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快適な対人距離とは… 【連載】藤原雄介のちょっと寄り道(59)

2024-06-29 05:38:24 | 【連載】藤原雄介のちょっと寄り道

【連載】藤原雄介のちょっと寄り道(59)

快適な対人距離とは…

世界

 

 

 

 前回「韓国人との付き合いは、心理的にも身体的にも驚くほど距離が近い」と書いた。次の原稿の題材を考えていたら、「ラテンワルツ」という言葉が浮かんできた。
 例えば、英国人とイタリア人が歩きながら話をすると、いつの間にかワルツを踊っているようにくるくる回り出すという現象だ。パーソナルスペース (PS) が広い英国人と狭いイタリア人がお互いに快適な身体的距離を保とうとして無意識に動いてしまう結果らしい。
 言い得て妙だ。「ラテンワルツ」という言葉は、学生時代に読んだ開高健か伊丹十三のエッセイに書かれていたように思うのだが、定かではない。
「パーソナルスペース」とは、他人に侵入されると不快に感じる空間を意味する。スイス人の動物心理学者、H. ヘディガーの研究をヒントに米国の文化人類学者、E. T. ホールが1966年に提唱した概念だ。
 
 接触文化圏といわれる中南米、南欧、インド・パキスタン・バングラデシュ、中東の人々のPSは一般に狭く、非接触文化圏のアジア、北米、英国、中北欧に住む人々のそれは概ね広いと定義づけている。なるほど…でも(酒に酔った)韓国人はアジアに属するが例外のような気がする。
 PSは、パーソナルエリア (PA)、固体距離、対人距離とも呼ばれている。先に述べた文化や民族による分類で、大まかな傾向は理解できるが、個人の日常生活に落とし込むならば、男女、年齢、個人の性格、好き嫌い、見た目、体臭、思想、言動の傾向、服装のセンス、全体的な相性、社会的地位…など諸々の要因が複雑に重なり合う中で無意識に最適な距離を保とうとしているのではないか。
 問題は、最適と思われる距離が「ラテンワルツ」のように自分と相手で異なっているときだ。「好いたらしい」相手とはくっつきたいし、「鬱陶しいヤツ」とは距離を置きたい。当たり前のことだ。
 
 私が初めてモロッコに行ったとき、手を繋いで歩いている男達が多いことに驚いた。その後、インドや中近東でも同じような光景を頻繁に目撃することになる。イスラム法上、同性愛は罪であり、露見すれば石打ちの刑に処せられるというのに……。
 彼らはゲイ(同性愛者)なのではなく、単に親愛の情を表すために手を繋ぐのだそうだ。親しいもの同士の挨拶では、ホッペタにキスし合うのも珍しいことではない。ただ、私の印象では、手を繋いで歩いているのは圧倒的に肉体労働系の人たちが多いように感じられた。
 イタリアやスペインなど南欧、或いは中南米などでは身体的距離が極めて近いが、それは男女間に於いて顕著なのであり、インド・アラブ文化圏のように男同士がベタベタ(インド・アラブ圏の皆様、失礼!)することは殆どないように思われる。
 私はインドで行列に並んだことはないが、インド人の行列は前のヒトと腹や肩がくっつくほど隙間なく並ぶのである。普通の日本人なら不快で耐えられない距離感だろう。

▲インドでは男同士手を繋いで歩くことは珍しくない

▲インド人の行列。どうしてこんなにくっつきたがるのか

▲ゆったり並ぶ日本の行列▼

 

 少し脱線する。
 英国を含む欧州全域でも手を繋ぎ合う男達が結構多いが、こちらはほぼ例外なくゲイのカップルだ。ロンドンの街角で信号待ちの間に、腰に手を回し、唇にキスし合うカップルを目撃することは珍しくなく、目のやり場に困ってしまった。
 少々古い話だが、2017年4月、オランダの野党「民主66」のアレクサンデル・ペヒトルト党首(左)とバウター・コールメース議員が手をつないで歩く写真が掲載された。これはオランダ東部のアーネムでゲイのカップルが激しい暴行を受けたことに抗議し、ゲイカップルに連帯を呼びかけるためだった。
 何しろオランダは、2001年に同性婚を世界で 初めて合法化した国である。この写真をきっかけに男同士が手を繋ぐ写真は、オランダだけでなくロンドンやニューヨークでも撮影され、「#allemannenhandinhand(男性は皆、手をつなごう)」というハッシュタグと共にソーシャルメディア上で広まった。

