由布岳に登ったのは1度だけです。
社会人になり4年目の、忘れもしない1月1日のことです。
思うところがあり、由布岳の山頂から新しい年の初日の出を見たくなったのです。
由布岳に登る時の最寄駅は湯布院駅になります。
学生時代に使っていたニッカズボンにエンジのシャツを身につけ、大晦日の夕方、久大線の湯布院駅を目指しました。
登山の格好をしてザックを持って列車に乗っていると目立つのか、チラチラ視線を感じます。
「初日の出ですか、どちらまで?」と、声をかけてくる人もいましたし、
「気をつけてくださいね」と言って、持っていたキャラメルをくれる親切な人もいました。
夜の10時頃に湯布院駅に着き、待合室で仮眠をとりましたが、寒くてすぐに目が覚めてしまいました。
駅から登山口までは歩いて行くつもりでしたが、地元の方々用にマイクロバスが夜中に出るとのことだったのでお願いして乗せてもらいました。
まだ真っ暗な登山口から、他の登山者と列をつくり山頂を目指して登り始めます。
ヘッドランプの光が霜の降りた枯れ草をキラキラと照らします。
高度を上げていくと積雪と霧氷とガスで真っ白な世界に入り込みました。
山頂はかなりの人が、初日の出を見ようとすでに陣取っていました。
私も、ガスは出ているものの薄明るくなり始めた山頂の一角を確保して初日の出を待ちました。
じっとしているとキンキンとした寒さが厚手のヤッケの上から染み込んできます。
そんな時、少しオレンジ色のガスがふわーっと切れて、ご来光が姿を現したのです。
それと同時に、周囲から歓声ともため息とも言えない声が一斉に聞こえてきました。
私も、声にならない声を漏らしながら、昇ってくる1984年1月1日の初日の出を見ていたのでした。
この年の暮れに、私は結婚して人生の新しいスタートを切ったのでした。