一に説教をする。
「告訴!前科!罰金!!」「あの先輩は告訴なんて出来ませんヨ」
「そんなの分かんないじゃん!てか太一、無謀なとこ全然治ってないし!ここまでする必要あんの?!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/68/4f/5b73f1dcb95118f6125a52d75da0791f.jpg)
言い返す太一に聡美はまだガミガミとやっていたが、唐突に聡美は雪の方を振り向いた。
「ってかさぁ!雪っ!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/62/09/74397a903bdaef2a5763c2cacbc6e502.jpg)
いきなり名前を呼ばれた雪は目を丸くしたが、頷いてそれに応じた。聡美は強い口調で話を続ける。
「青田先輩は何してるの?!
ここまでコトが大きくなってんだから、先輩も助けてくれるべきじゃない?!
いくら二人が喧嘩中だとしても!横山の奴家まで追いかけて来て、ここまで大事になってんじゃないの!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0a/26/d25fdd26fa3ef35849dbaeba0257ac6c.jpg)
そのストレートな聡美の疑問に、雪は勿論太一までギクッとした。
「それには複雑な事情が‥」と言葉を濁す雪に対し、聡美は憤って言う。
「ちょっと!他の問題ならまだしも、ストーカーだよ?!ストーカー!!
まさか先輩、まだ知らないんじゃないでしょうね?!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/34/0b/83c30fdaaa83b36ca795a7d1616c71f3.jpg)
雪は聡美から目を逸らしながら、ボソボソと小さな声で答えた。
「うん‥だろうね‥」「はぁぁ?!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7b/0e/354b88898a13fd2cd3d14f8bc129624f.jpg)
聡美は幾分大仰な仕草で、まるで理解出来ないという風に首を捻った。隣の太一は気まずそうに沈黙を守っている。
「なんで?!どうして~~?!他人行儀過ぎるよ、雪!大事件なのに‥。
アンタどうせまた話してもないんでしょ?!友達にも恋人にも話さないなんて!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5e/8c/07d0972550046588fde7fc9e18437a72.jpg)
雪は言葉に詰まった。
横山と自分と先輩の複雑な事情が、脳裏を掠める。
青田先輩が、お前が俺のこと好きだって言ったんだ!
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/69/f0/e62b6a72ec6689d2a78185c276b712f0.jpg)
本当に先輩がやったんですか?本当に全く分からなかったんですか?
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2c/5f/d5114504b308abc954e75067aa0ba2ad.jpg)
うん
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/44/14/92febda78ce425196a2b9093ef9c0003.jpg)
まだ鮮明に覚えている、彼の瞳に宿るあの奇妙な威圧感。
なんでそんなこと聞くの‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5f/6e/f4f9708eec457321f4093bcc8b770ea3.jpg)
そしてその制圧下にある自分自身を、雪は無意識の内に肯定し、受け入れている。
それはあたかもタブーであるかのように、
もうこれ以上先輩と横山の話をしたくないという無言の圧迫が、私を押さえ込んでいる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1d/ba/b277ee24ce4818c1653459ee5eba06fe.jpg)
そして少しずつ少しずつ、色々な事を話して先輩に寄り添いたくなった時には‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/76/a6/36b8a9dac2c5ed829fef8347488a8f0d.jpg)
そして雪は携帯を見た。彼からのメールも着信も無い。
連絡さえ無い‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/23/1b/ea6d9c027dd866d58bcf8aea19a38f71.jpg)
すると不意に、携帯が震えた。メールが一通届いている。
画面には送信者”先輩”の文字が踊る。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1f/a1/a0238e1e8bcdf4415bb36046aa7062aa.jpg)
雪はすぐにメールを開いた。
今家に帰って来たところ。夜、店に行くから
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/04/2d/24f5da0fe125e380d83039374c8c6e21.jpg)
ようやく来た彼からの連絡。
雪は思わず目を見開いた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/28/53/df0ef7f8694fd8d138f832ac568c71c1.jpg)
するとそれまで沈黙を保っていた太一が、おずおずと話を切り出した。
「あの‥雪さん‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2b/f8/ec2e6c1e418ce3bbc8911323df13dd60.jpg)
しかし太一はその先を話すのを躊躇っている。
