夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

「ワクチンの接種 高齢者の中で、弱い立場の人たちは置き去り」

2021-06-14 09:33:00 | 政治
 政府は接種数稼ぎに邁進
 4月23日に、菅首相は「希望する高齢者に7月末を念頭に、各自治体が2回の接種を終えることができるよう、政府を挙げて取り組んでいく」 と言った。3,600万人の高齢者に接種完了するためには、7,200万回が必要だ。「希望する高齢者」と言っているので、その8割としても、5,760万必要になる。実際の接種状況は、6月10日累計で高齢者は、1,250万回である。単純計算で、4,510万回、残り51日で割れば、1日平均88.4万回で可能ということになる。首相は1日100万回と言ったので、それより少ないので一見できそうな数字である。
 しかし、これは「捕らぬ狸」に過ぎない。5月下旬から大規模会場の設置等で接種が加速したと言っても、6月に入った10日間で、1日平均50万回を超えるのがやっとという状況である。今後平均88万回に達するには、途方もない加速が必要になる。
 政府の大規模会場でも、予約が減り、対象を全国に広げざるを得ない状況である。さらに、7月になれば、酷暑が待ち構えており、高齢者は熱中症の心配もしなければならない。また、諸外国の例でも、接種開始から3、4か月程度で接種数はピークを迎え、その後が下がり続ける傾向がある。それは、早く打ちたいという層は一定限度しかいないので、様子見や躊躇する層がかなりいるからである。国の大規模会場だけでなく、自治体設置の大規模会場も予約が埋まらないという現象が起きている。早く打ちたい「元気な高齢者」は、当初、予約に殺到したが、少し遅れても自宅近くの比較的安全な場所で打ちたいという高齢者の方が、実際にははるかに多いのである。
 政府は、高齢者だけでなく、対象を大幅に拡大し、職域接種などを開始し、接種数稼ぎに躍起になり始めた。接種体制の人材・資材には限界がある。高齢者以外にそれらがまわれば、その分、高齢者分は減ることになる。それらを考え合わせれば、全体の接種が100万回に達したとしても、高齢者分は、恐らく平均では、60万回が限界だろう。
 1日平均60万回だとして、7月末まで残り5 1日で、3,060万回。現在累計の1,250万回と合わせ、4,310万回である。これを、接種1回と2回に分ける。先行するドイツでは今の現状は、1回だけ1,900万人、2回完了2,000万人(4,000万回)、計5,900万回である(少なくとも1回は3,900万人)。およそこの比率で行けば、1回だけ1,510万人、2回完了1,400万人(2,800万回)、少なくとも1回が2,910万人となる。
 これは、2回完了者が高齢者3,600万人の39%、少なくとも1回が81%となる。恐らく政府はこれだけの接種率をあげれば、7月完了などと言ったことはわきに置き、少なくとも1回が8割を上回るのだから、希望者は終わったも同然だと喧伝するだろう。

 接種が難しい高齢者『ワクチン難民』のおそれ
 しかし、高齢者接種には、もっと多くの問題がある。認知症や寝たきりを含めた要介護の人たちのことである。テレビに映る予約に殺到する「元気な高齢者」は一部でしかない。厚労省によれば、要介護の人口は全国で658万人(2018年)、65歳以上の認知症患者は16.7%602万人(内閣府高齢白書2020年)にものぼる。当然、認知症で要介護の場合も多く、合算することはできないが、65歳以上でそれらに該当する人口は、800万人程度はいると思われる(正確なデータは厚労省にもない)。
 もともと、厚労省が計画した65歳以上を対象とする接種は主に(1)市区町村が実施する集団接種(2)かかりつけ医による個別接種(3)自衛隊や都道府県が運営する大規模接種会場での接種 となっており、それ以外は例外扱いで、寝たきりの在宅接種は、訪問診療している医師が対応することになっている。
 
 4月12日から始まった高齢者への接種は2か月が経過し、1回目1,100万人、2回目180万人が接種したという実績は公表されているが、施設や寝たきりの人たちへの接種がどうなっているのかは、厚労省でも把握していない。メディアによれば、「外出難しい高齢者『ワクチン難民』のおそれ」(京都新聞6月13日)など、遅れている状況が断片的に報道されている。寝たきりの人への一軒一軒の訪問接種は、とてつもない労力と時間を要する。さらに、認知症の人の接種に対する意思をどう確認するのかなど、難問は山積みである。このことからも、自治体も接種実績を増やすため、集団接種やかかりつけ医の支援に力を注ぐが、高齢者施設や在宅者にはなかな手が回らない現状が見て取れる。

 
 上図は、原田隆之助筑波大教授がワクチン接種の意向調査をまとめたものである。60代以上で、「多分打つ」が47%、「様子を見て判断」が10%である。これは、半数以上が「慌てて打つことはない」ということを表しており、大規模会場の予約が埋まらない現状に合致している。それより若い世代では、「絶対打つ」は10%を超える程度で、「様子を見て判断」が1/3から半数近くになる。これはどういうことを示しているかと言えば、先行する欧米の数か月ごに徐々に接種数が減っていく現象の理由を表わしている。アメリカでは、1回目接種が成人の50%を超えた頃に、急激に接種数が落ちた。これは、日本同様に「多分打つ」「絶対打つ」層が打ち終わると、残りの成人の半数近くは「打たない」「様子を見て」という意向を持っていることの表れなのだと解釈できる。
 アメリカでは、接種数を増やすために、高額当選のくじびきをつけるなど様々な接種のプレミアをつけている。それほど、一定期間が経過すると接種速度が落ちるのである。これは、いずれどこの国も体験することになるだろう。つまり、その分だけ集団免疫の獲得までの期間が延びることを意味している。
 日本の集団免疫獲得を、早くて来年春という予測もあるが、もっとはるか先に延びるだろう。その間は、ワクチンによる効果で、感染は以前より抑えられる。しかしそれでも、低いレベルで拡大・縮小を繰り返し、感染者がいなくなることも、それによる死亡者がなくなることはない。ワクチン未接種者の感染リスクと重症化リスクは、接種済みの人たちより、高いのは変わらない。
 集団免疫獲得は国民全員の接種を意味しないので、接種が困難な対象者の接種を必要としない。そのことが、接種を希望する、あるいは、重症化しやすいので接種すべきと考えられる層を置き去りにしかねない。その層こそが、高齢者の中で弱い立場の人びとなのである。このまま行けば、その人たちは忘れさられ、間違いなくワクチン接種から置き去りにされるだろう。
 


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