 

▲手を繋ぐオランダの野党「民主66」のアレクサンデル・ペヒトルト党首(左)とバウター・コールメース議員(AFP BB Newsより

 

 文化や国民性に関係なく、男性と女性ではPSの範囲は違うらしい。男性のPSは前方向に広い楕円形で、全体的な範囲は女性より狭い傾向にある。人気劇画の主人公「ゴルゴ13」は誰かが後ろに立つことを極度に嫌がるが、彼のPSは一般人より相当広いに違いない。
 女性のPSはほぼ円形に近いため、男性が適切な距離と思っても圧迫感を感じる女性がいるかも知れないので、注意が必要だ。因みに、PSが対人関係に与える影響は、距離によものだけではなく相手との位置関係によっても変わってくる。例えば、次のような位置関係に関する基本的な法則を知っておいて損はない。
 テーブルに着く場合、真正面に座ると緊張が高まりやすく、意見が対立し口論になりやすい。向かい合うときは、斜め45度の位置に座ると緊張が和らぐ。相手と親密な関係を築きたければ横並びがベスト。
 これらのことは本やネットなど何処にでも書かれていることだが、自分の実体験から100%同意する。バーカウンターに並んで座ると思いがけず深く、突っ込んだはなしができ、親密度が深まったという経験をお持ちではないだろうか。

 国別のPSが気になり調べていたら、CEOWORLD誌のサイトに辿り着いた。同誌は毎年、地球上で最も裕福な人々からトップの大学、企業、CEO、世界最高のビジネス スクールに至るまで、さまざまなカテゴリに基づいて世界をランク付けし、人生で最も難しい決断をするときの貴重な参考資料として役立っているのだそうだ。
 世界中の人々は、見知らぬ人、知人、愛する人々と物理的にどれくらい近づこうとしているのか? 同誌は世界196カ国から約65万人に「見知らぬ人同士がどれくらい近くに立つべきか?」を尋ね、その結果を2024年2月に発表した。
 この調査によると、アルゼンチン、ペルー、ブルガリアでは、人々は見知らぬ人の近くに立つ傾向がある一方、ルーマニア、ハンガリー、サウジアラビアの人々はより個人的な空間を好む傾向がある。アメリカ人はその中間で、見知らぬ人と自分との間に平均約95.3㎝の距離が保たれているとか。
 では、個人空間が最も広い国のランキングを上から見ていこう。突っ込みどころ満載の資料だ。

①ルーマニア(139㎝)
②ハンガリー(130㎝)
③サウジアラビア(126㎝)
④トルコ(123㎝)
⑤ウガンダ(12㎝)1
⑥パキスタン(119㎝)
⑦エストニア(118㎝)
⑧コロンビア(117㎝)
⑨香港(116㎝)
⑩中国(115㎝)
⑪ドイツ(114.8㎝)
⑫日本(112.7㎝)
⑬インド(112㎝)
⑭英国(99.4㎝)
⑮フランス(99.16㎝)
⑯イタリア(99.13㎝)
⑰ブラジル(99.11㎝)
⑱カナダ(99.01㎝)
⑲メキシコ(98.89㎝)
⑳韓国(98.87㎝)
㉑オーストラリア(98.78㎝)
㉒インドネシア(98.57㎝)
㉓オランダ(98.56㎝)
㉔スイス(98.51㎝)
㉕ポーランド(98.47㎝)
㉖台湾(98.39㎝)
㉗ベルギー(98.29㎝)
㉘スウェーデン(98.17㎝)
㉙アイルランド(98.09㎝)
㉚ノルウェー(98.04㎝)
㉛イスラエル(97.97㎝)
㉜タイ(97.93㎝)
㉝アラブ首長国連邦(97.71㎝)
㉞シンガポール(97.62㎝)
㉟バングラデシュ(97.55㎝)
㊱フィリピン(97.54㎝)
㊲ベトナム(97.49㎝)
㊳マレーシア(97.44㎝)
㊴デンマーク(97.41㎝)
㊵エジプト(97.22㎝)
㊶ナイジェリア(97.21㎝)
㊷南アフリカ(97.16㎝)
㊸イラン(97.14㎝)
㊹チリ(97.13㎝)
㊺チェコ(96.95㎝)
㊻フィンランド(96.76㎝)
㊼イラン(96.71㎝)
㊽ポルトガル(96.69㎝)
㊾カザフスタン(96.67㎝)
㊿ニュージーランド(96.54㎝)

