① ""29年ぶりの高値 株式市場は安泰か? ~令和元年の東証大納会~""
2019年12月30日 21時44分株 価・為替
平成から令和に時代が変わった2019年の12月30日、東京証券取引所で、ことし最後の取り引きが行われ、日経平均株価は年間の終値として平成2年以来、29年ぶりの高い水準をつけました。
しかし、証券市場は高値に沸いたわけではありません。多くの市場関係者は株価は、米中の貿易交渉に翻弄され、気を抜けない日が続いたと振り返りました。
来年、2020年は東京オリンピック・パラリンピックが開かれる節目の年です。株価上昇に手応えを感じられる1年となるのでしょうか。
(経済部記者 峯田知幸 古市啓一朗)
令和元年の大納会
日本取引所グループ 清田瞭CEO
「振り返ると“年初安・年末高”。いいマーケットになった」
12月30日午後3時、東京証券取引所では、1年を締めくくる毎年恒例の「大納会」が開かれました。詰めかけた600人あまりの証券関係者を前に、日本取引所グループの清田瞭CEOがことしを振り返りました。
日経平均株価のことしの終値は2万3656円。去年の年末よりも18%余り、3641円上昇しました。実に、平成2年以来、29年ぶりの高値で取り引きを終えました。
数字だけをみると大納会はさぞ盛り上がると思いきや、取材をすると、“やれやれ”と胸をなでおろしている人が多いなという印象でした。
2019年 波乱のスタート
それはなぜなのか?1年を通じて貿易摩擦で揺れたアメリカと中国に振り回されたからです。
2019年最初の取り引きになった1月4日。
「大波乱のスタートになった」と語ったのは、証券最大手の野村ホールディングスの永井浩二CEO。賀詞交歓会の会場で記者団に囲まれての発言です。
その日、東京市場は大荒れ。日経平均株価は取り引き時間中として一時770円を超える大幅な下落となり、2万円の大台をあっさり割り込みました。
原因は米中貿易摩擦でした。1月2日にアメリカのアップルが業績の下方修正を発表。米中の貿易摩擦の影響はアメリカを代表する企業に広がったと市場が驚いたのです。
米中、米中、また米中…
このあと上昇、下落を繰り返した株価の動きは、米中の貿易交渉の展開とぴたりと重なります。
1月4日の株価急落以降、トランプ大統領が関税引き上げの先送りを表明し、交渉の進展期待が市場に広がると株価は上昇。
ところが5月5日、トランプ大統領が、突如ツイッターで「10%の関税を25%に引き上げる」と言及すると再び下落。
6月4日には、アメリカの中央銀行にあたるFRBのパウエル議長が貿易摩擦による景気悪化を予防するため利下げを示唆したことで株価は持ち直しました。
しかし、8月1日。トランプ大統領がまたもツイッターで「中国からの3000億ドル分の輸入品に10%の追加の関税をかける」と表明。株価は2万円を割り込む寸前まで値下がりしました。
上昇傾向へとムードが変わったのは9月です。米中の貿易交渉が進展するという見方が再び広がり、10営業日連続で株価が値上がりする場面もありました。
そして12月に米中が第1段階の合意に達すると株価は一段と上昇。12月13日には1年2か月ぶりに2万4000円を回復しました。
このように市場の関心は米中の貿易交渉に集中していました。トランプ大統領のツイッターなどに一喜一憂し、「まさにヘッドライン(報道機関の速報)相場だった」と振り返る市場関係者もいるほどです。
“底堅さ”裏に中央銀行の支え?
とはいえ日経平均株価の終値が実際に2万円を割り込んだのは1月4日のたった1日だけ。「日本経済がそこそこ底堅かったからか?」取材をすると、市場関係者の多くが、米中の対立の影で株価を支えた『中央銀行』の存在を指摘しました。
FRB
例えばアメリカの中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会。米中貿易摩擦が激しさを増す中、景気後退を避ける“予防的な措置”として、7月、9月、10月と3回連続で利下げを実施。世界経済の下支えになると、東京市場でも株価の上昇をもたらしました。
日本銀行
日銀もかなりの支えになりました。異例の大規模緩和の一環として、ETF=上場投資信託を大量に買い入れている日銀。ことしも株価が急落する場面になると日銀がETFを買い入れました。「株価の“底抜け”を防いだのは日銀」と指摘する市場関係者も少なくありません。
不確実性が高い2020年
アップダウンを繰り返しながら、値を上げて終わったことしの東京市場。きたる2020年はねずみ年です。ねずみ年の相場の格言は“繁盛”です。いったいどんな株式市場になるのでしょうか?大手証券会社のトップに聞きました。
野村ホールディングス 永井浩二CEO
「トランプ大統領の発言やアメリカ大統領選挙の結果は推測できないため、株価の絶対水準は正直わからない。ただ、米中の摩擦がこれ以上おかしな形にならなければ海外の伸びが期待できる。本格的な5G投資も出てくるため、上昇余地はあると思う。ただ株価の押し上げに寄与している金融緩和を続けていけば必ずひずみが出る。そのリスクを頭の片隅に置いておかなければならない」
大和証券グループ本社 中田誠司社長
「世界経済はことし底を打ち、回復していく過程だと思うが、米中貿易摩擦が大きく再燃しないことが前提となる。アメリカの大統領選挙は最大の関心事で、候補者が絞り込まれてくる3月3日のスーパーチューズデーは最初の山場で注目したい」
SMBC日興証券 清水喜彦社長
「米中がある程度落としどころを見つけられれば、株価は上がる。一方、潜在的なリスクとして中東情勢にも注意が必要だ。万一、危機感が高まれば、株価は2万円を切ってもおかしくない」
やはりアメリカと中国の貿易交渉がさらに進展することが、株価上昇の最大の要因になりそうです。しかし、アメリカと中国の貿易交渉、合意したといってもあくまで第1段階。まだ楽観はできません。
日本企業をみると摩擦の影響もあって、製造業の輸出や生産は低迷。ことし秋の中間決算では、業績を下方修正する企業が相次ぎました。人員削減や希望退職を募集する動きも出始め、雇用に変調の兆しもみえています。
東京オリンピック・パラリンピックのあとは、景気が低迷するのではないかと見る専門家も少なくありません。そこにアメリカの大統領選挙が重なるのが2020年です。
💹 📉 証券会社のストラテジストが見る2020年の日経平均株価。3万円近くまで上昇するという予想もあれば。2万円まで下がるという予想もあって、専門家ですら方向感が定まっていません。
わたしたちも…
兜神社
ちなみに大納会の日、証券取材担当のわたしたち2人は、東証のすぐそばにあって証券界の守り神とされる「兜神社」を参拝しました。
“株価は経済の体温計”と言われます。日々の株価は、どんなメッセージを発しているのか、来年は、実体経済をより冷静にみながら考え続けようと、思いを新たにしました。
経済部記者
峯田知幸
平成21年入局
富山局、名古屋局を経て
現在 金融業界を担当
経済部記者
古市啓一朗
平成26年入局
新潟局を経て
現在 金融業界を担当