ダイヤモンド社より転載
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「結論ありき」で検証をするのでは?
筆者の追及に対する文科省の見解とは
遺族たちにとって、もう1点、どうしても納得できないことがある。それは、宮城県の津波の被害想定を過去に作成してきた首藤教授が、委員のメンバーに名を連ねていることだ。
2004年から使用されている宮城県第3次被害想定の津波ハザードマップは、この首藤氏の門下の研究者が作成を牽引した。
大川小学校のある地区は、この津波のハザードマップの被害想定エリアから外れていた。
こうした点は、アンケートでも、遺族から懸念が示されている。
これに先立つ11月23日、文科省の前川喜平官房長は、検証委員会を巡る遺族との円卓会議後の記者会見で、首藤教授が検証委員に入ることで中立性は保てるのか、を尋ねた記者の質問に、こう答えている。
前川:「首藤先生が津波研究の第一人者であるということは震災後も変わらないことだと思います。そういう意味で津波工学と言う専門性を持った方に入っていただきました。
ハザードマップのあり方については、大川小学校の事故検証のために必要である限りは、対象になってくると思うんですけれども、それは改めて検証委員会の中でご意見をいただくことになると思います。けれども、(教授も)これまでの自らの研究について見直すことをなさるんだろうなと思います。研究者の立場でさまざま防災に関わってきた人たちが共通に抱いている思いもありますから、その点について私は研究者としての良心に疑いを持っておりません」
では、元々入札を予定していた市教委に代わり、文科省は社会安全研究所をどのような経緯で検証委員会事務局の委託先に選定したのか、筆者が質問した。
「社会安全研究所への委託は文科省の方から市に要請した。市の方ではもともと入札という考えだったのかも知れませんけれど、文科省の方では最もふさわしい所に随意契約でお願いしたほうがいいという風に判断した。そして3週間くらい前、こういう形で社会安全研究という所にお願いしたいんだということを市の方にご理解いただいた」
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そもそも、今回の検証委員のメンバーの中に、なぜ津波工学の専門家が必要だったのか。また、委員の候補に挙がっている専門家のキーワードを拾っていくと、大川小の惨事は「現場のヒューマンエラーと地域との連携不足」という結論に落としこまれそうだということが見えてくる。そこで筆者は、この検証委員会がそうした結論ありきで設置されたように感じられるという疑問も聞いてみた。
以下は、前川官房長の説明。
「津波工学の専門家がなぜ必要なのかについては、検証においてハザードマップの問題も浮き彫りになってくると思いますので、津波工学の観点からの検証は不可欠ではないかと私共は思っております。ほかの災害であればその災害の専門家が必要になってくると思います」
「結論ありき(で検証が行われるのでは?)と言われる理由がよくわからないんですけれども、さまざまな観点からの検証は必要だと思うんです。けれども何か一定の方向に持って行こうと考えているわけではありません。しかし、ヒューマンエラーの要素というのは確かにあるだろう。その観点は不可欠ではないかと思います。ただ、さまざまな観点からの複眼的な検証ができるようにしたいので、答えのない形で(検証を)委嘱したいと思っております」
文科省がここまで胸を張るのだから、きっと遺族たちも納得できるような検証がきちんと行われ、それぞれの利害当事者に関係なく、真相は解明されるのであろう。
あの日、なぜ学校が子どもたちを連れたまま、50分間、校庭に待機し続けたのか。そして、津波に襲われる1分前になって、なぜ突然、川の堤防に向かおうとしたのか。私たちは様々な資料を入手し、証言を聞くことで、7ヵ月にわたって追い続けてきた。
「化け物に殺されたんだよ」
真実の究明を求めて、行政と対峙し続けてきたある遺族は、そう無念そうに話した。
検証委員会の検証とは別に、その“化け物”の正体を遺族とともに追い続けていこうと思う。
(池上正樹)
大川小学校関係者や地域の方、一般の皆さまからのお話をお聞きしたいと思っています。情報をお持ちの方は、下記までお寄せください。
teamikegami@gmail.com(送信の際は「@」を半角の「@」に変換してお送りください)
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「結論ありき」で検証をするのでは?