*196カ国のうち上位50位まで(CEOWORLD誌より)

各国の人口も記された元の表(CEOWORLD誌より)


 これを見ると、ルーマニアのPSが一番広く139cm、一番狭いのはニュージーランドで96.54cmだ。日本の平均PSは112.7cmで、インドの112cmとほぼ同じだ。
 ラテンワルツを踊るはずの英国人の99.4cm に対しイタリア人は99.1cmで、こちらもほぼ同じである。イヤイヤ、あり得ない。これではワルツなど踊りようがないではないか。今まで書いてきたことが、まるで嘘になってしまう。

 この表には、PSの計測方法、サンプル採集都市、サンプル数などの情報が何も記されていない。また、PSに影響を与える要素については、「人口密度、住んでいる家のサイズ、文化的要因が影響を与える」と抽象的なことしか記されていない。 
 更に、PSにおける文化的な微妙な差違については、「文化的な規範が、コミュニケーションにおける社会的距離感を決定する。ある文化で、親愛の情や絆を示すために、短い身体的距離が好まれる。一方他の文化では、個人の境界(縄張り)を尊重するため広いスペースを保つことが好まれる。どちらが良い、悪いではない。文化的多様性を理解することで、円滑な相互理解が促進される」だって。
 ふーん、そうですか。面白くもなんともない。

 人口密度がPS決定の主要因の一つだとすると、PSが世界で一番広いルーマニア(139cm)の人口密度84人/㎢に対し、世界で一番狭いPS (96.54cm) のニュージーランドの人口密度が19人/㎢である理由をどう説明するのだろう。
 因みに日本の人口密度は、世界28位 331人だ。私は、人口密度はPSの決定要因から除外すべきだと考える。顕著な相関関係が認められないからだ。PSが100cm以下の国を見ると、英国が14位で99.4cm、50位のニュージーランドは96.54cmだ。ほぼ誤差の範囲である。
 にも拘らず、この不完全な表を紹介したのか。数字の背後に隠されている様々な要因を想像してみるのも面白いだろうと考えたからだ。

 

             

  

【藤原雄介(ふじわら ゆうすけ)さんのプロフィール】
 昭和27(1952)年、大阪生まれ。大阪府立春日丘高校から京都外国語大学外国語学部イスパニア語学科に入学する。大学時代は探検部に所属するが、1年間休学してシベリア鉄道で渡欧。スペインのマドリード・コンプルテンセ大学で学びながら、休み中にバックパッカーとして欧州各国やモロッコ等をヒッチハイクする。大学卒業後の昭和51(1976)年、石川島播磨重工業株式会社(現IHI)に入社、一貫して海外営業・戦略畑を歩む。入社3年目に日墨政府交換留学制度でメキシコのプエブラ州立大学に1年間留学。その後、オランダ・アムステルダム、台北に駐在し、中国室長、IHI (HK) LTD.社長、海外営業戦略部長などを経て、IHIヨーロッパ(IHI Europe Ltd.) 社長としてロンドンに4年間駐在した。定年退職後、IHI環境エンジニアリング株式会社社長補佐としてバイオリアクターなどの東南アジア事業展開に従事。その後、新潟トランシス株式会社で香港国際空港の無人旅客搬送システム拡張工事のプロジェクトコーディネーターを務め、令和元(2019)年9月に同社を退職した。その間、公私合わせて58カ国を訪問。現在、白井市南山に在住し、環境保全団体グリーンレンジャー会長として活動する傍ら英語翻訳業を営む。


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