水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

思わず笑える短編集 -76- かくかくしかじか…

2022年05月31日 00時00分00秒 | #小説

 会話は、人と人を繋(つな)ぐ重要な情報交換の手段となる。ただ、この情報交換が早くスムースに出来るか出来ないかは、人それぞれに備(そな)わった性分(しょうぶん)によって変化をする。実際(じっさい)、同じ内容の伝達でもA→BとB→Cへ伝わった速度は、30分以上も違った。B→Cは遅れたのである。この情報交換に介在(かいざい)したのがBとCの間で交(か)わされた、かくかくしかじか…の話だった。
「Aさんから託(ことづか)ったのは、ロバのパン屋さんがご近所に開店すると・・まあ、それだけの話なんですがね、ははは…。この話、お隣(とな)りのDさんにも伝えてくれということなんで、よろしくお願いします。それじゃあ…」
 BはCの家を出ようとした。このままCの家を出れば、A→BとB→Cへ伝わった速度は、ほぼ同じくらいだった。ところが、である。
「ああ、そうそう! ロバといえば、ラバですが…」
「はあ?」
 Cは意味が分からず、訝(いぶか)しそうにBを窺(うかが)った。
「いえ、なに…。私は昔、ロバと馬の間に生まれたラバを見たことがあるんです」
「ほう! ラバですか…」
 Cも少し興味が出てきたのか、話は枝葉末節(しようまっせつ)にどんどん広がり、いつの間にか、かくかくしかじか…の話となっていった。そして、30分が過ぎ去ったとき、気づいたBが慌(あわ)てて腕を見た。
「しまった! こんな時間か…いけない、いけないっ! アヒルと風呂に入るんだった! 失礼しますっ!」
 Cは出て行くBの姿をポカ~~ンと目で追いながら、どんな家なんだ? と首を捻(ひね)った。そして、Bとかくかくしかじか…と話に花を咲かせたことを後悔(こうかい)した。

                    完


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