昼前になっていた。立山は家の前の歩道を掃除し、その落ち葉やゴミなどを燃やしていた。
「こんにちは…」
一人の学校帰りの子供が、礼儀正しい無邪気な小声で通り過ぎていった。立山は、『ピカピカの一年生か…』と、すがすがしい気分になり、「はい…」と、思わず声を返していた。
しばらくすると、また子供が不満げに通り過ぎた。立山はその子に少し邪気を感じた。だがまあ、腹立たしくなる・・というほどのことはなかった。そしてまたしばらくすると、数人の子供が通りかかった。
「こんにちはっ!!」
同じ言葉だったが、少しやかましく聞こえる大声で、立山はムカッ! と怒れる邪気を感じた。
それだけのことだったが、人と人は接遇の具合で、気分が変わるんだな…と思えた。同じ一日なら、気分よく過ごせた方がいいに決まっている。
『おいっ! 飯(めし)だっ!!』
と、妻に言おうとした立山だったが、思わず口籠(くちごも)っていた。
「そろそろ、昼にしようか…」
立山の口から出た言葉は穏やかで優しかった。
「はいっ!」
いい返事が返ってきた。立山は気分がよくなり、「やはりな…」と、接遇の効果を実感した。
それ以降、立山は接遇に積極的に取り組み、それなりの夫婦効果を得ている。
完