説明が足らないと、あらぬ誤解を生んだり、物事がスムーズに運ばなくなる。場合によってはお釈迦になることだってあるだろう。いつやらの短編集でもお話ししたが、お釈迦さまになるのは、さすがに困るだろう。そこはそれ、阿弥陀さまの感じで一つなんとかお願いしたいものだ。^^
とある町役場である。どこにでもいそうなこの男、気楽(きらく)も説明が足らない職員だった。
「あの…課長」
「どうした? 浮かぬ顔をして…。いつも陽気なお前にしては珍しいじゃないか」
休憩室まで呼び出された課長の苦労(くろう)は、訝(いぶか)しげに気楽の顔を窺(うかが)った。
「はあ、実はですね…。聞いてもらえますかっ?」
「相変わらず面白いやつだな、お前ってやつはっ! 聞いてもらいたいから呼んだんだろっ?」
「はあ、それはまあ、そうなんですが…」
「で、どうだっていうんだっ?」
「僕、最近、眠れないんです…」
「ほう! そりゃ、いかんな。体調でも悪いのかっ?」
「体調が悪いんじゃないんです。お金がね…」
「お金がないのかっ! ははは…仕事の割には高給取りが、何を言っとるっ!」
「いえ、お金がないんじゃないんです。お金が…」
「お金がどうしたっ! ははは…夢で化けてでも出るのかっ!」
「そうじゃないんです…」
「じゃあ、どうなんだっ?」
「なんて言いますか…」
説明する言葉が見つからず、気楽は言い詰まった。
「どう聞きましょうかっ!! 気楽君、悪いが、もう時間がないっ! 今日は議会前の管理者会があってなっ! おっ、いかん! もう五分前だっ! 話の続きは、また今度、聞こう! じやあなっ!」
苦労は急ぎ足で会議室へ去った。気楽の説明不測の話は、実は飼っている雄鶏(おんどり)が喧(やかま)しく鳴くので眠れない・・という、ただ、それだけの話だった。説明が足らないのではなく、説明する必要もない話だったのである。
説明が足らないと困るが、説明が必要ない話は足らなくてもいい訳だ。^^
完