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出張帰りのお父さんが持って帰る、駅弁の釜飯の釜が、台所の下に二つ転がっている夕暮れ(ラーメン興亡9)

2006年11月10日 | 書いたもの
「釜飯」。
葵さんが焼く器で釜飯を作る。
マコトさんの結論はこれだった。
器を葵さんが作り、釜飯をマコトさんが作る。
お二人の初めての共同作業だった。
詳しいことはよくわからないけれど、
葵さんの工房にマコトさんが泊まり込むようなこともあったようだ。
釜飯用の十口のコンロがぬりかべ屋に運び込まれた。
久し振りに安さんがぬりかべ屋に現れてマコトさんを叱った。
マコトさんの弁解はこうだ。
――十口のコンロに十個の釜飯を載せて炊く。
開店時間ぴったりに炊きあがるようにだ。
今も開店前には20人ほどの行列ができる。
味には自信がある。一日十食限定、それ以上は作らない。
そうすればラーメン作りにも影響が出ないはずだ。――
安さんが言った。
「あの行列は、ラーメンの行列でないのか?」
すったもんだがあったが、
結局だれもマコトさんの気持ちを変えることができなかった。
釜飯はスタートした。
それはマコトさんの予想通りよく売れた。
そうして安さんの予想通り、一日十食の限定がやがて二十になった。
ラーメンが再び荒れた。
安さんが珍しく酔って店に来た。
「マコトよ、おまえ釜飯取るか、俺の作った麺ば取るか、二つに一つだ」
マコトさんも声をとがらせて応えた。
「そんなやり方、最低でないか、安さん」
「ああ、最低だ。俺は最低の麺屋で、お前は最低のラーメン屋だ」
想像したとおり、マコトさんは釜飯をとり、安さんの麺のかわりに、
大手の製麺所の麺をいれるようになった。
皮肉なことに釜飯は売れに売れて、TVまでやってきた。



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