水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

明暗ユーモア短編集 (76)お冠(かんむり)

2022年02月20日 00時00分00秒 | #小説

 お冠(かんむり)とは怒る意味で遣(つか)われている言葉だ。怒っているのだから、気分は明るいはずがない。この男、鰯(いわし)も、朝からたいそうお冠だった。というのも、祖父がブツブツと小言を鰯に八つ当たりしていたからである。鰯にしてみれば、他に当たりゃいいだろっ! なぜ自分が…気分である。
「じいちゃん、ちょっと用があるから、また帰ってから聞くよ…」
「おいっ! ちょっと待てっ!」
 祖父がお冠で呼び止めたとき、鰯はすでに表へ飛び出していた。じいちゃんに付き合ってたら、百年経っても終わらねぇ~やっ! 気分だった。格好の獲物に逃げられた祖父は、益々、お冠が大きくなった。
「父さん! どうされました? そんなに顔を真っ赤にされて…」
 居間で寛いでいた息子が明るく声をかけた。
「なんだ、お前かっ! まあ、いい。儂(わし)の話を聞けっ!」
 それから小一時間、息子は暗い気分で父親の話を聞かされる破目に陥ったのである。終わったころ、テンションはガタ落ちで、気分はすっかり暗くなった。居間で寛(くつろ)いでいたときは明るかったものが反転したのである。
 お冠の人がいたとき、近づかないのが気分を暗くさせない秘訣(ひけつ)・・という忠告めいたお話です。━
君子(くんし) 危うきに ちかよらず ━ という格言も、その意を示していますから、あなたも、ご参考になさって下さい。そうすれば、明るい気分で一日が過ごせますよっ! ^^

                   完


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