しんぶん赤旗 2014年10月27日(月)
日本の雇用を壊す 派遣法改悪案Q&A
安倍晋三政権は、国民の批判をあびて通常国会で廃案になった労働者派遣法の改悪案を今国会に再提出し、成立をねらっています。これまで「臨時的・一時的」な業務に限って認めてきた派遣の原則を大転換し、無制限に広げようとする重大な内容です。法案の問題点をQ&Aで紹介します。
派遣原則を大転換?
「常用代替の防止」破棄
Q 法案が派遣の原則を大転換するものだというのは、どういうことでしょうか?
A 雇用には、正社員、期間社員、パート、アルバイト、そして派遣などさまざまな形態があります。このなかで派遣は雇用の形態がまったく違います。正社員や期間社員などが勤務先の企業による「直接雇用」であるのに対して、派遣は仲介業者が間に入って賃金をピンハネし、貸し出される「間接雇用」です。
本来、雇用は、企業主が自分の会社で働かせる労働者を直接採用し、労働契約を結んで使用する「直接雇用」が原則です。派遣労働はこの原則に反しています。それを労働者派遣法で「例外」として一定の規制のもとに合法化したのです。
「一定の規制」とは「常用代替の防止」です。企業が正社員を切り捨て、コストが安い派遣への置き換えがおこらないようにすることです。派遣はあくまで「臨時的・一時的」な利用に限って可能とし、製造業の生産ラインのような恒常的な業務は正社員があたるという考えです。
この原則を担保するために、期間制限のない専門業務派遣を政令で指定(現在26業務)し、それ以外の一般業務派遣は期間を制限(原則1年、最大3年)しています。これが常用代替の防止措置です。
今回の派遣法改悪案は、この派遣の原則を破棄して、根本から変えようというものです。企業が正社員を切って、無制限に派遣を利用できるようにするための大転換です。
派遣労働どう変える?
自由勝手に利用する
(写真)パソナ本社前で派遣法改悪を許すなと声をあげる雇用共同アクションの人たち=8日、東京・大手町
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Q 法案は、派遣労働をどのように変えようとしているのですか?
A これまでの常用代替防止の規制措置をご破算にし、企業が自由勝手に派遣を利用できるように変えます。
派遣労働者が派遣会社に無期雇用で雇われている場合は、派遣期間の制限がなくなります。派遣会社の正規雇用にすれば安定雇用になるから、不安定な身分が改善されるという理屈です。これは、事実に反するでたらめな主張です。
2008年のリーマン・ショックで「大量派遣切り」が強行されたとき、派遣会社との雇用形態とは無関係に解雇されました。景気が悪くなったからと派遣先から大量に派遣契約を打ち切られたとき、「うちの派遣労働者は無期雇用だから」と雇用を守り、世間並みの賃金などを保障できる派遣会社はどれだけあるでしょうか。
派遣会社に有期雇用されている派遣労働者の場合は、派遣期間を3年に制限します。しかし、派遣先企業が労働組合(または過半数代表者)の意見を聞けば制限なく延長できます。労働組合の賛否はどうであれ聞きさえすればいいという、「聞くだけ」派遣です。
この法案が成立すれば、派遣労働者は派遣先への正社員雇用の道が閉ざされ、いつまでも低賃金で不安定な働き方から抜け出せず、派遣のまま働かざるをえなくなります。企業は正社員雇用をやめて、派遣を導入して使い捨てる経営に切り替える危険が高まります。
派遣から正社員への道は?
ほぼ閉ざされる
Q 派遣法が変われば、派遣労働者から正社員になれますか?
A 派遣から派遣先企業の正社員になる道はほぼ閉ざされてしまいます。
現在の派遣法では、派遣労働者が派遣先企業で働けるようになる規定があります。一つは、禁止された業務への派遣や、派遣期間を超えた場合、派遣労働者が派遣先で働くことを希望すれば、派遣先企業は労働者を雇い入れるように努めなければならないとする規定です。
もう一つは、来年10月に施行される規定で、期間制限を超えるなど違法があった場合、派遣先企業が派遣労働者に労働契約を申し込んだとみなす規定があります。
しかし、改悪案では、派遣元企業で無期雇用として働く派遣労働者について、派遣先企業で働けるようにする努力義務はありません。
また、違法派遣があった場合の雇用契約を申し込んだとみなす規定では、そもそも派遣期間が無期限・無制限になるため、期間制限違反はほぼなくなってしまいます。
改悪案の「雇用安定措置」は、ほとんど実効性はありません。
また改悪案では、派遣労働者のキャリアアップにむけて、「教育訓練を実施しなければならない」としています。しかし、派遣元企業が実施するうえ、その内容も明らかではありません。労働者が希望するキャリアアップにつながるのか、まったくわかりません。
「女性の活躍」は?
永久派遣を押しつけ
Q 「女性の活躍」につながりますか?
A いいえ逆です。ますます劣悪な働き方になるだけです。
安倍政権は「女性の活躍促進」を宣伝し、今国会に法案を出しています。このなかで「『正社員実現加速プロジェクト』の推進」として、「派遣労働者の直接雇用・正社員化に資する法制度の整備」を掲げました。
しかし派遣法の「整備」によって、女性の直接雇用・正社員化はますます困難になります。すでに見たように直接雇用といってもそれは派遣会社にたいしてであって、派遣先の正社員として雇われる道は閉ざされます。
派遣法改悪は、女性に永久派遣を押しつけ、安上がりの労働力として活用しようということです。
いま女性の活躍を本気で考えるなら、賃金や雇用などでの理不尽な差別の解消が何よりも大事です。安倍政権にはその姿勢がありません。
日本の女性労働者(役員を除く)は54・5%がパート、臨時、派遣などの非正規雇用です。派遣は68万人といわれています。賃金も男性の6割程度にすぎません。
真に「女性の活躍」を実現するためには、派遣は臨時的・一時的業務に厳しく限定して女性の安易な利用をやめさせること、派遣先の労働者との均等待遇を義務づけることが重要です。
派遣先の責任は?
労働者保護なくなる
Q 派遣労働者の処遇について派遣先の責任はどうなるのでしょうか?
A これは大問題です。派遣先の責任がいっさいなくなるのが今回の法案の重要な特徴です。
いまの派遣法は、同じ業務で最長3年という期間制限があります。これを超えて働かせる場合、派遣先企業は労働者に直接雇用を申し込む義務があります(第40条4項)。これが改悪されてなくなります。しかも来年10月から実施する直接雇用の「みなし」規定も機能しなくなります。
ことし1月に出された労働政策審議会の建議に、派遣は労働市場で労働力の需給調整に重要な役割を果たしていると書かれています。「景気の調整弁」として企業が自由に派遣を使えるようにするというのが最大のねらいです。人間労働という視点から労働者を保護する姿勢はまったくみられません。
したがって派遣先の労働者との均等待遇など、派遣先企業の負担になるような労働者保護措置はありません。
安倍首相は国会で、教育訓練やキャリアアップを充実させて処遇を改善するかのような答弁をくりかえしていますが、実行される保証はありません。派遣会社はそのようなシステムをもっていませんし、派遣先には情報提供程度のことしか求めていません。