ボランタリー画廊   副題「げってん」・「ギャラリーNON] 

「げってん」はある画廊オーナとその画廊を往来した作家達のノンフィクション。「ギャラリーNON]は絵画を通して想いを発信。

ギャラリーNON(35) 自分史学習塾・その2

2009年07月12日 | 随筆
 週1回で4回の学習塾が終わった。
 1回目の講座で、「これまでの人生を振り返って、最も大切に思っているできごと」を書いて来るよう宿題が出されて、その4週間はそのテーマに集中してみた。あれこれと思い巡らして、一つ思い当たれば原稿用紙5.6枚分となって書くことは書いた。だが、どうも面白くない。
 宿題だから仕方なく、面白くない文を塾の皆さんの前で読む。赤面するほど恥ずかしいが、一度恥ずかしい思いをすると次はそれほどでもない。読んでいて自分で自分の文章がおかしいことにも気付くようにさえなる。
 最大の弱点は取材の乏しさである。小さい頃の家族構成を書くにしても、おおよそのことしか分かっていないのだ。今、生き残っている兄や姉から、自分が幼かった頃の話をよく聞いていないのだ。もういない親のことも。それが、書いてみて読んでみて面白くない原因であることが分かった。自分史の一こまを書くにも大変なことだと痛感させられた。
 塾の最終日となった。
 私の「これまでの人生を振り返って、最も大切に思っているできごと」を、中学生の時に描いた絵が自分では駄目だと思っていたのに、意外にも先生に褒められたことにした。その時の先生の言葉は鮮明に覚えているのだ。「呼び覚まされた絵心」と題して原稿用紙10枚の作文となった。それをまたまた塾の皆さんの前で読むことになった。技術畑にいた40才の働き盛りの私が、ふと絵を描きたいと思うにいたる心の動きの出発点には、中学の絵の先生の言葉があった。生まれて初めて書いた文である。
 皆さんからは、おおむね好評で、講師からはよく出来ていると褒められ、付け加えて、4回の講座では口汚し程度のことだから、もっともっと書いてみるよう勧めれた。文の奥深さを瞥見した経験となった。
 それから1ケ月後、ある出版記念パーティーに参加する機会があり、なんと塾の講師と再会したのである。
 「書いてますか」
と言われ、返事に窮して、
 「こちらの方が忙しくて」
と、絵筆を動かすジャスチャーをした。
しかし、文を書き終えた特異な感動は消えていないし、簡単に消えそうにない。