『漢方の味』(鮎川静:著、日本漢方医学会出版部:1939年刊)という本をご紹介しています。今回は第8回目です。
◆肺結核と診断された胃病
鮎川氏は、西洋医学の問題点について、物質文明、すなわち人間の身体を機械扱いにする外国に発達した医学であり、胃も腸も肺も心臓も各々違った働きをするからいつでも切り離していいように思っているのがそもそもの間違いである、と指摘しています。
そして、漢方は病名にこだわらないところに非常に治療上の正しさがある、と語っています。
これはどういうことかというと、肺に主なる変化があり、次に肝臓、腎臓に変化があり、胃腸も充分ではないということがよくあるのだそうです。
西洋流ではこうした場合、肺炎とか肺結核といった特殊な病名をつけて治療して行こうというわけですが、それではうまくいかないということがよく分かる実例があるのでご紹介しましょう。
ある炭鉱の鉱長が、お尻に大きなおできが二つできて、痛みと発熱で苦しんでいたのですが、鮎川氏が往診して十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)と伯州膏(はくしゅうこう)を処方したところ、一週間程度で完治したそうです。
漢方の偉力に驚いたその鉱長は、義弟(妻の弟)の肺結核について鮎川氏に相談したそうです。
その義弟は、東京の学校に行って病気になり、病院を転々として入退院を繰り返したものの病状は一向に改善せず、医療不信に陥って自宅で寝ている状態だったそうです。
それを聞いた鮎川氏は、鉱長に著書を二冊進呈し、義弟に読ませるよう勧めたそうです。
数日後、鉱長は義弟から届いた手紙を持参し、ぜひ鮎川氏に診(み)てもらいたいが、咳嗽(せき)がひどく、微熱があり、食欲不振で非常に痩(や)せているため、長距離の移動に耐えられないので薬を送って欲しいという義弟の希望を伝えたそうです。
そこで、手紙に書かれていた症状を頼りに、鮎川氏が三週間分の漢方薬を鉱長に託したところ、約一か月後に義弟が鉱長と一緒に鮎川氏の医院を訪ねてきたそうです。
鮎川氏は早速彼を診察し、著しい胃の弛緩(ゆるみ)と胃内停水を確認したので、「これは肺病じゃない、胃病だ」と断言すると、義弟の顔が光明に輝いたそうです。
鮎川氏は義弟にその理由を説明し、茯苓飲(ぶくりょういん)と当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)の兼用十日分を与えたところ、義弟は十日後には見違えるほどよくなり、その後も同じ薬を一か月継続してすっかり元気になったそうです。
鮎川氏によると、せきの原因も食欲不振の原因も肺結核になった原因もこの胃病にあり、胃病の原因は主として腎臓の作用(はたらき)が足らないせいなのだそうです。
つまり、腎臓で処理できなかった水分が胃にあふれて胃内停水となり、その結果、食欲不振と余分な水分による冷えによって風邪(かぜ)をひきやすい体質になり、それが慢性化したところに結核菌が入り込んで肺結核になってしまったというわけです。
西洋医学の専門家は、自分の専門以外のことが分からないため、こういった大事なことを見逃してしまうのですね。
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今回登場した茯苓飲は、本ブログの「消化剤の有害性」でご紹介した茯苓沢瀉湯と同じ水毒の薬で、『皇漢医学 第2巻』(湯本求真:著、南江堂:1937年刊)という本によると、胃内停水と食欲不振に有効だそうです。
また、当帰芍薬散は、本ブログの「呼吸器病」でご紹介した桂枝茯苓丸と同じ瘀血(おけつ)の薬で、『臨床応用漢方医学解説』(湯本求真:著、同済号書房:1933年刊)という本によると、貧血で桂枝茯苓丸が使えない人に適するそうです。また、慢性胃腸病や腎臓炎にも有効だそうです。
こういった瘀血と水毒を改善する漢方薬によって体調を整えれば、身体の機能が正常になるため、たとえ結核菌のような恐ろしい病原体でもその居場所を失ってしまうようです。
このことは、今世界を混乱に陥れている新型コロナウイルスについても同様だと思います。今からでも遅くないので、ぜひみなさんも瘀血と水毒を減らして、万全な体調でウイルスの感染拡大に備えていただきたいと思います。
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