水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

スビン・オフ小説 あんたはすごい! (第百四十回)

2010年11月13日 00時00分00秒 | #小説
  あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第百四十回
「いや、起こるという確証はないんです。飽(あ)くまでも、お告げなんですから…」
「はあ…。それにしても気がかりですな。私も二時間後には交替して帰りますが、来る者に起こると知っていながら事前説明がなかった、と云われれば、これが泣きますからな」
 禿山(はげやま)さんは階級を示す警備服の金筋三本を指さした。なんでも、一本が警備次長、二本で警備長、三本は警備総長らしい。禿山さんは勤続五十年の大ベテランで、警備会社ではものすごく偉(えら)い人なのだが、こうして夜勤警備もするただの警備員でもあり、なんというか…、定年制もないそういう、ほのぼのとした社員六名の警備会社に私は好感を抱いていた。
「しかし、お告げがあった、などと、交替の警備員さんには云えんでしょ?」
「はあ、警備長にですか? それはまあ…。ついにボケられた…と思われ、会社に伝わるかも知れんですからな」
「いやあ、それは私でも云えませんよ。課内も、課長はどうかした…と思うでしょうし、鳥殻(とりがら)部長にでも報告されれば、次長昇格の話もオジャンです」
「弱りましたなあ~}
「はい…。だいいち、そのお告げのとおり、大事(おおごと)が起こるとしても、そのタイミングや状況がまったく分かりませんから…」
「そうですなあ…。手の打ちようがありません」
 私と禿山さんは、しばし無言となり絶句した。

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残月剣 -秘抄- 《残月剣④》第十八回

2010年11月13日 00時00分00秒 | #小説

        残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《残月剣④》第十八回

その分、辺りの景観に目を配っているのだ。二本の木立ちがあり、それも適度な距離を保って自生している。更に、その二本の木立ちには、同程度の高さの枝が程よく伸びている…といった厳しい条件を満たさねばならない。加えて、二本の木立ちの間は平坦な地形になっており、勾配があれば稽古場として駄目なのである。こうした三条件を満たす地形を探すのは、そう容易いとは思えなかった。そうと分かっているが、左馬介としては、そうした地形があると信じたかった。季節柄、山気は冷える。それが未だ日が昇り始めた頃なのだから、ましてや、なのである。幸いにも、厳冬の寒気が伴っていなかったから、山道を歩く探索は、さほどは気にならなかった。適当な地形は、流石、簡単には見つかりそうにない。三条件を満たさねば、左馬介が稽古の場とするには不適なのである。左馬介にも多少の心当たりが、なくもない。というのも、幻妙斎に云われて行った山駆けの記憶が幾箇所か、あった。まずは、その地へ迫ろうと進む左馬介なのだが、獣(けもの)道への記憶は薄れつつあり、その道の微妙な曲折には難儀した。それ以降の状況については、左馬介自身にも如何に探索したのか、定かな記憶がない。ただ、気づいた折りには、左馬介が想い描いていた地形の場に立っていた…という、ただ、それだけのことである。


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