
“魔法の薬" と水分と栄養と休憩をとり、私の足はほぼ回復しました。


調子に乗って上ワク塚の岩場を這い上がり、これ以上ない絶景も目にすることができました。
大崩山頂には行かないことにしたので、あとは降るだけだと思っていました。
上ワク塚の基部を出て、近くに水場があるリンドウの丘に向かったのですが、これが微妙なアップダウンがあり、再び足が痛くなってきたのです。
登山道の脇にあった倒木の幹に腰をおろし、残り1包となった “魔法の薬” の封を切りました。
さらに、行動食として持ってきた羊羹やアメ玉を口に放り込みました。
意外と冷静に対処できたのが自分でも不思議なくらいでした。
自分で言うのも変ですが、下調べと準備は完璧にできているという自負があったのだと思います。
その時点で正午前でしたので、日暮れまでには6時間以上あったことも冷静な対応ができた要因の一つだと考えます。
ザックの中にはペットボトルの水が入っていましたが、念の為にあと500㎖は確保しておきたいと考えていました。



象岩下のトラバースも、

ほどなく岩の斜面に一筋の水の流れを見つけました。


手のひらに掬い取って飲んだその水の美味しかったこと!
生き返る思いがしました。
空のペットボトルに天然のミネラルウォーターを補充し、ゆっくりゆっくりと小積ダキをめざしました。

アケボノツツジやミツバツツジの花、それに加えて登ってきたワク塚の岩の尾根が私を励ましてくれています。

小積ダキまで来た時、坊主尾根へ降るルートを探している2人の登山者に出会いました。
昨年の台風で登山道が崩れ、新たなルートがつくられていたのでした。
その後、出会った二人の登山者と降り口を探しだし3人一緒に下山したのです。
象岩下のトラバースも、

梯子とロープの難所も、


互いに気遣いながら3人で下山することは、私に安心感を与えてくれました。

坊主岩(米塚)も、延々と続く梯子の連続も、初めて出会った3人が旧知の仲間のように信頼しあって、長い長い下り道をただひたすら降りて行ったのでした。
そして、ついに祝子川の渡渉点に辿り着きました。


振り返ると小積ダキが、
『次は秋においで!』
と、私に語りかけているようでした。
車を停めている登山口まで降りてきたのは午後2時です。
私には渓流で竿を出す気力はもう残ってはいませんでした。