水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

スピン・オフ小説 あんたはすごい! (第百四十九回)

2010年11月22日 00時00分00秒 | #小説
  あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第百四十九回
 次の日、お告げは現実のものとなって現れた。私は鍋下(なべした)専務に呼ばれ、専務室にいた。
「昨日(きのう)は御苦労さん。で、君を今日、ここへ呼んだのは他でもない。この前、…と云っても鳥殻(とりがら)君が生前中の話なんだが、君を呼んだことがあったね?」
「はい、記憶いたしております」
「あの時、この四月から次長を頼むと内示し、取締役会でも正式に承認されたんだがね。鳥殻君の訃報(ふほう)で状況は一変した。そこで、あの話は一応、なかったことにしてもらうよ」
「えっ! そんな…」
「まあ、落ちついて聞きたまえ。話には続きがある。そこでだ、改めて鳥殻君の後任の部長をお願いしたいと考えているんだが、なにか不都合なことはあるかね?」
「ええっ!! 私を営業部長に、ですか? …ふ、不都合など、あ、ある訳がありません」
「ははは…、急な話で君も面食らったろう。まあ、そういうことだ。これから緊急の取締役会が開かれるんだが、実はこの話が議題なんだよ。ほぼ、決まりなんだがね」
「はあ…」
「そういうことだ! 四月からよろしく頼むよ」
 鍋下専務はニコッと笑い、私の肩を軽くポンと叩いた。私が営業部長とは…。お告げどおりとはいえ、新たな状況の展開に、私の心は動揺していた。

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残月剣 -秘抄- 《残月剣④》第二十七回

2010年11月22日 00時00分00秒 | #小説

        残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《残月剣④》第二十七回
 冬場だから幾らか寒いのは当然で、落ちた枯れ枝で暫し暖を取ることにして、左馬介は落ちた小枝を拾い始めた。焚き付けの火が瞬く間に炎となり、左馬介の冷えた身体を温める。ただ、暖を取っているだけの左馬介ではなかった。当然、視覚の向こうにある二本の木の枝を眺めつつ、吊るした反動の振幅などを脳裡に想い描いているのだ。無論、このことは昨日考えて結論に至らなかったことなのだが、実際に木の枝に縄を吊るして木切れを括り付け、それを叩いた時、長い縄ならば振幅が大きい分、反動も遅れる。短ければ、その逆なのだ。こうしたことは、必然的に生じる事実だから何の問題もないのだが、木切れを打ち砕く角度や間合い、振り下ろす竹刀の強さなどにより、反動は大きく変化するのである。これのみは予測することが出来なかった。
 
身体も温みに満たされ、漸く兵平静と変わらなくなった左馬介は、二本の樹の各々に持参した縄を結び付けることにした。まず、縄先を小石で括り付け、その先を手で回転させつつ枝を目がけて投げ上げるのである。当然、石の重みで縄は枝を通り過ぎ、地面へと落下する。その落下した先の石を外し、円状の輪に結んだ後、投げなかった方の縄先を輪に通して引っ張る。すると、円状の部分は次第に上がり、枝に結びつく…という寸法だ。


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