早川秀也は小じんまりと机に向かいゲームに明け暮れていた。いや、正直なところ、そんな悠長(ゆうちょう)な状況ではなく、もはやゲーム依存症とでも言えそうな病的状態だった。学校でも、密かに隠れて先生に見つからないようにやっていた。もちろん、そのゲームには小型電子機器が使用されたが、秀也の病状は重く、かなりの影響を他の生徒にも与える伝染性のものだった。
「これは…今、流行(はや)りのゲーム症ですな。早く隔離しないと、偉いことになります!」
校医は秀也を前に座らせ、立って見守る担任の松尾に心配顔で言った。
「そうですか…。そりゃ大変だっ! おい! 早川、そういうことだっ! 可哀想だが…」
「ぅぅぅ…僕は、どうなるんですぅ~~?」
秀也は、心細そうなか弱い声で松尾に縋(すが)った。それでなくても、げっそりと痩(や)せ細って蒼白い顔の秀也は、まるで死人だった。
「心配するなっ、早川! そのうち治(なお)るっ! ゲームがしたくなくなるまでの辛抱(しんぼう)だっ、がんばれっ!」
「はいっ! 僕、がんばりますっ!」
「先生、他に隔離する必要がある生徒はっ?」
「はあ、軽症の生徒が数名おりましたが、自宅待機で帰らせました…」
「そうでしたか。それくらいでよかった。蔓延(まんえん)すれば、学級閉鎖、いや、学校閉鎖になりかねん事態ですから…」
「はい、おっしゃるとおりです…」
ゲーム症は収束するかに見えた。職員室に戻(もど)った松尾は、どういう訳か顔色が少し蒼かった。
「先生、顔色が…。大丈夫ですか?」
隣のクラス担任の桃配(もくばり)が心配そうに松尾を窺(うかが)った。
「いや、大丈夫です。少し疲れたからでしょう…」
「そうですか? それじゃ、お先に」
職員室に松尾以外、誰もいなくなると、松尾の目が爛々(らんらん)と輝き出し、顔に不敵な嗤(わら)いが浮かんだ。
「フフフ…」
松尾はデスクからゲーム用の小型電子機器を取り出し、とり憑(つ)かれたようにスイッチ類を弄(いじく)り始めた。松尾はすでに秀也からうつされ、ゲーム症に感染していたのである。ゲーム症は怖(こわ)い病気なのだ。
完