水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

スビン・オフ小説 あんたはすごい! (第百五十回)

2010年11月23日 00時00分02秒 | #小説
  あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第百五十回
果たして私に勤まるんだろうか…という単なる自信のなさと、自分に対して始まった途方もない本格的な異変の序章が、私を不安に陥(おとしい)れていた。こういうときは、みかんだ…と、私は店へ寄ることにした。酒棚の玉や沼澤氏のことも気になっていたから丁度、好都合だった。
「ママ、偉いことになりましたよ」
「そうだってね、聞いたわよ。部長さん、お亡くなりになったんだってね、ご愁傷さま」
「あっ! それ…もあるけど、今日の違うんですよ。俺に異変が起こったんですよ。お告げがあったんですが、そのとおりになって…」
 私は決壊したダムのように、止めどなく語りだした。
「ちょっと待ってよ。…ゆっくり話してくんない、その話…」
 早希ちゃんがボックス席から重い腰を上げ、カウンター椅子(チェアー)へ近づいた。
「ああ、早希ちゃんも興味があるんなら…」
「興味はないんだけど、これに関係するかも、と思って一応、聞いておこうと…」
 隣の椅子へ座った早希ちゃんは、携帯を私の前へ示した。
「なんだい? 携帯がどうかしたの?」
「私、投資を少しやってんのよ。だから、満ちゃんが偉くなれば、会社に投資を、な~んてねっ」
 早希ちゃんは悪戯(いたずら)っぽくニコリと笑った。私も少しすごくなりかけているみたいだったが、早希ちゃんは遥かに私よりすごかった。

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残月剣 -秘抄- 《残月剣④》第二十八回

2010年11月23日 00時00分00秒 | #小説

        残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《残月剣④》第二十八回

 この方法は、幻妙斎に命じられて行った山駆けの際に浮かんだ発想なのだが、その折りは上手くいったので、左馬介は、そう不安には思っていなかった。事実、今回も思案通りにやると、上首尾にいった。次に、枝から垂れ下がった先の木切れを括り付ける。この高さは、以前よりはやや低めにした。即ち、地面へ少し近づけて括り付けたのである。とは云っても、その高さは、地面より五尺は優にある。左馬介は大刀で程よい長さの枝を選ぶと斬り払い、更に脇差を使って木刀に仕上げた。そうして、腰に差した差し領の二本は、ひとまず地面に置き、作った木刀を握りしめて立った。その位置は丁度、括り付けた木切れが垂れ下がっている二本の縄の中ほどである。未だ呼吸は乱れて定まっていない。深呼吸を一つ、大きく吸い、静かに吐く。それでも未だ集中出来ない気分のムラを左馬介は感じた。それを取りの除こうと、左馬介は、ゆったりと両の瞼を閉ざした。左馬介に呼応するかのように、吹いていた冷ややかな微風が突如として止まった。勿論、吊り下げられた縄先の木切れは、左右ともに揺れず、停止している。次の一瞬、時刻の問を突くかのように左馬介の木刀が動いた。


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