夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

欧州主流派の偽善 

2025-03-05 16:17:12 | 社会


 トランプのゼレンスキーへの激怒で、アメリカは、ウクライナのゼレンスキーの意向を無視したロシアとの和平に前向きで、ウクライナへのへの軍事支援を縮小させることが濃厚になった。
 それに対して西側主流派は、欧州首脳を筆頭に、国際法違反のロシアの侵略による占領を放置したままの和平には反対し、「ゼレンスキーを擁護する」意向を次々に表明している。
 ここで言う西側主流派とは、中道左右両派、リベラル派の政権や主要メディアに登場する「専門家」や知識人のことである。したがって、極右に属するトランプやそれを支える共和党強硬派、ハンガリーの極右オルバン、そしてその反対側にいる急進左派の「不服従のフランス」やドイツ左派党などは含まれない。
 西側主流派の中には、ロシアに対して和平を持ち掛けことはは、ナチスドイツへの融和策を決めたミュンヘン会談に等しいと言う者までいる。それは、ロシアをここで破らなければ、いずれヨーロッパ全体がロシア全体主義に侵略されるという意味である。だから、ここで妥協してはならない、ということである。ミュンヘン会談を持ち出しないその他の主流派も、国際法違反のロシアと戦争することは、民主主義を守るための戦争であり、そのためにウクライナへの軍事支援を継続しなければならない、という論理では同じである。
 しかし、現状でのウクライナへの軍事支援だけでは、ロシア軍を排撃するこはできず、ウクライナ軍は負け戦を強いられている。トランプは、ゼレンスキーの会談決裂後、一切のウクライナ軍事支援を停止したが、この措置は、ウクライナ軍の負け戦は、さらに悪化することを鮮明にしつつある。
 
 この事態に、英国首相スターマーやフランス大統領マクロンは、欧州結束を呼びかけ、ゼレンスキーを擁護し、ウクライナ支援を継続すると表明したのだが、自分たちだけでは力不足なので、やむを得ず、一時的、または部分的な停戦案を検討し、アメリカに提案する道を選んだ。これは、提案とは聞こえがいいが、内実は、アメリカに「どうかお願いだから、ウクライナ支援を継続して欲しい」という懇願である。

正直なトランプ、偽善で固まる欧州首脳
 カネの亡者のトランプは、今までにウクライナ支援のために使ったアメリカの莫大なカネを、ウクライナの希少金属資源で払えとゼレンスキーに迫った。これ以上、ウクライナのためにアメリカのカネを使いたくはないと言う。
また、ゼレンスキーに「お前は、第三次世界大戦を賭けている」と非難した。お前らのせいで、アメリカを巻き込む世界大戦寸前の危機に陥っているという非難である。だが実際には、これらのことは、トランプが外交上では、今までない「非常識な」正直さを表している。
 トランプのアメリカファーストは、すべてアメリカにとって実利があるかどうかであり、西側主流派が言う「民主主義を守る」という、一見聞こえのいい、抽象的イデオロギーはどうでもいいのだ。

 しかし、欧州主流派が「民主主義を守るため」の戦争だと言うならば、欧州は最低でも、アメリカの抜けた支援の穴を埋める軍事支援を行う、現在の数倍の軍事支援を行うと宣言しても良さそうなものである。そのためには、欧州が大幅な軍事費の増額で、借金まみれになろうとも、社会保障費が大幅に削減されようと、「民主主義を守る」ことが優先されるので仕方がない、と言うべきだろう。
 また、ロシアのプーチンをヒトラーに例えるなら、第二次世界大戦並みの戦争を覚悟し、モスクワを、ドレスデン空爆や、東京空襲のように、壊滅させる、と言い放つべきだろう。
 しかし、現実の政策は、EUと英国を合わせても、アメリカの半分以下の軍事支援しかして来なかったのである。そこには、ウクライナが破壊されても、自分たちはなるべく傷つきたくないという利己心が隠されている。