「約束してたんですが‥その‥」とモゴモゴ言い訳を口にしながら。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/02/f9/2c3690531bf83934287d8fa8ae6d2cad.jpg)
やがて太一は覚悟を決めると、二人に対してずっと黙っていたことを口に出した。
「その‥実は‥今回の件なんですが‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/18/64/7fe12f9d6882eb4c35fbd242a343255f.jpg)
そして太一が口にした真実に、雪と聡美は目を剥くことになる。
「青田先輩も助けてくれたんス‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/07/fe/49ea03fa5066f6a5eb2109e2e9732144.jpg)
「は?」と言う二人の声が、見事に重なった。雪は続けて、もう一度大きな声を出す。
「はあぁ?!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6a/e3/46470ebc91679027a17559139593299e.jpg)
そして雪は、続けざまに太一に質問を繰り出した。
「それどういうこと?!どうしてそうなったの?!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3c/0f/9c6b5ba5695ad69cb0e3fd99470755ff.jpg)
聡美も雪の隣で、その真実を知りたそうな表情だ。
「実は‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/17/04/f7f6fb1ca8256c96bfe4a7455b69fb85.jpg)
そして太一は語り始めた。
彼の抱えていた秘密を、横山陥落計画の共謀者とのやり取りを。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/33/ec/da376a9053ed2da64764aeab3512ed65.jpg)
昨夜、太一は憤慨していた。
雪から送られて来た録音を聞いて、横山翔の振る舞いのあまりの酷さに、太一は憤っていたのだ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/79/99/1e46219b3366796c1c738b8348b642b1.jpg)
そして怒りにまかせ、すぐにその録音を青田淳に送った。
以前淳と太一は、”横山に関する証拠を共有する”という協定を結んでいたからだ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/33/98/c4f21f2584fee19403dcb5f6e08d671c.jpg)
太一は録音を添付したメールに、確固たる決意を載せて淳にそれを送った。
今送ったのが、雪さんが録音した物です。
これ聞いた今、俺はもうマジ耐えられないっす。横山先輩に関すること、全部アップするつもりです。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/47/46/b97828f4eb0e5d48b6780633a390102e.jpg)
するとすぐに淳から返信が来た。
俺も横山には本当に腹が立ってる。
けど無闇に行動すれば、福井自身が被害を受けるんじゃないかな。
本当に文章を載せるつもりなのか?
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5e/9a/b4d1a81086219cbeeb2f96b820ac2bc2.jpg)
太一は収まらない怒りを持て余しながら、三人の姉がまた部屋に閉じこもった自分を心配している声にも耳を貸さず、
返信を続けた。
あの調子で放っとけば、俺ら味趣連三人全員が被害を受けるからです!
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/67/1f/159415e874bfeb6f7025d5363c003392.jpg)
太一は固い決意を文章に載せて、更にメールを続けた。
もし罰金が課せられたとしても、そんなん関係無いっす。
止めないでください。俺の好きなようにします。どうせ俺にも積り積もったもんがあるんすから
‥本気なのか?
ハイ。マジで本気っす
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4f/1a/5909f22258e9c5194ccbc8a1691fcf5b.jpg)
すると少し時間を置いて、淳の冷静な返信が来る。
けどあのサイトはうちの経営学科に関連のない人ばかりだろう。
文章を載せてみても、別に効果もないと思う。福井だけが訴えられてしまうよ
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/21/c5/059b28c8038eefcf15e0102131a1fe26.jpg)
淳のその内容に、太一も少し冷静になる。
そう言われればそうっすね‥。
うう‥どうしよう‥大統領府のホームページに‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7e/d2/17ea0ef3550f6a9cab1dad19fb369d31.jpg)
すると、いっそ大統領に解決してもらおうという突拍子も無いことを思う太一の元に、
淳からの提案が一つ入った。
いっそ経営学科専用の掲示板が良いよ。
厳密に言えば学科生皆、横山の書き込んだ文章の被害者だから
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/76/62/4ec3eb18a700fc1ce28f87a6a64c8590.jpg)
その淳の提案に、太一は目の前が開ける思いがした。
太一が二つ返事で賛成すると、淳はメールを続ける。
雪の問題は、雪まで噂になって被害を受けるかもしれないから、
言及しない方が良いよ。いっそ俺が文章を載せようか?
