12:10発 北沢峠行きの登山バスに「1」番で乗車した私は、1番前の席に座ることができました。
40数年前に仲間とともに北沢峠まで自転車を押し上げ続けた道を、登山バスで登っているのです。
なぜ40数年前は自転車を押して登らなければならなかったか、まだ話していなかったですね…
当時、南アルプススーパー林道は開通したばかりの道で、南アルプスを横断するサイクリングルートとして雑誌にも紹介されました。
ワンダーフォーゲル部であった私は、中部山岳地帯の数カ所の山々を自転車で周る夏合宿を計画したのです。
九州から国鉄で自転車を輪行し塩尻まで行き、白樺湖のある霧ヶ峰や北八ヶ岳、南八ヶ岳、甲斐駒ヶ岳や北岳・間ノ岳・農鳥岳など南アルプス北部、最後は富士山まで登るという壮大な計画でした。
ところが、合宿中盤の南アルプススーパー林道の入口のゲートまで来た時に、“自転車は通せない” と足止めを食らってしまったのでした。
サイクリング雑誌等で紹介されたために、多くのサイクリストがココを訪れ、地元の人たちとのトラブルや事故が起こっていたのでしょう。
私はゲートの管理をしていた方と話をし、北沢峠まで自転車を押して上がる事を約束し、翌日の朝にゲートを通してもらったのでした。
長い長い道のりでした。
当時は林道のほとんどが砂利道で、イヤになる程何度も何度もカーブを曲がりながら北沢峠を目指したのです。
今回はバスで1時間くらいかかりましたので、40数年前は7〜8時間はかかったろうと思います。
私はバスの最前列で、かつて仲間と自転車を押し続けた坂道を、昔の記憶を辿るように見つめたのです。
『約束したとは言え、よくもまぁコンな道を北沢峠まで… 』
忘れていたその時の辛さや意地でも約束を守り通そうとした感情が蘇ってきたのです。
バスのフロントガラス越しの林道を見ながら、急に胸が熱くなるのを感じていました。
林道は砂利道に変わり、バスが最後のカーブを曲がると北沢峠が見えてきました。
40数年振りに訪れる北沢峠でした… 。