濃厚なタレにつけて食べる熱々(あつあつ)の串カツが、時代とともに世の中の盛衰を語ることがある。
「すみませんねぇ~。昨日からツケは二度までとお願いしてますんで…」
串カツ屋の親父は、よく寄る常連客のサラリーマンにそう言って謝(あやま)った。ツケが二度までとは、串カツを濃厚なソースだれに浸ける回数が二度までということだ。過去、この回数は数度、引き下げられている。それはやはり、仕入れ値の原材料費の高騰(こうとう)の都度(つど)だった。
「んっ? 二度までなの? なんか侘(わ)びしくなってきたねぇ~親父さん…」
「すみませんねぇ~、諸物価高騰の折りでして…。串の値は上げたくありませんから、ご勘弁を…」
言いづらそうな顔で、親父は揚(あ)がった串を油からすくい上げながら頼んだ。
「いやまあ…串の値上げよりは、こっちも助かるがね。ご時勢も世知がらくなったもんだ」
そう言いながら、ついいつもの癖からか、客は揚げたての串を三度ばかりタレの中へ浸けてしまい、ふと気づいた。
「あっ! やっちまったか…」
「いいです、いいです…。次からで」
「そおう? 悪いねっ! ははは…」
客は助かったように、そう返した。それ以降、この客はズゥ~~~っと助かり続けている。
完