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2b/f5/ebbd8f5f99ef41cad0cd79d7ce6eb6ad.jpg)
その淳の提案には、太一はかぶりを振った。
その点はご心配なく。俺がスレを上げます。
マジで完膚無きまでに復讐してやりたいんす
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/55/ab/cdc20da3707d6d649166040225a266a9.jpg)
太一の熱い心意気を、淳は了承して返信を送った。
そうか‥。横山には罪があるから、簡単に告訴することは出来ないだろう。
それでもまだ害を及ぼすようなら、俺が一度話をつけるよ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7c/6b/666bda5e465f7d818aaca6b74d00c048.jpg)
その淳の言葉に、太一は幾分意外な思いがした。
先輩がですか?
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7d/4c/448629baa400f092ae0f3c30c96aed8d.jpg)
そして返って来た淳からのメールには、彼の本心が少し透けて見えた。
うん。腹が立つのは俺も同じだ。
別に聖人君子のように振る舞いたくはないね
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3a/73/612e4301f590fc5ead193682acf3e834.jpg)
太一は彼から得られた賛同に、思わず拳を振り上げた。
「そうだっ!当然先輩だって怒ってる!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/10/41/91b9a03572d2982f7e7bba82bcfcc4d9.jpg)
すると最後に、淳から一つメールが入った。
今回のこと、福井と伊吹に本当に感謝してるよ。
いつも雪を守ってくれてありがとう。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/68/66/9f83ed0ce51e9fc5d5c56e322fdf7da9.jpg)
そして二人はメールを終えた。
横山陥落の背景には、この二人の共謀があってのことだったのだ‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<太一の秘密>でした。
実は先輩が裏で絡んでいたんですね~!
雪には話さず裏で手を回す、先輩の真骨頂ですね。レポート事件を思い出しますが‥。
それでも怒りにまかせた太一があのスレで叩かれることも無くなったし、彼のクレバーさが功を奏したという印象です。
雪は微妙な気分かもしれませんが‥。
そして太一の部屋にあるピンクの水玉クッションが可愛い(笑)
ちなみにドアの向こうでは姉や母が、「太一、ご飯食べないの~?」「どっか痛いのか~?」と心配しています(笑)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7c/af/9a594ea70f74b4dd8e84caeecd54ec4e.jpg)
*追記
コメ欄にて、ぽこ田さんより「太一の背中のクッションは、以前特別編にも出て来た肉の枕では?」と
教えて頂きました‥!
↓コレですね?!(2部30話と31話の間の特別編より)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/27/a3/c18b01aca24a19145a85c9132dead6d3.jpg)
肉の形‥!(笑)
カラーになるとこんな感じなんですね!爆笑でした。
ぽこ田さんありがとう!!
次回<心のままに>です。
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画面には勿論、今話題のあのスレが表示されている。
「なんで皆がこんなにザワザワしてるのかと思ったら‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/58/11/f5bbb2290ef5258ca13bddfd55ec40d3.jpg)
呆れたような表情の雪の前で、太一は決まり悪そうに目を逸らした。
ポリポリと、頭の後ろを小さく掻きながら。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1a/b6/afab325f3af97f1aa069d7744bb6376b.jpg)
今回の一件の首謀者が太一だということは、雪も聡美も全く知らなかった。
太一はその大きな身体を縮めて、姉的存在二人の説教を聞く。
「アンタどうしてこんなのアップしたりしたのよ!マジで訴えられたらどうするつもり?」
「当事者である私はともかく、アンタにまで被害が及んだらどーすんのよ!」
「そうだよ!名前も伏せずに、どうしてそのままアップなんか‥!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/37/f2/cac682d1261314d46deae5ef8f498240.jpg)
太一は暫し黙ったままその説教を聞いていたが、やがて口を尖らせながら自分の気持ちを語った。
「昨日雪さん、大変なことになるとこだったじゃないスか‥。
それでつい腹が立って‥もういい加減終わらせたかったし‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/76/4a/943c056278a5e72a6baf212178a81dff.jpg)
太一の本音を聞いて、雪は黙り込んだ。
そう言われてしまっては、それ以上彼を責めることは出来ない‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4c/82/6b3cd4d8f348be9c329dd94f3c937e4d.jpg)
そんな雪の代わりに、聡美がもう一度太一に説教をする。
「告訴!前科!罰金!!」「あの先輩は告訴なんて出来ませんヨ」
「そんなの分かんないじゃん!てか太一、無謀なとこ全然治ってないし!ここまでする必要あんの?!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/68/4f/5b73f1dcb95118f6125a52d75da0791f.jpg)
言い返す太一に聡美はまだガミガミとやっていたが、唐突に聡美は雪の方を振り向いた。
「ってかさぁ!雪っ!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/62/09/74397a903bdaef2a5763c2cacbc6e502.jpg)
いきなり名前を呼ばれた雪は目を丸くしたが、頷いてそれに応じた。聡美は強い口調で話を続ける。
「青田先輩は何してるの?!
