新堀(にいぼり)は、これから先の進路で迷っていた。このまま今の職に踏みとどまるべきか否(いな)か・・で、である。だが、そういつまでも迷っている訳にはいかなかった。というのも、誘いを受けた企業への返事が二日後に迫っていたからである。このままでは埒(らち)が明かない…と思えた新堀は、占ってもらうことにした。
「どれどれ… … ほう! ほうほう! なるほど!」
「分かりますか?」
「むろんじゃ。ただちに、お告げがあったぞよっ! 有難くお聞きなされい」
「は、はい」
「近く現れますな、その方は…」
「はっ?」
「まあまあ、黙って…」
「はい!」
新堀は的(まと)が外(はず)れたお告げに、この人大丈夫か? と、少し不安になった。占い師にはそこまで言わなかったが、新堀が訊(たず)ねたかったのは、会社を変わるか変わらないかだったからだ。
「ほおほお! 左様でごございますかっ! 吉兆(きっちょう)が現れるという変化のお告げですぞ」
「変化のお告げですか?」
「そうそう! 変化のお告げがありました」
「変わった方がいいと…」
「変わった方がいい? …まあ、そのようなことですかな、ははは…」
なにが、ははは…だっ! と怒れた新堀だったが、思うに留めて頷(うなず)いた。
新堀が会社を変わった直後、元いた会社は破産宣告の記者会見をマスコミを前にして発表した。新堀はお告げは本当だったのか…と占いを信じた。だが、そのあとが、いけなかった。新堀の移った会社は幽霊会社で、実在しなかったのである。新堀は仲介者に少なくない金額を渡していたのである。仕事は失うわ、金は持っていかれるわで、散々な結果になった。しかし、運命とは不思議なものである。意気消沈した新堀に、起死回生のラッキーな仕事が舞い込み、決定したのだった。お告げはやはり、存在するのか? その辺りの神威姓については、よく分からない。まあ、お告げとは、その程度のものと考えた方が、いいらしい。
完