短篇ベストコレクション『現代の小説2019』 日本文藝家協会編 徳間書店
2022.1.21 読了
文庫だが、作品だけで690ページもある。時間に余裕がある時しか読めないページ数だ。
いつも思うけど、短編集を五十音順に収録するのはなぜだろう?
作品の組み合わせでも印象は変わると思うけど。編者の先入観で左右させないためだろうか? 考えて収録したら3話めと4話めのおばあさんが重なることはなかっただろうに。 くっ付けてしまったお陰で、83才のおばあさんを比べる感情が起きてしまう気がするけど...
短篇と言いながら、それぞれは適度な読みごたえがあるので簡単に感想を書いていく。
『時計にまつわるいくつかの嘘』青崎有吾 著
若い私立探偵2人が謎を解く小説。解き方が『なんでそーなる?』というタイプなら二度とごめんだが、2人がいい個性を融合させて謎を解く感じが楽しい。続編や他の展開も読みたいと思った。
『どうしても生きてる 七分二十四秒めへ』 朝井リョウ 著
日常とYouTuberに夢中になる時間を折り込ませた、面白い展開だった。食べ物は大事に扱おう、面白いだけのことに留めて肯定する風潮は拡めないようにして欲しいな、と思った一話だった。
京アニ事件の模倣犯が後を絶たない。安易な真似をする人間が世の中にいることを忘れずに発信して欲しい。
『たんす、おべんと、クリスマス』 朝倉かすみ 著
83才のおもちさんっていうおばあさんの日常っぽい小説。
結構おばあさんだから、こんな思考して平気だよねー(^^; っていう共感を持つ一話だった。御歳83でも、毎日を元気に過ごして欲しいね。
『代打、あたし』 朝倉宏景 著
あら、この人も83才だ。
シヅっていうおばあさんと本命の高校受験に失敗した隣家の息子丈留が、後に揃って入学した夜間高校野球部での出来事。
シヅが思いの外しっかりしている点と、それなりに克服したいことがある点が記憶に残る。面白かった。
『魔術師』 小川 哲 著
とある天才マジシャンとその娘の挑戦。
昔流行ったヒキタテンコウを思い出す。漢字は思い出せないけど。
流行ったなーあの頃は。マジシャンは究極のマジックはやらない方がいい。それ以上のことを観客は期待するから。
『素敵な圧迫』 呉 勝浩 著
こういう変な欲求ある人っているんだろうね...
自分は一般的だなあってつくづく思うし、身近にこういうのが出現しないことを祈る。数年前、結構変なやつが多かったけど、気持ちが乱されろくなものじゃない。いい迷惑。
『喪中の客』 小池真理子 著
これは他の短編とかで読んだかもしれない。忘れていたがゾクッとする話だ。妹の不倫相手の妻が、なぜ急に姪のことで立ち寄ったか。それが不思議だ。
起こった現実を 信じたくないかもしれないが、供養は早めに折々やった方がよい。
浮かばれないっていうより、悪さをさせないためかも知れないしね。
『ヨイコのリズム』 小島 環 著
親がケンカばかりしている少女の気持ちの支えになりたい少年。子供にある真摯な感情のやり取りをうまく描いた作品。
大人になれば、そんなに大仰に捉えなくとも良いことも子供にとっては大事件である。心の機微がよく顕れている。
解らなくても人格形成には大いに影響してしまうので、大人たちも大人の都合を優先させず丁寧に対処したいものだ。
『スマイルヘッズ』 佐藤 究 著
シリアルキラーのアートのコレクターか。初めて聞いたけど、あるだろうね。人間の禁忌はどうしてそう言うか、理解できない人間は居るだろう。
マッシュという漫画を描いた作者が、作品の中に臓物を絵に描写したシーンがある。あれも描いていて吐き気を感じることができるかどうか。人間の感情の度合いっていうのは計り知れない。
そんな賛否を唱えるようなモノを扱うのに、『売りたい』という女性を安易に信じてしまったのは痛恨のミスだった。彼女の『作品』は、いつ明るみに出るのだろう?
『一等賞』 嶋津 輝 著
読み終わって、『どこだろう?』と思った。一等賞って。
アル中の荒尾さんが発作で、いつもあるものを探し、近所の馴染みの商店街の皆さんが協力して荒尾さんの自宅アパートに戻らせるように一致団結するとこかな?
そうしたら、名前や家族との関係まで話に出る主人公のユキの立場は?
面白味があるが、そこが気になる一話だった。
『エリアD』 清水杜氏彦 著
『D』っていうのはなんの略だろう? 光に当たると身体が石化してしまう地帯のことだそうだが。車で駆け抜けようとしても、整備の悪い道だから、途中でアクシデントに見舞われて石化して二度と戻れないことになった先人が山ほどいるようだ。
日光は元より、懐中電灯やヘッドライトさえ当たってはいけない。
ミステリーというより、探検旅行のSFを読む気分だ。
これは映画化するといい。なんだっけ、トレーラーで追い回されるやつ。ああいう、ヒタヒタとした常識の通じない恐怖を感じさせられる。
『pとqには気をつけて』 高橋文樹著
こういう作風は苦手。パス。
『傷跡の行方』 長岡弘樹 著
震災前後に起こった連続児童誘拐事件の犯人と敏腕興信所の調査員が遭遇したというストーリー。犯人の目的はなんなのだろう...
『胎を堕ろす』 帚木蓬生 著
終戦直後、植民地から引き揚げてきた日本人は、38度線を越えるとき、ソ連兵から空砲で脅されて散りじりになったそうだ。男と女子供を別々にし、乱暴を働いたりしたようだ。そういう惨事が書かれたサイトも存在する。
この短篇は重い話だ。なんの罪もない民間人が思い出したくもない境遇に曝されるのだ。今の世の中でそんな恐怖体験を身近に感じられる人がどれだけ居るだろう...
考えさせられる話である。
『円周率と狂帽子』 平山夢明 著
意味なく読書したいときに読むストーリーかな。
沢野ひとしさんかと思った...
『銀輪の秋』 藤田宜永 著
親同士が離婚して、会えなくなった母を想う少年と、ちょっとしたきっかけで生まれ育った町に行くことになった老人の話。
人生、何があるか分かんないね。
『牧神の午後あるいは陥穽と振り子』 皆川博子 著
常用漢字までしか読めないと、難解な小説だと思われるね。時代背景も戦前のようだし。ルビが振ってあるけど、情景が浮かぶかどうか。
小学生の少女が友達の家にあった少し難しい本に夢中になる場面と戦後の様子。
本を貸してくれたお家の方々の不慮の死。そんなことが淡々と描かれている。
面白味は...少女時代のの興味とその移り変わり、だろうか。この少女が持つような、初めて触れる成長後の情報への興味とそれの嫌い外れ。誰しも経験があるだろう。
『守株』 米澤穂信 著
注意喚起を怠った男性の独白である。思い込みが甚だしいだろう...
だから小説になるのかな?
数年経って独白する男性の記憶に、警官はどう分析していくのか、そっちが気になった。