ここまでコトが大きくなってんだから、先輩も助けてくれるべきじゃない?!
いくら二人が喧嘩中だとしても!横山の奴家まで追いかけて来て、ここまで大事になってんじゃないの!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0a/26/d25fdd26fa3ef35849dbaeba0257ac6c.jpg)
そのストレートな聡美の疑問に、雪は勿論太一までギクッとした。
「それには複雑な事情が‥」と言葉を濁す雪に対し、聡美は憤って言う。
「ちょっと!他の問題ならまだしも、ストーカーだよ?!ストーカー!!
まさか先輩、まだ知らないんじゃないでしょうね?!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/34/0b/83c30fdaaa83b36ca795a7d1616c71f3.jpg)
雪は聡美から目を逸らしながら、ボソボソと小さな声で答えた。
「うん‥だろうね‥」「はぁぁ?!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7b/0e/354b88898a13fd2cd3d14f8bc129624f.jpg)
聡美は幾分大仰な仕草で、まるで理解出来ないという風に首を捻った。隣の太一は気まずそうに沈黙を守っている。
「なんで?!どうして~~?!他人行儀過ぎるよ、雪!大事件なのに‥。
アンタどうせまた話してもないんでしょ?!友達にも恋人にも話さないなんて!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5e/8c/07d0972550046588fde7fc9e18437a72.jpg)
雪は言葉に詰まった。
横山と自分と先輩の複雑な事情が、脳裏を掠める。
青田先輩が、お前が俺のこと好きだって言ったんだ!
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/69/f0/e62b6a72ec6689d2a78185c276b712f0.jpg)
本当に先輩がやったんですか?本当に全く分からなかったんですか?
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2c/5f/d5114504b308abc954e75067aa0ba2ad.jpg)
うん
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/44/14/92febda78ce425196a2b9093ef9c0003.jpg)
まだ鮮明に覚えている、彼の瞳に宿るあの奇妙な威圧感。
なんでそんなこと聞くの‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5f/6e/f4f9708eec457321f4093bcc8b770ea3.jpg)
そしてその制圧下にある自分自身を、雪は無意識の内に肯定し、受け入れている。
それはあたかもタブーであるかのように、
もうこれ以上先輩と横山の話をしたくないという無言の圧迫が、私を押さえ込んでいる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1d/ba/b277ee24ce4818c1653459ee5eba06fe.jpg)
そして少しずつ少しずつ、色々な事を話して先輩に寄り添いたくなった時には‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/76/a6/36b8a9dac2c5ed829fef8347488a8f0d.jpg)
そして雪は携帯を見た。彼からのメールも着信も無い。
連絡さえ無い‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/23/1b/ea6d9c027dd866d58bcf8aea19a38f71.jpg)
すると不意に、携帯が震えた。メールが一通届いている。
画面には送信者”先輩”の文字が踊る。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1f/a1/a0238e1e8bcdf4415bb36046aa7062aa.jpg)
雪はすぐにメールを開いた。
今家に帰って来たところ。夜、店に行くから
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/04/2d/24f5da0fe125e380d83039374c8c6e21.jpg)
ようやく来た彼からの連絡。
雪は思わず目を見開いた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/28/53/df0ef7f8694fd8d138f832ac568c71c1.jpg)
するとそれまで沈黙を保っていた太一が、おずおずと話を切り出した。
