フェンネル氏の奇妙な生活

気付いた世界の中の小さな出来事と水彩画と時たま油絵と思いついたことを爺さんが一人語りいたします。

fairy tales

2017-03-14 08:06:35 | Weblog

「まだあげ初めし前髪の林檎のもとに見えしとき前にさしたる花櫛の花ある君と思ひけり」病院の待合室で認知症の検査にきた老女がつぶやく。「やさしく白き手をのべて林檎をわれにあたへしは薄紅の秋の実に人こひ初めしはじめなり」と一緒に言ってやる。老女が微笑む。「わが心なきため息のその髪の毛にかかるときたのしき恋の盃を君が情けにくみしかな」と心の中でつぶやく。オレは最後の句が好きだから「林檎畑の樹の下におのずからなる細道は誰が踏み初めしかたみぞと問ひたまうこそこひしけれ」と頭の中で落ち着かせる。「こんなのは覚えているんだけどね、桃太郎も金太郎も忘れた」と先ほどの検査で問われたことを言う。出来なかったことがくやしかったのかな?それとも自己弁護か?人はプライドを持って生きているものだから認知症といえどもその尊厳は守ってやらねばいけないんだ。ましてや知ってる人となればなおさらのこと。老女は簡単な計算ができなかった。今の季節も林檎ができる秋だと思っていた。初期の認知症とのこと。それでもおとぎ話のような奇跡が起こるかもしれない。水を1日1.5ℓ飲んで1日30分の散歩、他人とのおしゃべりで脳は活性化しますよと医者は言ってくれた。この程度では軽度なんだろうね。「若い心をもてば乗り切れるかもしれない」と老女の後ろ姿に声援を送る。心持、足どりが軽やかに見えた。

コメント
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