生物学者のマーク・ラッペという人が書いた『皮膚 美と健康の最前線』(川口啓明・菊地昌子:訳、大月書店:1999年刊)という本には、紫外線の害が分かりやすくまとめられているので、少しご紹介しましょう。
著者によると、日焼けは健康そうに見えますが、実は皮膚が損傷を受けたしるしにすぎないそうです。
太陽光にはさまざまな波長の光が含まれていますが、そのうちの波長の短い紫外線が肌を傷つけている犯人です。
紫外線は、その波長によってUVA(320~400ナノメートル)、UVB(290~320ナノメートル)、UVC(200~290ナノメートル)の3つに分けられます。
UVAを浴びると、数分以内に皮膚のメラニンが酸化され、黒く変色しますが、これは適応的な反応で、皮膚の防御体制が補強されたことを示すものです。
UVBは、大部分がオゾン層によって吸収され、地上に届くのは数パーセントだそうですが、UVBを浴びると、皮膚にはサンバーンとよばれる紅斑と、焼けるような感覚が生じます。
白人では、熱帯の直射日光を15分以上浴びるとサンバーンが生じるそうで、このようなサンバーンが何年にもわたって断続的にでも生じると、おおよそ15年後にはがん性の皮膚病変が生じるそうです。
UVCは最も危険ですが、通常はオゾン層によって吸収されるので地上には届きません。
近年、オゾン層の破壊が問題になっていますが、それは、オゾン層が破壊されるとUVCが地上に届くようになり、皮膚がんが発生する危険性が高まるからです。
しかし、紫外線によってがん細胞が生じても、免疫細胞によってがん細胞が破壊されれば何も問題がないように思われますが、実は、紫外線は免疫機能にも影響を与えるそうです。
すなわち、紫外線を1時間も照射すると、皮膚の免疫系は機能しなくなり、がん細胞は野放し状態になるため、皮膚がんが発生する危険性が高まるのだそうです。
なお、日焼けサロンなら管理されているから大丈夫だと思いがちですが、若いころ日焼けサロンに通っていた人に、中年になってから乳房や臀部など直射日光が当たらない部分にがん性の皮膚病変が生じた例もあるそうなので、日焼けサロンもできるだけ避けた方がよさそうです。
また、最近は日焼けどめクリームが売られていますが、これを過信するのは禁物で、動物実験によると、日焼けどめクリームを塗っても、紫外線による悪性黒色腫の発生を防げないそうです。
ところで、これは余談ですが、ほとんど太陽光を浴びずに生きてきた人の肌は、70歳を超えても非常に若々しいそうです。
つまり、皮膚にシワがより、弾力がなくなるのは、老化のせいではなく、太陽光を浴びすぎたのが原因だそうです。
ただし、まったく太陽光を浴びないのも問題があるようです。
年をとると骨が弱くなるのは、外出が減って太陽光を浴びる時間が少なくなり、同時に小腸によるカルシウムの吸収や皮膚のビタミンDの合成能力が低下するためだそうです。
また、太陽光は、睡眠と覚醒のサイクルを調節するのにも必要不可欠で、一日一回は太陽光を浴びることで生活のリズムを正しく保つことができるそうです。
したがって、私は1日30分程度の日光浴や散歩はむしろ必要だと思います。紫外線が気になる夏場は、日傘などで光量を調節すればよいのではないでしょうか?
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