「あの‥雪さん‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/40/97/5f68af138d2c6309051874b9a8b2e00c.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2b/f8/ec2e6c1e418ce3bbc8911323df13dd60.jpg)
しかし太一はその先を話すのを躊躇っている。
「約束してたんですが‥その‥」とモゴモゴ言い訳を口にしながら。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/02/f9/2c3690531bf83934287d8fa8ae6d2cad.jpg)
やがて太一は覚悟を決めると、二人に対してずっと黙っていたことを口に出した。
「その‥実は‥今回の件なんですが‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/18/64/7fe12f9d6882eb4c35fbd242a343255f.jpg)
そして太一が口にした真実に、雪と聡美は目を剥くことになる。
「青田先輩も助けてくれたんス‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/07/fe/49ea03fa5066f6a5eb2109e2e9732144.jpg)
「は?」と言う二人の声が、見事に重なった。雪は続けて、もう一度大きな声を出す。
「はあぁ?!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6a/e3/46470ebc91679027a17559139593299e.jpg)
そして雪は、続けざまに太一に質問を繰り出した。
「それどういうこと?!どうしてそうなったの?!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3c/0f/9c6b5ba5695ad69cb0e3fd99470755ff.jpg)
聡美も雪の隣で、その真実を知りたそうな表情だ。
「実は‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/17/04/f7f6fb1ca8256c96bfe4a7455b69fb85.jpg)
そして太一は語り始めた。
彼の抱えていた秘密を、横山陥落計画の共謀者とのやり取りを。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/33/ec/da376a9053ed2da64764aeab3512ed65.jpg)
昨夜、太一は憤慨していた。
雪から送られて来た録音を聞いて、横山翔の振る舞いのあまりの酷さに、太一は憤っていたのだ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/79/99/1e46219b3366796c1c738b8348b642b1.jpg)
そして怒りにまかせ、すぐにその録音を青田淳に送った。
以前淳と太一は、”横山に関する証拠を共有する”という協定を結んでいたからだ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/33/98/c4f21f2584fee19403dcb5f6e08d671c.jpg)
太一は録音を添付したメールに、確固たる決意を載せて淳にそれを送った。
今送ったのが、雪さんが録音した物です。
これ聞いた今、俺はもうマジ耐えられないっす。横山先輩に関すること、全部アップするつもりです。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/47/46/b97828f4eb0e5d48b6780633a390102e.jpg)
するとすぐに淳から返信が来た。
俺も横山には本当に腹が立ってる。
けど無闇に行動すれば、福井自身が被害を受けるんじゃないかな。
本当に文章を載せるつもりなのか?
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5e/9a/b4d1a81086219cbeeb2f96b820ac2bc2.jpg)
太一は収まらない怒りを持て余しながら、三人の姉がまた部屋に閉じこもった自分を心配している声にも耳を貸さず、
返信を続けた。
あの調子で放っとけば、俺ら味趣連三人全員が被害を受けるからです!
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/67/1f/159415e874bfeb6f7025d5363c003392.jpg)
太一は固い決意を文章に載せて、更にメールを続けた。
もし罰金が課せられたとしても、そんなん関係無いっす。
止めないでください。俺の好きなようにします。どうせ俺にも積り積もったもんがあるんすから
‥本気なのか?
