しんぶん赤旗 2013年1月11日(金)
06年米国で酷似崩落事故 安全対策に生かされず
元現場監督「点検機会逸した」
トンネル内のつり天井板が崩落し9人の命を奪った中央自動車道「笹子トンネル」(山梨県大月市)事故で、2006年にも、米国・マサチューセッツ州ボストンの高速道路のトンネルで、きわめて類似した事故が起きていたことが分かりました。同事故は08年、国内に詳しく紹介されましたが、「緊急点検」などの安全対策には生かされませんでした。 (遠藤寿人)
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(写真)笹子トンネル上り線の緊急点検で、アンカーボルトの脱落が見つかった場所=2012年12月14日(中日本高速道路提供)
事故は06年7月10日、ボストンの高速道路ビック・ディグのテッド・ウィリアムズ・トンネルで天井板が崩落。女性1人が死亡しました。
トンネルは1993年に建設され、天井からつった鋼材が、約2トンの天井板を支える仕組み。米国国家運輸安全委員会の事故報告書(07年)は、トンネル最上部のコンクリートに穴をあけ樹脂接着剤でとめたアンカーボルトが、天井板の重みに耐えられずに次第に抜けたと指摘しています。
「笹子」上り線のつり天井でも、接着剤でとめたアンカーボルトが使用され、欠落、脱落、緩みなど1211カ所で不具合が見つかっています。
高速道路の施設を保有し建設債務の返済を行う独立行政法人「日本高速道路保有・債務返済機構」は08年、欧米の高速道路の制度について「調査報告書」を作成。その中でボストンの事故について10ページにわたりリポート。事故概要や「ボルトを固定するのに用いられたエポキシ樹脂に問題があった」と指摘する新聞記事などを紹介しています。
同法人によると「直近の調査報告書は高速道路各社や国交省に送付しているが、4年前のことは分からない」といいます。
中日本高速道路は「(調査報告書は)公表されている資料なので当時、見ていたと思う。ただどこの部署が見ていたのか。技術部か、老朽化担当か確認している」といい、「調査報告書を受けて緊急点検などは行っていない」と話します。
国土交通省高速道路課は「(ボストンの)事故情報がどう伝達されたのか、組織として知っていたのか、個人として理解していたのか調査している」といいます。
同様な構造を持つトンネルとアンカーボルトの不備が指摘されていたにもかかわらず、人命尊重の視点から「緊急点検」などの必要性は検討されなかったのです。
トンネル工事の現場をよく知る元現場監督は「論外の話だ。報告書を見たら『大丈夫か』と危機感を持つのが当たり前だ。すぐに一斉点検すべきだった。そのあと東日本大震災がおこり、『やばいよ』とすぐ打音検査をやるべきだった。笹子は2回点検の機会を逸した。結局、人が亡くならないと動かないということか」と憤ります。
06年米国で酷似崩落事故 安全対策に生かされず
元現場監督「点検機会逸した」
トンネル内のつり天井板が崩落し9人の命を奪った中央自動車道「笹子トンネル」(山梨県大月市)事故で、2006年にも、米国・マサチューセッツ州ボストンの高速道路のトンネルで、きわめて類似した事故が起きていたことが分かりました。同事故は08年、国内に詳しく紹介されましたが、「緊急点検」などの安全対策には生かされませんでした。 (遠藤寿人)
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(写真)笹子トンネル上り線の緊急点検で、アンカーボルトの脱落が見つかった場所=2012年12月14日(中日本高速道路提供)
事故は06年7月10日、ボストンの高速道路ビック・ディグのテッド・ウィリアムズ・トンネルで天井板が崩落。女性1人が死亡しました。
トンネルは1993年に建設され、天井からつった鋼材が、約2トンの天井板を支える仕組み。米国国家運輸安全委員会の事故報告書(07年)は、トンネル最上部のコンクリートに穴をあけ樹脂接着剤でとめたアンカーボルトが、天井板の重みに耐えられずに次第に抜けたと指摘しています。
「笹子」上り線のつり天井でも、接着剤でとめたアンカーボルトが使用され、欠落、脱落、緩みなど1211カ所で不具合が見つかっています。
高速道路の施設を保有し建設債務の返済を行う独立行政法人「日本高速道路保有・債務返済機構」は08年、欧米の高速道路の制度について「調査報告書」を作成。その中でボストンの事故について10ページにわたりリポート。事故概要や「ボルトを固定するのに用いられたエポキシ樹脂に問題があった」と指摘する新聞記事などを紹介しています。
同法人によると「直近の調査報告書は高速道路各社や国交省に送付しているが、4年前のことは分からない」といいます。
中日本高速道路は「(調査報告書は)公表されている資料なので当時、見ていたと思う。ただどこの部署が見ていたのか。技術部か、老朽化担当か確認している」といい、「調査報告書を受けて緊急点検などは行っていない」と話します。
国土交通省高速道路課は「(ボストンの)事故情報がどう伝達されたのか、組織として知っていたのか、個人として理解していたのか調査している」といいます。
同様な構造を持つトンネルとアンカーボルトの不備が指摘されていたにもかかわらず、人命尊重の視点から「緊急点検」などの必要性は検討されなかったのです。
トンネル工事の現場をよく知る元現場監督は「論外の話だ。報告書を見たら『大丈夫か』と危機感を持つのが当たり前だ。すぐに一斉点検すべきだった。そのあと東日本大震災がおこり、『やばいよ』とすぐ打音検査をやるべきだった。笹子は2回点検の機会を逸した。結局、人が亡くならないと動かないということか」と憤ります。