![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/53/af/2795b56a5a7de01773e805f0141fe5f3.jpg)
雪が起こした行動の波紋が、疎ましい人達を遠ざけて行く。
無意識と意識の狭間で嘲笑う彼女に、音も無く手が伸びた。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/66/40/530332879d1ad772de08d55776f5831f.jpg)
「どうして笑ってるの?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/07/a0/b83ee55ddce6a6290abade8043f01f31.jpg)
雪の顔を自分の方に向けながら、眠っていたはずの淳が彼女に問うた。
雪は目を丸くしながら、不思議そうに聞き返す。
「え?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3d/1c/57cf8f0cd82c6a94a2c06297da9303b6.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/75/08/4fd98d9b4a3aa3e1661ce851b4ae9fde.jpg)
淳は雪の顔を凝視した。けれど彼女の瞳の中に翳りはない。
雪は目をこすりながら、特に何も気に留めない素振りでこう返した。
「あ‥ウトウトしちゃった‥夢見てたみたい」
「集中出来ないんなら、もうこっち来て寝なよ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/46/ae/e146bce381811e18a76cd6fd17ea5214.jpg)
淳からそう言われた途端、雪は一層眠気が襲って来た気がした。
ふわぁ、と大あくびをする。
「ほら、やっぱり」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1d/34/e649d417e864c5119e7e364b24a4ed95.jpg)
淳は雪をベッドに上げ、甲斐甲斐しく彼女を寝かしつける。
「よく寝れば試験も上手く行くよ」「はい‥」
「ほらもっと内側入って。電気消すよ。布団も掛けてな」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/12/d6/8f212ee6ec205941332c59ed6b8c881c.jpg)
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雪は柔らかな枕に顔を埋めながら、うつ伏せの体勢で横になった。
隣には淳が居る。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7e/e7/a49d77e1be21fd70140e1332948b8c0e.jpg)
暗くなった室内。
まだ闇に目が慣れていないせいか、彼の笑った口元がぼんやりと見えるだけだ。
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淳は雪に布団を掛け、彼女の頭を優しく撫でた。
雪はその心地良さに瞼を閉じながら、小さな声でこんなことを話し始める。
「実は‥私最近らしくないことしてるんです‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6a/b1/d0415e2d742bcf18b4c30600366f7891.jpg)
「らしくないこと?」
「だって‥このままじゃ直美さんに申し訳ないし‥健太先輩は許せないし‥」
「何の話?」
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眠りの淵に居るせいだろうか、彼女の話は唐突すぎて淳にはすぐには分かりかねた。
けれどそんな状態だからこそ、雪は普段語らないような本音を口に出している。
「やられてばかりなのがすごく嫌だったから、
過去問泥棒を探すために皆を巻き込んで、結局直美さんを責め立てる形になっちゃったんです‥」
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「それで直美さんは夜間授業の方へ移ってしまって‥」
「‥何だって?」
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それは淳が初めて耳にする情報だった。彼女は話を続ける。
「だから直美さんに話したんです。
健太先輩が犯人に違いないけど、証拠が無いんだって」「糸井に話したの?!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/72/ee/d87dc883e195354d64c7dc02d4d67223.jpg)
「はい‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/70/b2/5c72c810c81f984daeb02ac7eb1c9d46.jpg)
「‥‥‥‥」
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雪の話は、少なからず淳を驚かせた。
あれほど揉め事やゴタゴタを嫌っていた彼女が、まるでそれを誘導するかのような行動を取ったからだ。