ハイ。マジで本気っす
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4f/1a/5909f22258e9c5194ccbc8a1691fcf5b.jpg)
すると少し時間を置いて、淳の冷静な返信が来る。
けどあのサイトはうちの経営学科に関連のない人ばかりだろう。
文章を載せてみても、別に効果もないと思う。福井だけが訴えられてしまうよ
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/21/c5/059b28c8038eefcf15e0102131a1fe26.jpg)
淳のその内容に、太一も少し冷静になる。
そう言われればそうっすね‥。
うう‥どうしよう‥大統領府のホームページに‥
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7e/d2/17ea0ef3550f6a9cab1dad19fb369d31.jpg)
すると、いっそ大統領に解決してもらおうという突拍子も無いことを思う太一の元に、
淳からの提案が一つ入った。
いっそ経営学科専用の掲示板が良いよ。
厳密に言えば学科生皆、横山の書き込んだ文章の被害者だから
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/76/62/4ec3eb18a700fc1ce28f87a6a64c8590.jpg)
その淳の提案に、太一は目の前が開ける思いがした。
太一が二つ返事で賛成すると、淳はメールを続ける。
雪の問題は、雪まで噂になって被害を受けるかもしれないから、
言及しない方が良いよ。いっそ俺が文章を載せようか?
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2b/f5/ebbd8f5f99ef41cad0cd79d7ce6eb6ad.jpg)
その淳の提案には、太一はかぶりを振った。
その点はご心配なく。俺がスレを上げます。
マジで完膚無きまでに復讐してやりたいんす
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/55/ab/cdc20da3707d6d649166040225a266a9.jpg)
太一の熱い心意気を、淳は了承して返信を送った。
そうか‥。横山には罪があるから、簡単に告訴することは出来ないだろう。
それでもまだ害を及ぼすようなら、俺が一度話をつけるよ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7c/6b/666bda5e465f7d818aaca6b74d00c048.jpg)
その淳の言葉に、太一は幾分意外な思いがした。
先輩がですか?
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7d/4c/448629baa400f092ae0f3c30c96aed8d.jpg)
そして返って来た淳からのメールには、彼の本心が少し透けて見えた。
うん。腹が立つのは俺も同じだ。
別に聖人君子のように振る舞いたくはないね
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3a/73/612e4301f590fc5ead193682acf3e834.jpg)
太一は彼から得られた賛同に、思わず拳を振り上げた。
「そうだっ!当然先輩だって怒ってる!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/10/41/91b9a03572d2982f7e7bba82bcfcc4d9.jpg)
すると最後に、淳から一つメールが入った。
今回のこと、福井と伊吹に本当に感謝してるよ。
いつも雪を守ってくれてありがとう。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/68/66/9f83ed0ce51e9fc5d5c56e322fdf7da9.jpg)
そして二人はメールを終えた。
横山陥落の背景には、この二人の共謀があってのことだったのだ‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<太一の秘密>でした。
実は先輩が裏で絡んでいたんですね~!
雪には話さず裏で手を回す、先輩の真骨頂ですね。レポート事件を思い出しますが‥。
それでも怒りにまかせた太一があのスレで叩かれることも無くなったし、彼のクレバーさが功を奏したという印象です。
雪は微妙な気分かもしれませんが‥。
そして太一の部屋にあるピンクの水玉クッションが可愛い(笑)
ちなみにドアの向こうでは姉や母が、「太一、ご飯食べないの~?」「どっか痛いのか~?」と心配しています(笑)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7c/af/9a594ea70f74b4dd8e84caeecd54ec4e.jpg)
*追記
コメ欄にて、ぽこ田さんより「太一の背中のクッションは、以前特別編にも出て来た肉の枕では?」と
教えて頂きました‥!
↓コレですね?!(2部30話と31話の間の特別編より)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/27/a3/c18b01aca24a19145a85c9132dead6d3.jpg)
肉の形‥!(笑)
カラーになるとこんな感じなんですね!爆笑でした。
ぽこ田さんありがとう!!
次回<心のままに>です。
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いくら日本設定とは言え、こんな内容の揉め事について「首相官邸」ホームページに書き込んで何かどうにかなると思う日本人は、たぶんいないでしょうからね。今の首相がどうこうという以前に、リアリティがなさすぎます。
でも韓国だと、「最後の最後には大統領に解決してもらおう」という発想は、政治文化的に「あり」なところがあります。韓国人的感覚からすると、ウンテクのその発言、突拍子もないのは確かなんですけど、日本人が思うほどには、突拍子もなくはないと思います。
なんと訳して良いのか分からず、翻訳機にかけたままの「大統領府」と書きました‥^^;
このブログではもう軍隊の言及も普通にしているし、名前や地名だけ日本であとは韓国、という仮想国家の物語になっているような気がします‥(汗)
しかし最後の最後に大統領に解決してもらう、っていう考え方、突拍子もなくもないんですか‥!