 欧米政府(バイデンのアメリカを含む)は、対ロシアにだけ、自由民主主義や国際法を持ち出す。しかし、数万人のパレスチナ民間人を殺害し続けるイスラエルには、非難するどころか、軍事支援を行い、虐殺を手助けしている。いハマスやヒズボラがテロ組織だから、それを支援するパレスチナ人は殺害されれも仕方がない、という論理である。しかし、ロシアのプーチンもイスラエルのネタニヤフも、ICCから逮捕状が出ている人物である。現にパレスチナ人には、安全に生活する「自由」もなければ、イスラエルの抑圧で自治権の行使も満足にできず、「民主主義」どころではない。西側主流メディアには、ウクライナへの軍事支援で「自由で民主主義的な国際秩序を守れ」という社説や意見が度々登場するが、イスラエルのパレスチナ人虐殺を黙認しているのは、「自由で民主主義的」な欧米政府なのであり、「自由で民主主義的な国際秩序」なるものは、既に欧米政府には守られていない。

汎欧州安保の模索以外に解決策はない
 朝日新聞は、2010年10月7日付けで、「ロシアのNATO加盟を――汎ヨーロッパ安全保障秩序の確立を」という記事を載せている。チャールズ・クプチャン/ジョージタウン大学教授(国際関係論) の論考である。これは、今ではアメリカ政府の外交政策を擁護する立場が鮮明なForeign Affairs誌に掲載された論考であるが、当時は、朝日新聞が掲載しているように、西側主流派にも
ロシアを含めた安全保障を構築するという考えがあったことを示している。2008年には、当時ロシア大統領だったドミトリー・メドベージェフが「全欧州安全保障フォーラム」を提唱している。これは、「ヨーロッパを形づくっているNATO、EU、CIS、CSTOというすべての組織がまとまって、さまざまな問題の解決に向けた試みに参加できればと考えている。そうした汎ヨーロッパ的なフォーラム を形成」したいという意向がロシア側にもあったのである。このメドベージェフは、大統領は連続3期禁止というロシア憲法のため、連続2期のプーチンの代わりに大統領になった人物であり、これがプーチンの意向であることは間違いない。それは、当時もプーチンが政府内で絶大な権力を掌握していたからであり、それは今でも続いている。
 
 そもそも、東西冷戦時から、政治体制、地理的位置、経済体制に関わりなく安全保障を追及する取り組みはあったのである。1972年に全欧安全保障協力会議 CSSE、その後継の1990年の欧州安全保障協力機構OSCEも、ソ連・ロシアを含めた欧州全体の安全保障を追及するものである。
  
 そこには、政治体制に関わりなく平和共存を求める思想があった。西側の「自由民主主義」に反すると言えば、ソ連の「共産主義」は、プーチンの権威主義以上に、「自由民主主義」に反する。それが、今では「平和共存」どころか、世界大戦前夜のように、欧州はいつでもロシアと戦争ができるほどの軍事力を持とうとやっきなっているのである。EUのフォン・デア・ライエンは、ウクライナを「鋼鉄のハリネズミ」に変えるとまで言う始末である。

 バイデンは、「民主主義国」対「権威主義国」の闘いを推し進めたが、それが乗り移ったかのように、欧州は、中国を含めた「権威主義国」ロシアとの闘いを強調している。そこには、敵対する相手の脅威を異常なまでに誇張する、徹底した相手側の「悪魔化」がある。これでは、平和共存など不可能であり、相手側の壊滅、西側からは「権威主義国」の壊滅以外の解決法は見いだせない。たとえそれが、戦争にまで至らないとしても、莫大な軍事費の圧迫で国内の経済・社会は混乱を極め、国際機関は対決の場となり、世界的な危機である地球温暖化対策、保健対策、アフリカなどの国の貧困対策は後回しにされる。
それは、自滅の道としか言いようがない。

 2003年3月14日、イラク危機に際し、フランスのドミニク・ド・ヴィルパン外相は、米英の武力行使論に反対した。彼は、国連安全保障理事会で、「戦争と占領、そしてそれに伴う残虐行為を知っている、地雷のような大陸であるヨーロッパの古い国・フランスからのメッセージだ。」 「国連というこの殿堂において、我々は理想と良心の守護者でありたい。我々の責任と名誉にかけて、平和的な武装解除を優先すべきだ」と演説し、会場全体の拍手を浴びた。
 欧州は、今こそ、この精神を思い出すべきなのである。
 


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