筆者の追及に対する文科省の見解とは
遺族たちにとって、もう1点、どうしても納得できないことがある。それは、宮城県の津波の被害想定を過去に作成してきた首藤教授が、委員のメンバーに名を連ねていることだ。
2004年から使用されている宮城県第3次被害想定の津波ハザードマップは、この首藤氏の門下の研究者が作成を牽引した。
大川小学校のある地区は、この津波のハザードマップの被害想定エリアから外れていた。
こうした点は、アンケートでも、遺族から懸念が示されている。
これに先立つ11月23日、文科省の前川喜平官房長は、検証委員会を巡る遺族との円卓会議後の記者会見で、首藤教授が検証委員に入ることで中立性は保てるのか、を尋ねた記者の質問に、こう答えている。
前川:「首藤先生が津波研究の第一人者であるということは震災後も変わらないことだと思います。そういう意味で津波工学と言う専門性を持った方に入っていただきました。
ハザードマップのあり方については、大川小学校の事故検証のために必要である限りは、対象になってくると思うんですけれども、それは改めて検証委員会の中でご意見をいただくことになると思います。けれども、(教授も)これまでの自らの研究について見直すことをなさるんだろうなと思います。研究者の立場でさまざま防災に関わってきた人たちが共通に抱いている思いもありますから、その点について私は研究者としての良心に疑いを持っておりません」
では、元々入札を予定していた市教委に代わり、文科省は社会安全研究所をどのような経緯で検証委員会事務局の委託先に選定したのか、筆者が質問した。
「社会安全研究所への委託は文科省の方から市に要請した。市の方ではもともと入札という考えだったのかも知れませんけれど、文科省の方では最もふさわしい所に随意契約でお願いしたほうがいいという風に判断した。そして3週間くらい前、こういう形で社会安全研究という所にお願いしたいんだということを市の方にご理解いただいた」
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そもそも、今回の検証委員のメンバーの中に、なぜ津波工学の専門家が必要だったのか。また、委員の候補に挙がっている専門家のキーワードを拾っていくと、大川小の惨事は「現場のヒューマンエラーと地域との連携不足」という結論に落としこまれそうだということが見えてくる。そこで筆者は、この検証委員会がそうした結論ありきで設置されたように感じられるという疑問も聞いてみた。
以下は、前川官房長の説明。
「津波工学の専門家がなぜ必要なのかについては、検証においてハザードマップの問題も浮き彫りになってくると思いますので、津波工学の観点からの検証は不可欠ではないかと私共は思っております。ほかの災害であればその災害の専門家が必要になってくると思います」
「結論ありき(で検証が行われるのでは?)と言われる理由がよくわからないんですけれども、さまざまな観点からの検証は必要だと思うんです。けれども何か一定の方向に持って行こうと考えているわけではありません。しかし、ヒューマンエラーの要素というのは確かにあるだろう。その観点は不可欠ではないかと思います。ただ、さまざまな観点からの複眼的な検証ができるようにしたいので、答えのない形で(検証を)委嘱したいと思っております」
文科省がここまで胸を張るのだから、きっと遺族たちも納得できるような検証がきちんと行われ、それぞれの利害当事者に関係なく、真相は解明されるのであろう。
あの日、なぜ学校が子どもたちを連れたまま、50分間、校庭に待機し続けたのか。そして、津波に襲われる1分前になって、なぜ突然、川の堤防に向かおうとしたのか。私たちは様々な資料を入手し、証言を聞くことで、7ヵ月にわたって追い続けてきた。
「化け物に殺されたんだよ」
真実の究明を求めて、行政と対峙し続けてきたある遺族は、そう無念そうに話した。
検証委員会の検証とは別に、その“化け物”の正体を遺族とともに追い続けていこうと思う。
(池上正樹)
大川小学校関係者や地域の方、一般の皆さまからのお話をお聞きしたいと思っています。情報をお持ちの方は、下記までお寄せください。
teamikegami@gmail.com(送信の際は「@」を半角の「@」に変換してお送りください)