驚愕です‥。「太一ってばこんな時に冗談言って~」と思ってましたよ‥。
日本でいうところの「遠山の金さん」的な‥?
いや~面白いですね‥。
こういう国民性って面白いですよね。
ムービーに大好きなback number を使ってくれたときに感激!!なのに投稿するタイミングを逃し(涙)、
今回、太一が…、先輩が…、雪のために一肌脱いでいたことに感動し、意を決して投稿してます。
いつも読み進めながら、雪には先輩の代わりは居るかもしれませんが…、あんな境遇で育った先輩には雪しか居ない、と青田先輩を応援しています(同情しています)。何年もかかって作られた性格は、また、何年もかかって修正していかなくてはいけないから…長い時をかけて二人寄り添っていけたらいいのになぁ…
てな感じです。
あの~太一が引きこもったときの…!!
そうです!青さんはすごいお方なのです‥!(なぜか私が得意げ)
ぢゅんさん
はじめまして~^^コメありがとうございます!
おお‥!BNがお好きでございますか!良いですよね~^^
今まで作ったムービーの中でも、亮さん片思い記念にBNを使って作った動画が一番再生回数多いです。
楽しい曲ですよね~♪
コメくださるのに勇気がいりましたでしょうに、ありがとうございました^^またお待ちしています!
ぽこ田さん
肉枕ってなんぞや‥?と思って以前の特別編を見てみたら‥!ほんとだー!太一、肉の枕してる‥!
気づきませんでした!!すごいぽこ田さん!!
すばらしい気付き!記事の追記にさせて頂きますっ!
でも、自分がそれをすると、また、雪に嫌悪されるだろう・・・。
一人で悩んで苦しんで、助けたいけれどどうしていいかわからない。
そんな時に、見返りを何も求めることなく、ただ純粋に雪のためを思って協力してくれた太一と聡美。
先輩の最後のメール、
「今回のこと、福井と伊吹に本当に感謝してるよ。いつも雪を守ってくれてありがとう。」
何だか涙が出そうです!
いつも孤独だった先輩がこんなふうに「ありがとう」って言うなんて・・・(T_T) とても感動しました。
先輩、雪に避けられて離れて、苦しかったんだろうな。寂しかったんだろうな。太一と聡美がいてくれて、ホントに嬉しかったんだろうな・・・。
いつも周囲の人から求められ、与えられることが当たり前のようだった人たちしか知らない淳が、太一と聡美に「ありがとう」・・・。 本当は人の気持ちのわかる素直な優しい青年なんです、きっと・・・。
(@妄想モードでした・・・)
「高嶺の雪さん」! 通勤途中の車で毎日歌ってます! キーが高くて声が出ないんですけどね♪ (^^ゞ
R20ではなくて、聖人、でしょうか。
yukkanenさん、一人一人に丁寧にコメントを返していて、すごく誠実な方なんだな〜と思いました。最終話の辺り、コメント数すごいことになってたのに…
自分も言葉を貰って、嬉しかったです✨(怖くて顔文字使えないので、いまいち気持ちを伝えきれません泣)
翻訳(すでに別の作品を創ったと言ってもよいかと思いますが←勿論尊敬の意味で)の素晴らしさだけじゃなく、管理者さんの人柄でこのブログは栄えていたのですね。
yukkanenさんの心の穴はしばらくはうまらないでしょうけれど、又何か次が見つかるとよいですね。
yukkanenさんのおかげで毎日少しずつ楽しんでますよ。きっと沢山の人が。
有り難う、って毎日思います💕
遅くなってしまって申し訳ないです‥
何か気の利いたことを返せれば良いんでしょうが、平々凡々とした返信しか出来ず皆様にはいつも申し訳ない思いでいっぱいですよ‥
そんな風に言って頂けて恐縮です。ありがとうございます
そして聖人君子ならぬ成人君子‥w
うわー気が付かなかった!
ありがとうございます!早速修正します!