水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

スビン・オフ小説 あんたはすごい! (第百五十三回)

2010年11月26日 00時00分02秒 | #小説
  あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第百五十三回
 結局、沼澤氏が突然、店に出現したという怪談じみた話は、単なる笑い話で一件落着した。
「そうそう、沼澤さん。前回お会いしてからしばらく経(た)ちますが、私の身の回りで今まで以上の大きな異変が起こり始めたんですよ。それに突然、お告げも聞こえてきましたし…」
「そりゃ、そうでしょう。時期的に考えますと。決して不思議なことじゃありません。むしろ当然で、少し遅いくらいです。しかし、今起きていることなど、今後のことを考えりゃ、ほんの些細(ささい)なことなのです」
「えっ! どういうことでしょう?」
「この話は前にも云ったと思いますよ。あなたは日本の、いや全世界の救世主となるんです。だから、『あんたはすごい!』って、二度、今回で三度目ですが…、云ってる訳です」
「いやあ…益々、分かりませんが…」
「気にされずとも、そのうち自覚されると思います」
「それにしても沼澤さん、どうしてあなたにそんなことが分かるんですか?」
「ははは…。曲りなりにも霊術師を名乗り、教室まで開いておるんです。塩山さんほどではないにしろ、私にも玉から授かった多少の霊力はございます」
「その霊力で玉と交信されたと?」
「はい、そのとおりです。私が云ったことは、すべて玉に訊ねた結果、返ってきたお告げなんですよ。今現在のあなたなら、信じてもらえると思いますが…」
「ええ、もちろん信じます。信じますとも…」
 私はお告げを聞いた段階から玉の霊力の存在を確信していたから、はっきりと沼澤氏に返した。

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残月剣 -秘抄- 《残月剣④》第三十一回

2010年11月26日 00時00分00秒 | #小説

        残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《残月剣④》第三十一回

立ちあがった左馬介は、二本の木切れを打ち叩く同じ繰り返し動作に霞飛びを加味してみることにした。霞飛びを合い間へ入れることにより、同じ繰り返し動作が変化して崩れた。この方が左馬介としては実戦的であり、望むところだった。
 左馬介が、霞飛びの初歩の技を高める為に山駆けをふたたび始めたのは次の日からである。木切れを打ち叩く間に霞飛びで身を退避させる為には、山駆けすることにより、跳躍力を高めることが必要だと思えたからである。山道を疾駆し、或いは段差を飛んで、左馬介は霞飛びを高める修練に汗した。
 半月ばかりが経ち、左馬介の跳躍力は格段の進歩を見せるに至った。更には、走りながら空中へ舞い上がり、一回転して着地した後、ふたたび走り去るという連続した所作を熟(こな)せるようにもなった。幻妙斎の足元にも寄れぬ稚拙極まりない進歩だが、も角、ここ迄の技に至れば左馬介としては占めたものなのだ。刺客の不意を突く襲撃を、取り敢えずは躱(かわ)して体勢を立て直せる道筋はついた。こうした技は忍び、所謂、影者ならば当然、身にさけている技なのである。尋常に武芸の道を志す者としては、些か、場違いとしか云いようがないのだが、危険そのものを回避して刺客を倒す為には、必要べからざる技であった。


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