報道によれば、「1月13日、岸田首相はワシントンでバイデン大統領と会談し、敵基地攻撃能力の保有や防衛費の大幅増を決めたことを説明した」という。それに対し、「バイデン大統領は全面的な支持を表明した」という。
これは、東京新聞が「防衛費大幅増など手土産 喜ぶアメリカ」と見出しで報じたように、岸田文雄が2022年の5月の会談で、バイ デンへの「防衛力の強化と防衛費の増額」の約束を忠実に守ったことを、アメリカが称賛したということである。それは、「アメリカ政府はお祝いムード」で「日本の戦略的思考と外交の方向性に非常に満足している」(シーラ・スミス米外交問題評議会上席研究員 朝日新聞1/15)という言葉でも分かるとおり、バイデン政権の安保政策に完全に合致していることを示している。岸田政権のアメリカへの忠誠心に、さぞ、バイデンは「満足」していることだろう。
NATO諸国とロシアの代理戦争
ロシア・ウクライナ戦争がNATO諸国とロシアの代理戦争だと指摘することを、ロシア側からもそのような発言があるので、ロシアの言うことは100%嘘だとしたい意向もあり、西側政府と主要メディアはそう見なすことを拒否している。しかし、ロシア側がどう言おうと、また、この戦争がロシアの侵略行為であることは間違いないとしても、代理戦争という性格を帯びていることは否定しようがない。
それは、ウクライナは、NATOの兵器供給と主にアメリカの軍事情報支援がなければ、ロシアに立ち向かえないことから、戦争継続はウクライナ政府の意思だけでなく、NATO諸国政府の意思でもあるからである。特に、アメリカ政府のバイデンが、トルコのエルドアン並みに和平仲介の努力を重ね、現在のような強力な兵器供給に消極的ならば、ウクライナのゼレンスキーも「クリミア半島の奪還まで徹底的に抗戦する」とまでは言えず、停戦交渉に力を入れざるを得ないだろう。
このように、NATO、特にアメリカ政府の意向が大きく左右する戦争を代理戦争と呼ぶのは理にかなっているのである。
アメリカ共和党内には、米軍はロシア軍より地上戦では圧倒的に軍事力が優位で、ロシア軍を早期に撃退できるので、ウクライナに米軍を派遣すべきという意見もあるが、民主党主流派のバイデンは、ロシア軍との直接的戦闘は、絶対に命令しない。その意味でも、アメリカの代理戦争的性格を持つとは言えるこの戦争は、アメリカにとっては、長年にわたり敵対関係にあるロシアを弱体化するのに、極めて好都合である。アメリカの軍事産業を活性化させ、かつ、ロシア制裁により世界的に品薄となった石油や穀物を輸出増加させる利益をもたらし、正義はアメリカ側にあると示すことすらできたのである。そして、直接戦うのはウクライナ国民であり、アメリカ国民は犠牲にならずに済む。このような、願ったり・叶ったりなことは、そう起こることではない。
ロシアによるウクライナ軍事侵攻は、アメリカにとっての敵国を政治経済的に弱体化させるのに、最も好都合であるのは間違いない。そして、この構図を対中国にも作り上げる誘惑に、バイデン政権がかられも、なんら不思議ではない。
中国・日本の戦争も願ったり・叶ったり
バイデン政権は、2022年10月「国家安全保障戦略(NSS)」を公表した が、その中で中国を「国際秩序を変える意図と能力を高めている唯一の競争相手」と 規定し、対抗する方針を明白にした。要するに、中国との競争に打ち勝つことが安保政策上の最優先課題であり、それも、政権発足依頼に方針である同盟国との協調体制によって、中国に打ち勝つ、ということである。
中国に打ち勝つと言っても、中国と戦争し、打ち破るということではない。最大限の軍事力強化に努めるが、核兵器を使用しなくても、破壊力が極度に発達した現代の戦争に勝者はなく、互いに甚大な被害を被るだけなのは、分かりきっていることだからである。米軍は中国軍との連絡窓口を維持しているし、2月にブリンケン国務長官の訪中が予定されるなど、バイデン政権の米中の直接衝突は避ける意向は明白である。
そうなれば、対中国で「ウクライナの役割」を担うのは、日本以外にない。アジア太平洋地域のアメリカ同盟国は、日本、韓国、オーストラリアなど(アメリカが味方に引き入れたいインドは、中国と紛争が絶えないが、対ロシアでアメリカに追従しないことで分かるように、自国の利益を最優先するので、アメリカの思いどおりにはならない。)だが、その中でも、経済力と軍事力で秀で、親米右派政権がほぼ永続的に続く国は日本だけである。韓国もオーストラリアも右派と中道左派が政権交代を繰り返すが、日本は、異常なほどアメリカに追従する自公政権は安定しており、近いうちに政権交代する可能性はゼロに等しい。また、明治以降の欧米崇拝、第二次大戦以降のアメリカ崇拝は、国民に深く染み渡っているし、日本人の中国嫌いも甚だしく高まっている。かつて日本は中国を侵略し、日中戦争を行った。それは中国側の記憶にも刻まれている。その意味でも、中国と戦争が起こるとすれば、日本は「うってつけ」なのである。
日本は、曲がりなりにも「平和憲法」を抱き、「専守防衛」を掲げてきたのだが、自公政権は、それを逸脱する姿勢を明白にし始めた。軍事費を大幅に増額し、アメリカ、中国に次ぐ世界3位の軍事大国になろうと努めている。バイデン政権は「民主主義国対権威主義・専制主義国」の戦いという「正義」(何が正義なのかは、アメリカが決めるのだが)の概念を前面に出しているが、それは敵と見なす国を力によって封じ込めるというアメリカの伝統的政策となんら変わりはない。それに日本政府は、同調したのである。
「防衛費大幅増など手土産 喜ぶアメリカ」の真の意味
ロシアの侵略は、アメリカにとっては「棚から牡丹餅」だったが、ロシアが侵攻するよう画策したという証拠はなく、また、そのようなことはしたとは考えづらい。それと同様に、アメリカが対中国でも戦争が起こるように画策することはないだろう。しかしそれでも、アメリカ政府は戦争を想定し、そのための準備は怠らない。日本の軍事力の増強は、日本には最新兵器の製造能力がないことから、アメリカ製兵器の輸入に頼らざるを得ない。それは、アメリカ軍事産業の多大な利益をもたらす。そして、何らの理由により、不幸にも開戦となった時、対ロシアでのウクライナの役割を日本がしてくれれば、これほど願ったり、叶ったりのことはない。それが、岸田文雄の訪米での「防衛費大幅増など手土産 喜ぶアメリカ」の真の意味なのである。