水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

明暗ユーモア短編集 (80)デリバリー

2022年02月24日 00時00分00秒 | #小説

 お年を召された方なら、…? と疑問に思われるだろうが、今や社会を闊歩(かっぽ)している和製英語の一つに[デリバリー]という言葉がある。分かりやすく言えば、[出前]のことである。家に届けてくれるのだから、これはもう有難く、便利この上ない。ただ、いつ届くか分からず、「もう一時間以上経つぞっ!」などと苦情電話をかけねばならないこともあり、予定が狂いやすいのが難点である。ジィ~~っと届くのを待ち続ける時間は自由を拘束された時間であり、最初、「ははは…たまには奮発して、デリバリーにするかっ!」と、明るかった気分が、暗く萎(しぼ)むというものだ。
 とある家庭の一コマである。
「おいっ! もう小一時間だぜっ!」
 ご主人が腕時計を見ながら奥さんに愚痴る。
「そんなこと言ったって…。道が混んでるんじゃないんですかっ!」
 奥さんは迷惑顔でご主人の愚痴を一瞬の隙(すき)も見せず、サッ! と躱(かわ)す。お見事っ! と言う他はない。^^
「もう一度、電話してみなさいっ!」
「あなたが、おかけになればいいじゃありませんかっ!」
 たった鰻重(うなじゅう)のデリバリーの遅れ一つで、夫婦喧嘩(ふうふげんか)が勃発(ぼっぱつ)した。その喧嘩は、聞いたところによれば、今も続いているという。
 デリバリー・・侮(あなど)るなかれ! である。

 ※ ご主人の鰻好きにも原因の一端があるようです^^

                   完


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