水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

足らないユーモア短編集 (14)材料

2022年07月08日 00時00分00秒 | #小説

 物を作ったり修理をしていた場合、材料が足らない場合、あなたならどうするだろう。そりゃ、買いに出るだろっ! と言われるあなたの判断、甘いですよっ!^^ 正解は、行動を起こす前、目的とする内容の完成に必要な材料は、すでに揃(そろ)えておかねばならない・・ということである。行動の途中で足らない場合は、継続してその行動が果たせなくなりアウトになる。例を挙げるとすれば、ご詠歌の途中で休憩するようなものだろう。^^ 有難さが半減する訳だ。^^ ならば、誤ってそうなった場合は、どうよっ!? という話になるが、今日の(14)話は、そんな話である。^^
 穴山(あなやま)は天気のいい休日の朝、趣味で始めた油絵の制作を続けようとしていた。週の土、日は、絵を描くことに決めている穴山だったから、当然といえば当然の行動[アクション]だった。
「さて、始めるかっ!」
 朝食もそこそこに、キッチンの洗い物を済ませた穴山は、大欠伸(おおあくび)を一つうちながら呟(つぶや)いた。いつもなら、絵の制作は順調に進行するのだが、その日に限って、どういう訳か上手(うま)くいかなかった。というのも、使おうとした絵の具の赤が足りなかったのである。穴山の頭の中には足らない・・という文字はなかったから、大ゴトである。絵の制作は中断を余儀なくされた。
『買いに出るか…。だが、これからだと、店まで一時間か…。往復で二時間。…やめた、やめたっ!』
 いつも、土、日は別荘とは言えないまでも、地方の森に建てた小さなバンガローで過ごす穴山だったから、まあ、それも仕方がない決断と思えた。絵の制作に僅(わず)かに蓄(たくわ)えた金で買った別荘モドキのバンガローだった。地方と町を往復する二時間のロスは大きい。昼過ぎには自宅へUターンしなければならないことを思えば、絵の制作時間は余り多くない。穴山の脳内には土曜の昨日は、赤絵の具はたっぷりあった…という記憶が存在していた。そのあるはずの絵の具が今朝はないのである。実は、穴山の記憶にある予備の赤絵の具は、どういう訳か、風の悪戯(いたずら)でフロアに落ちていたのだ。穴山は運悪く、フロアに落ちた赤絵の具の予備チューブに気づかなかったのである。穴山は、ブルマンのコーヒーを飲み終えたあと、自宅へUターンした。
 このように、足らないのではなく、あっても気づかずに行動が果たせなくなる場合もある・・というお話である。^^

                   完


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