水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

思わず笑える短編集 -53- 受賞

2022年05月08日 00時00分00秒 | #小説

 日々、生活していると、上手(うま)い具合にスンナリいく場合と、そうならない場合は当然ながらある。学者の芳川(よしかわ)はこれがどういう場合で生じるのか・・ということを事(こと)細かに調べ上げ、データ化する作業に没頭していた。これはある種、変人じみた研究である。芳川はいつの日か、この研究でノーベル賞を受賞してやる! と意気込んでいた。
 ある日の午後、芳川がデータを纏(まと)めあげ、やれやれ…と大の字に手を広げながら欠伸(あくび)を一つ打ったとき、大きく開け過ぎたせいか、突然、下顎(したあご)が外(はず)れてしまった。芳川は慌(あわ)てて下顎に手を当て、力任せに押し上げると、少し痛みは走ったがなんとか元どおりに顎は収まった。それ以降、一定の間隔で芳川の下顎は外れるようになった。それもスンナリとコトが運んで欠伸をしたときには外れず、作業で一定量のノルマを達成したときとか、小難(こむずか)しい作業を達成できたとき、思わず出た欠伸で外れる・・という事実が判明した。ということは、すべて物事がスンナリといった場合、顎は外れない・・という結論が導(みちび)き出せるのである。芳川は、その常識外の馬鹿げた実験データを日夜、取り始めた。
 それから2年の時が流れ、芳川は[スンナリとスンナリいかない場合における下顎が外れる相関関係]という論文を学会に発表し、ノーベル文学賞を授与された。ノーベル医学賞ではなく、ノーベル文学賞である。授与理由は今世紀上、稀(まれ)なるお笑いセンス・・によるものだった。

                    完


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