日長な一日、鞭(むち)を打たれるように営業に精を出していた平社員の魚節(うおぶし)は、これといった契約も取れないまま帰社した。魚節は帰って早々、課長の塩焼(しおやき)に呼び出された。
「やはりダメだったか…。まあ、余り期待はしてなかったがね」
「はい、まあ…」
その言いようはないだろ! と少し怒れた魚節だったが、塩焼の言ったとおり、今までコレといった契約をとれていないのも事実だったから、妙なところで納得した。
「まあ、いい…。がんばりなさい」
課長の塩焼もそれどころではなかった。このときすでに鞭を打たれるように部長の刺身(さしみ)に呼び出されていたのである。数十分後、呼び出された鞭ばかりの塩焼の姿が部長室にあった。
「やはりダメだったか…。まあ、余り期待はしてなかったがね」
「はい、まあ…」
そう返しながら塩焼は、おやっ? と思った。刺身の言葉がどこかで聞いた言葉に思えたからだ。それもそのはずで、よ~~く考えれば、それは自分が部下の魚節に言った言葉だったのだ。だが、契約が取れていないのは事実だったから、塩焼は納得した。
「まあ、いい…。よろしく頼むよ」
部長の刺身もそれどころではなかった。このときすでに鞭を打たれるように専務の煮物(にもの)に呼び出されていたのである。数十分後、呼び出された鞭ばかりの刺身の姿が専務室にあった。
「やはりダメでしたか…。まあ、余り期待はしてませんでしたがね」
「はい、まあ…」
そう返しながら刺身は、おやっ? と思った。煮物の言葉がどこかで聞いた言葉に思えたからだ。それもそのはずで、よ~~く考えれば、それは自分が課長の塩焼に言った言葉だったのだ。だが、契約が取れていないのは事実だったから、刺身は納得した。
「まあ、いいですよ…。よろしく頼みます」
専務の煮物もそれどころではなかった。このときすでに鞭を打たれるように社長の浮来(ふらい)に呼び出されていたのである。数十分後、呼び出された鞭ばかりの煮物の姿が社長室にあった。
「そうですか…。まあ、余り期待はしてませんでした」
「はい、まあ…」
そう返しながら煮物は、おやっ? と思った。浮来の言葉がどこかで聞いた言葉に思えたからだ。それもそのはずで、よ~~く考えれば、それは自分が部長の刺身に言った言葉だったのだ。だが、契約が取れていないのは事実だったから、煮物は納得した。
「まあ、いいです…。よろしく頼みますよ」
社長の浮来もそれどころではなかった。このときすでに株主総会が迫っていたのである。数日後、四苦八苦しながら発言する鞭ばかりの浮来の姿が株主総会の議場にあった。
働く者は下から上まで、皆(みんな)鞭ばかりなのである。
完