水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

スピン・オフ小説 あんたはすごい! (第百三十六回)

2010年11月09日 00時00分00秒 | #小説
  あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第百三十六回
「なんです? この玉は…」
「今、聞いてたろ? 話を…。その沼澤さんが置いてかれた箱の水晶玉だよ」
「それを、なぜ僕に?」
「沼澤さんがね、来られたお客様に差し上げて下さい、って云われたの…」
 ママは、やんわりとした口調で云った。
「その沼澤さんというのは?」
「ちょっと話せば長くなるから、詳細は孰(いず)れ語るとして、要点だけ云うと、霊術師をやっておられる方で、週二回、眠気(ねむけ)会館で霊能教室を開いておられるんだ…」
「霊術師? ですか…」
「私は、そういうの信じない人だから、興味ないの」
 児島君の左隣に座り、携帯を弄(いじく)っている早希ちゃんが、動作を止めて急に話へ介入した。
「ははは…、早希ちゃんは現実派だからな」
「なによ、その古い云い方。ナウいってこと? この云い方も古いけど…」
 早希ちゃんはダメ出しして、自分で引いた。
「ああ、そんな感じ…」
 まったくもって彼女には、歯が立たない私だった。児島君は小玉を手の平に乗せてしばらく眺(なが)めていたが、私が以前やったのと同じような仕草で背広上衣のポケットへ何げなくスウ~ッと収納した。
「僕も一度、その沼澤さんとかに会ってみたいですねえ」
「そおう? 来週の火曜、何もなければ教室終わってから寄るって云ってらしたわ」
 ママが小声で加えた。

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残月剣 -秘抄- 《残月剣④》第十四回

2010年11月09日 00時00分00秒 | #小説

        残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《残月剣④》第十四

 小部屋へ戻ると、左馬介は懐紙を机に広げた。まず考えることは、前後に手頃な程度の高さの枝がある二本の木が存在する場である。そして次は、その二本の木立ちの枝に縄を結わえて垂らす訳だ。取り敢えず、左馬介はそこ迄を懐紙に書いた。更に考えを進めれば、その二本の木の距離と垂らす縄の長さなどである。余りに左馬介と木との距離が狭過ぎれば、木切れを打ち砕いた後、身体を翻してもう一本を打ち叩く動きが間に合わない。であれば、自分の前後から木立までの距離が如何ほどであればいいのか…という究極の思案が必要となる。左馬介は、こればかりは或る程度、条件に合う場所を探し、実際にやってみる以外には方法がないと思った。勿論、そうした細々としたことも懐紙に認(したた)めた。
 次の朝の稽古が始まる前に、左馬介は稽古着から昨日、認めた懐紙を徐(おもむろ)に取り出した。それを見ながら、長谷川と鴨下に存念を話すことにした。
「実は、お二方にお願いしていた稽古なんですが、…今日までにしたいと思っておるのです」
 それを聞いた二人は、呆気に取られている。
「いや…。こちらからお頼みしておりましたものを、誠に申し訳なく思うのですが…」
 


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