糸井直美に健太が犯人に違いないと言ったらどうなるか、今雪から簡単に話を聞いた程度でもその先は予測出来る。
「‥糸井、怒ってたろ?」「はい、すごく‥」
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「そしたら健太先輩が、
直美さんから卒業試験の過去問についての情報を貰ったって言い出したんです」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/35/63/9d92f4972004c3338e29538d11e6a4bb.jpg)
「試験をダメにしようとしたんだと思います。
直美さんが黙ってるわけないと思ってましたけど、本当にそこまでするなんて‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/45/7f/b7e35151df0d60cac7da42cb01a7d35f.jpg)
雪はそこまで喋った後、一つ大きなあくびをした。
だんだんと眠りの帳が降りて行く。淳は雪を見下ろしながら、静かに彼女の話を聞き続けた。
「偶然かもしれませんけど‥」
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「健太先輩も直美さんも私の望み通りになって、少し怖い気もするんですけど‥
正直、嬉しいんです」
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「やられっぱなしはもう嫌だから‥」
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雪は微かに目を開けながら、最後にこう言った。
瞳は既に暗闇に慣れ、深い闇を宿している。
「今は前よりもっと、先輩のことが理解出来る気がします」
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光を宿さない彼女の瞳が、ゆっくりと瞼の帳を下ろして行く。
淳は彼女の傍らに座ったまま、その瞳が閉じるのをただ呆然と見つめていた。
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やがて雪は眠り、静かな部屋に彼女の寝息だけが響く。
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淳は彼女の肩まで布団を掛けた後、仰向けにゴロリと横になった。
そのまま、ぼんやりと白む天井を見つめる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3d/51/d5b3d15b7b18b46504f23e75180a2f03.jpg)
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彼女に出会って、赤山雪という同類を見つけて、少しずつ自分は変わって来たと思った。
けれどそれは、自分だけじゃなかったのだ。
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”私達は変わった”と、いつか雪が言った。
彼女に影響を受けた自分と同じ様に、彼女もまた、淳の影響を受けて変わって来ているー‥。
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彼らは互いを映す鏡だった。
二人は互いに影響を及ぼし合い、その影響はさざ波のように互いに打ち寄せる。
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<鏡(2)>でした。
最後の雪の黒淳化!!そしてそれを見た淳の衝撃!
なんというか、私もこの流れを知った時は衝撃でした。
自分に似てくる雪を通して、淳が己の過ちや欠けた所に向き合うことになるとは。
雪が完全ダークサイドに落ちるまでに、なんとか引き戻してもらいたいですね。頑張れ白淳!!
次回は<微かな違和感>です。
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淳は、過去問を雪に渡したことをわざと吹聴しましたよね?
雪もそれに気がついてるようなシーンがあったと思います。
淳は、雪も自分と同じような立場において、淳が今まで周囲に対して感じてた気持ちを理解させようとして、理解者は俺しかいないよ。
君には僕しか居ないんだよと洗脳?しようとしていた。
けど、雪は、淳のことを理解するだけではなく、ダークサイドを作り上げてしてしまったことがショックなのでしょうか?
合っていますか?
教えて下さいー。
白化する前の淳なら雪ちゃんの変化を喜んだはず。脱却しようとしてる今だからそこに危機感を感じるんでしょう。
お互い極端だったからちょうどいい感じに中和して今が一番いい感じに思えるけれど…
静香に対してもにらみを効かせつついい方に導いてる。動機に愛があれば淳とは同じにならないんじゃないかな?
やりすぎはいけないけどそこは話し合いすれば済む気がするよ。
どうか早まらないで…
淳の雪に対する気持ちがここからはっきりしそうですね。
止めるのか、放置するのか。
それともまたひっそりと暗躍するのか(笑)
性善説を信じたいですね(´・_・`)
やっぱり雪が自分で解決しようとしてて、気づかないうちに黒雪化していてしかも事後報告というのがショックなんですかね?
てか、今回の騒動、青田先輩何も知らなかったんですね。いつもは誰かしらから報告受けてませんでしたっけ?
