[東京 23日] - 新型コロナウイルス感染が世界中に拡大し、今まで経験したことのない事態が全世界の個々人の私生活にまで及んだ2020年が、もうすぐ終わろうとしている。ウイルスにとって年末年始の区切りは関係ないだろうが、一刻も早くワクチンが世界中に配布され、2021年は世界中の人類が新型コロナウイルスに打ち勝った年として記憶されることを願わずにはいられない。
■■ <コロナ禍で主要国の長期金利低下>
そんな歴史にも記憶にも残る2020年は、世界のマーケットも印象に残る動きをした。新型コロナウイルス感染が世界中に広がっていく中で、世界の主要株価指数は2月から3月にかけて軒並み急落したが、その後の株価の反発力は米国、アジアで力強く、結局1年を通じると上昇となった国が多かった。
米国の主要株価指数は過去最高値を更新し、日経平均株価も29年ぶりの高値を更新した。一方、欧州の主要株価指数は年初の水準まで上昇できなかったものが多かった。
他方、一年を通じると長期金利は大きく低下した。元々の水準が高かったこともあり、米国の金利低下幅が主要国の中では最も大きくなった。この結果、当社が算出する先進国の10年国債金利の加重平均値は年初の1.1%から一時は0.2─0.3%台まで低下し、現在も0.4%台と年初の半分以下に止まっている。株価の力強い反発は巨額の財政支出で説明できる部分もあるだろうが、それにもかかわらず長期金利は低水準に止まってしまっている。
エネルギー、コモディティ価格の動きにも差が出た。原油先物価格は4月に大きくマイナスにまで落ち込み、年間を通じると約20%の下落となった。一方、金、銀、銅、大豆、天然ガスなどはいずれも20%以上の上昇となっている。
こうした環境の中での各国通貨の今年のパフォーマンスをみると、主要国通貨中、年初来のパフォーマンスの上位3通貨は、スウェーデン・クローナ、ユーロ、スイス・フランである。いずれも経常黒字国・地域の通貨であり、最初の2通貨は実質実効レートベースでみて、過去30年間の平均に比べて現在でも割安な水準だ。
一方、主要国通貨の中で今年最も弱いのは米ドルで、カナダ・ドル、英ポンドが次いで弱い。いずれも経常赤字国である。世界中の金利が低下し、各国間の金利差に差が付かなくなっている状況では、経常黒字で割安な通貨が買われ、経常赤字で割高な通貨が売られるのは不思議なことではない。
■■ <実質実効レートベースで割安な円>
円はこのままいくと、主要10通貨中5番目のパフォーマンスとなり、強くもなく弱くもない通貨に終わりそうだ。しかし、比較的高水準の経常黒字を抱え、実質実効レートベースでみると、過去30年間の平均から14%程度割安となっており、スウェーデン・クローナの次に割安だ。来年に向けて強さがみられ始める可能性がある。
今年2位か3位になりそうなユーロは、2017年に最強通貨となった時以来の好パフォーマンスだ。ユーロ圏の経常収支は黒字だが、実質実効レートベースで見ると、概ね過去30年間の平均レベルにあるため、割安とも割高とも言えない。
ちなみ過去20年間で一度も最強通貨にも最弱通貨にもなったことがないのはニュージーランド・ドルとスイス・フランだけだ。もっとも、今年のニュージーランド・ドルは今のところ6位だが、経常収支が赤字で実質実効レートベースでは過去30年間の平均と比べて20%も割高となっている。今はオーストラリアと並んで10年国債金利が1%程度と高金利であるため支えられているのかもしれないが、来年にNZ中銀がマイナス金利を導入し、長期金利が大きく低下すると、初の最弱通貨となる可能性があるかもしれない。
一方、スイス・フランはやや割高だが、経常黒字の対GDP比が10%前後と先進国では突出して高い。先日は米国の財務省に為替操作国のらく印まで押されてしまっており、スイス中銀(SNB)の介入で最強通貨になるのを阻止してこられたのかもしれないが、来年はそうは行かず初の最強通貨になるかもしれない。
◆◆ 最後に主要新興国通貨も入れて今年の各通貨のパフォーマンスを見ると、新興国通貨の弱さが目立つ。トルコ・リラ、ブラジル・レアル、ロシア・ルーブルなどは先進国通貨の中で最弱だった米ドルに対しても2割前後下落している。
(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。
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編集:田巻一彦
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