水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

スピン・オフ小説 あんたはすごい! (第百三十回)

2010年11月03日 00時00分00秒 | #小説
  あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第百三十回
 話は上手くできている。児島君は電車通勤だから飲酒の心配はない。私も車ながら、お決まりの例のパターンがあるから、眠気(ねむけ)警察署の方々にご足労願う必要はまったくなかった。そんなことで、児島君を乗せた私の車はみかんへ向け発進したが、これも私のお決まりのコースで、先にA・N・Lへ寄って軽い夕食を済ませ、頃合いの時間になるのを待った。別に時間を潰(つぶ)さなくても店は開いているように思えるが、なんか妙な予感がして七時頃までみかんへ向かうのを、ずらしたのだ。実は、私が玉にお伺(うかが)いをたてなかったから、玉は正式なお告げの声を私に届けなかったのだが、私の背広ポケットには小玉が常に入っているから、その小玉が発した霊力がみかんの酒棚に置かれた玉へと届き、玉の霊力で取り敢(あ)えず霊感だけを私に送ったのだと思われた。私が玉に直接、お伺いをたてていれば、恐らく霊感ではない霊力で、『七時頃に出なさい…』などとお告げがあったのかも知れない…と、私は先入観を働かせた。この時私は、まだそこまでの玉の威力を知らなかった。私が沼澤氏のように完全な霊力のコントロールができるようになるのは一年以上先で、この段階では未熟さも、やむを得なかった。それはともかくとして、一時間後、私と児島君はみかんのカウンター椅子に腰を下ろしていた。

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残月剣 -秘抄- 《残月剣④》第八回

2010年11月03日 00時00分00秒 | #小説

        残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《残月剣④》第八

そして、振り下ろされた時点では、既に体は鴨下側へ向きを変えて立て直され、中段に構えられていた。正眼に構えを整える迄の俊敏さも、前回よりいっそう速さを増したようであった。鴨下が動いたことに驚いたのは、左馬介よりも、むしろ長谷川である。長谷川も、当然ながら打ち込む機会を狙っていたから、予想外の鴨下の打ち込みは、機先を制された感が否めない。だから、その後、体勢を立て直すまでの左馬介に打ち掛かればよかったのだが、師範代の面子がそれを許さなかった。鴨下に続いての二の太刀は、なんとも格好が悪い、と長谷川は躊躇したのだ。そうはいっても、打ち込まないという訳にもいかず、結局はひとまず引いて、ふたたび床へ座すのを待ち、次の攻めに掛かる腹を括った。
 左馬介に動揺は一切、見られなかった。やはりそれは、長い修行の成果であると云わざるを得ない。鴨下などは、打ち下ろした竹刀が床を叩いたことで、左馬介の腕を改めて知らされた格好であり、ただ茫然と立ち尽くしている。長谷川の方は、そこまで不様(ぶざま)ではないものの、それでも、もはや勝ち目がないことを認めた伏し目がちの面相で立っていた。左馬介は、ふたたび床板へと座し、静かに竹刀を左脇へと置く。その時、鴨下が突然、低姿勢な言葉を吐いた。


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