うーん、私もショック受けてる意味がわかんないですー。
その罪の重さに愕然としてるのかなって思いました。もし意図的に変えようとしてたならなおのこと。
私は雪ちゃんの気持ちのほうがちょっと分からないです。
少し前まであれほど淳君を責めていた同じことを自分もしているという自覚があるなら、そこにもう少し葛藤があるような気がするんですけど…
ずっとチートラを密かに読ませて頂いておりました。
今回の回を見て私なりに思ったことなんですが、
先輩は自分の中の闇に昔から気付いていて、
今まで自分が裕福な家庭だからと
たかってくる周りや自分を利用しようとする人達には
自分なりの防御策(黒淳)で対処してきたが
それを間違ったことだとは少しも思ってなかった。
だからこそ周りから変な目で見られたり
変わっていると思われることに不安や
自分の何が間違っているのか?と考えるようになった。実の父親でさえ自分を理解しようとはしてくれず、より孤独を感じるようになる。
雪ちゃんと出会い、
彼女の中に自分との共通点が見え惹かれ始めるが、
考え方としては真逆な雪ちゃんと関わっていくうちに
真っ直ぐな考え方に影響されていく。
今までは自分の手を汚さずに嫌な相手を成敗していたが
いつしかその時と考え方が変わってきた自分に気付いた。人はなかなか変われるものではないと思ってたハズなのに雪ちゃんのおかげで人は変われるということを自分自身で体感できて嬉しく思っていたが、
今、雪ちゃんの瞳に昔の自分がいることに気付き
初めて今までの自分を鏡で見たような気持ちになる。
周りからどのように見られていたか、初めて先輩は雪ちゃんを通して知ることになり、驚く。
なので今先輩は、初めて黒淳を見た時の雪ちゃんと同じ気持ちになっているのではないでしょうか?
全然見当違いなことを言っていたらすみません( ; ; )
個人的な感想でした!
2児の子育てで大変な中、チートラの
更新ありがとうございます(o^^o)
今後も楽しみにしてます!
mimiさん
そうですよね!実は私も今回淳のリアクションに「え?そこショック受けちゃう?」って思いました(笑)
理解者が自分に似てくるんだからいいんじゃないの?って。
でもそれってくうがさんやうめやんさんがおっしゃってる通り、「100%の黒淳」の考え方なんですよね。雪に影響されてグレー化して来た淳にはショックだったんだと思います。。
くうがさん
>淳が初めて鏡にうつった自分の顔を見た
そうでしょうね。そしてそこにショックを感じた所が、二部で鏡を見ながら「俺がおかしい?どこが?」と自問自答してる頃と格段に変わった所だと思います。(わざとレポートを捨てたことで雪と喧嘩になった後の場面ですね)
静香のことは淳と亮のことが前提であって‥なので厳密に言えば静香のことを思っての行動ではないでしょうけど、結果良い方向に行きそうですけどね〜。
うめやんさん
>白からグレーに入ってきた雪と、黒からグレーに薄らいで来た淳
本当そんな感じですね。ここからの淳の足掻きが楽しみです。
きんぎょばちさん
今回の直美→健太の卒業試験ぶち壊し事件は柳は知らないでしょうし、淳は知らなかったんでしょうね。
きんぎょばちさんの仰るとおり、淳が過去問のことをわざと周りに話したのは、雪から助けを求められることを待っていたんでしょうね。前に淳の家で「いつも君は俺の助けを拒む」と嘆いていましたし。
けど結果雪がグレー化してしまうというオチを見せつけられ、茫然自失という‥。
宵っぱりさん
雪はまだ罪の意識とか自分が黒雪化してるとか気付いてない気がするんですよね‥。
周りに目を向けて、それこそ「誰より毅然と賢明に」あろうとした結果が今というだけで。これからそこに気付いていくのではないでしょうか!
riiiさん
おお!なんと気合の入った初コメ!ありがとうございます。
すばらしいまとめですね。淳の気持ちの軌跡が読み取れます。ありがとうございます。
ただ初めて黒淳を見た時の雪よりは、先輩は黒そうですよ(苦笑)だからこそこんなにショックを受けているのかもしれません。。
あー、スッキリです。
教えて下さり、ありがとうございます!!