水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

足らないユーモア短編集 (11)タイム

2022年07月05日 00時00分00秒 | #小説

 東京オリンピックが無事、開催されるか? は別として、各選手は競技の技量[距離を含む]と時間[タイム]を競うことになる。技量の場合は足らないとメダルが取れず、タイムの場合は足り過ぎるとメダルが取れないという皮肉な逆の結果となる。タイムが足らない、要するに短い時間の方がいい訳だ。
 とある競技場でとある陸上選手がとある競技を練習している。それを遠方の観客席から双眼鏡で眺(なが)めながらレシーバーで指示を送信している競技監督がいる。
「ダメ、ダメっ! 脚の上げが足らないっ! それでは瞬発力が出ないだろっ!」
「はっ! 了解しましたっ! そのように…」
 グラウンドでは、レシーバーで監督の指示を受信したコーチが、直接言えよっ! と思いながらも、とてもそうとは言えず、素直に従った。
「おいっ! 今の走り、なかなか、いいそうだぞっ! 監督がご機嫌だっ! よしっ! これなら、メダルが取れるぞっ! もう一度、走ってくれっ!」
「分かりましたっ!」
 元気づけられた選手は意気軒高に返した。その後、走り終えた選手のタイムは非公式ながら最高タイムを出した。
「全然、足の上げが足らないじゃないかっ! なにっ! 最高タイムが出たって!? 嘘だろっ!」
 監督は驚いたが、それは事実だった。足の上げは足らなかったが、タイムは短縮されてメダルに足りていたのである。
 人は気分次第で足りなくなったり、足りることになるようである。^^

                   完


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