1月8日、朝日新聞は朝刊に安倍元首相を殺害した山上徹也が、警察に対し「銃撃30分後 教団名を供述」した事実を記事として載せている。そして事件発生の7月8日夜に、奈良県警は教団名を「戸惑った警察 伏せて会見」し、「特定の団体に恨みがあった」としか公表しなかった。
この「特定の団体」が旧統一教会であることを朝日新聞だけでなく他の新聞やテレビ・ラジオが明らかにしたのは、旧統一教会側が事件の3日後の7月11日に記者会見を実行してからである。旧統一教会側は、主要メディアが名前を公表しない中で、「現代ビジネス」などネットニュースが旧統一教会と明らかにし、旧統一教会側にとって不利な情報がネットを中心に駆け巡るのを恐れ、先に自ら名乗り出ることで、不利な状況を少しでも良くしようという思いからであるのは想像に難くない。
その3日間には、「民主主義への挑戦」と、さも言論への暴力であるかのような言説が政府やメディアから盛んに登場し、当の朝日新聞は、7月9日に「民主主義の破壊は許されない」などという的外れな社説を掲げたのである。
主要メディアが、ネットニュースが知り得た「特定の団体」が旧統一教会であることを明らかにしていれば、事件は旧統一教会のあまりにも悪辣な行為からの個人の恨みに起因することが分かり、民主主義の問題ではないことが、すぐに理解できたはずである。
ここには、事件が参院選投票日の直前であり、自公政権に当然のように忖度する警察(むしろ、首相官邸には事件直後に事実は伝えられ、官邸側が選挙前に公表するなと命じたと想像できる。)と馴れ合いの主要メディアの意向が隠されている。選挙前に、安倍晋三と旧統一教会の繋がりが明らかされれば、自公にとって極めて不利な参院選になりかねないからである。
朝日新聞の言い訳
朝日新聞は、参院選の1日後に教団名を明らかにした理由を(事実の)「裏付け後に報道」と題し、「この団体が旧統一教会であるとの情報を独自取材で得て、その内容を事実と確認できるまでの間は」名称を明らかにしなかったとしている。そして様々な事実が「11日に判明」したから教団名を速報、掲載したと言い訳している。
この言い訳が本当ならば、朝日新聞は自民党と旧統一教会との密接な関係や旧統一教会の極めて悪質な「勧誘」や「献金」の情報をまったく把握しておらず、この事件で初めて知った、ということになる。なぜなら、「この団体が旧統一教会であるとの情報を独自取材で得」たにもかかわらず、記事にしなかったのは、旧統一教会に関する情報をまったく把握していないので、「裏付け」が必要だったと解釈できるからである。旧統一教会の情報を以前から得ていれば、安倍晋三と旧統一教会との結びつきは瞬時に明らになり、11日前に記事にできたはずである。
その後にメディアに登場するようになった鈴木エイト氏やその他のジャーナリストは、新聞・テレビ等の主要メディアは、旧統一教会の問題に「触れたくなかったようだ」と言っているが、恐らくは、それが事実だろう。テレビプロデューサー・ライターの鎮目博道は、記者クラブ制に「根深い問題があった」という。権力に不都合な記事を書いて「記者クラブ出入り禁止などにされて、取材機会を失う危険性があるので、当局の意向に面と向かっては背きにくい側面 」があり、「忖度」が働いたと証言している。
はっきり書けば、朝日新聞は、旧統一教会の情報をまったく得ていないなどとは考えられず、自公政権への「忖度」が働き、教団名を記事にするのをためらったと考えるのが、極めて自然である。
そして愚かにも朝日新聞は同日の紙面で、「カルト問題」を、中村文則なる人物の「『悪』は人々の無関心の中で行われる」などという的外れも甚だしい文章を載せている。人々は、「カルト問題」に無関心なのではない。主要メディアが、安倍殺害事件前は「カルト問題」をまったく報道しなかったので、知らされてなかったのである。人々が、直接見聞きする情報は極めて少なく、社会で何が起きているのかのほとんどの情報は、マスメディアの報道から知るのである。知らされてないものに「無関心」も何もないのである。
勿論、朝日新聞だけが問題なのではなく、「日本記者クラブ」の会員である「日本新聞協会および日本民間放送連盟加盟の新聞、通信、放送各社など 」の日本の主要メディアの報道姿勢が問題なのである。
警察は教団名を「伏せて会見」したが、警察の会見をそっくりそのまま、警察の公表どおりにしか報道しないのは、「日本記者クラブ」会員すべてである。長い間、自公政権が(束の間の民主党政権はあったものの)続き、その権力と広告収入の考慮から資本への「忖度」が常態化してしまった、日本の主要メディアの姿がそこにある。