阿部ブログ

日々思うこと

京阪奈(けいはんな)の NTTコミュニケーション科学基礎研究所

2013年05月16日 | 日記
「けいはんな学術研究都市」にNTTコミュニケーション科学基礎研究所 (通称CS研)がある。住所は、京都府相楽郡精華町光台2-4 NTT京阪奈ビルとなる。東京からだと新幹線で京都まで行き、近鉄線で新祝園駅下車で、バスにて15分。

        

NTTの研究開発組織は、NTT持株会社直轄で、現在、3つの総合研究所体制で研究開発を行っている。3つの総合研究所とは、①サービスイノベーション総合研究所、②情報ネットワーク総合研究所、③先端技術総合研究所。NTTの事業形態から理解できる通り、ネットワーク上で実現する革新的なコミュニケーションサービスと、新たなサービスを実現する次世代情報ネットワーク基盤技術の開発を中心に行っている。特にトップクラスと自負する光関連技術など、新たしい物理原理や新素材・新部品を開発する先端的な基礎研究は、今でも国際的にも抜群に優秀。

NTTの研究開発拠点は、横須賀YRP、武蔵野(三鷹)、筑波、厚木、それと京阪奈で、NTTコミュニケーション科学基礎研究所は、先端技術総合研究所に属し、情報通信に革新をもたらす情報科学と人間科学の新概念・新技術の創出を日々行っている。名前からNTTコミュニケーションズの研究組織と思われがちだが、勿論、NTT持株会社の研究機関である。

コミュニケーション科学基礎研究所は、人間情報研究部、協創情報研究部、メディア情報研究部、守谷特別研究室の3部、1室で構成されている。特徴は人間の五感を研究する学者が一同に集っている事。最近特にユーザーインターフェースの重要性が強調されるようになってから研究内容が注目されるようになっている。

特に研究所訪問にて面白いと思ったのは「幼児言語発達の解明に向けた基礎研究」。人間は、言語を操作して、高度な社会的コミュニケーションや概念的思考による問題解決などを行う唯一の動物だが、その言語習得のプロセスは謎に満ちている。CS研究所の言語知能研究グループでは、赤ちゃんがどのように言語を習得するかを科学的に解明し、その知見をICT技術と連動させて、育児支援や幼児教育につなげることを目指して研究を進めている。

赤ちゃんが1歳頃になると初語を発し始める。
初語とは、赤ちゃんが母語音声から特定の音声配列を抽出し、それと意味を結びつけること。その後、1歳後半になると、効率的に単語学習が行えるようになり、単語を連結させた文も話し始める。2歳では文法知識も格段に増え、言語による精緻なコミュニケーションを達成するが、この過程を語彙爆発と称するが、こうした語彙・意味・文法の各機能の発達過程を実験心理学、心理言語学、自然言語処理、認知科学などを駆使して学際的アプローチから研究を進めて、最近、この語彙爆発の謎を解明している。

従来、語彙爆発は心的機能の質的変化を示す指標と考えられて来たが、CS研の研究により、語彙爆発は、線形関数とプラトー割込みによるモデルで説明出来ると結論している。つまり心的機構の質的変化はなく、発達初期から一定速度で学習する機構の存在を示唆するデータを得ているのだ。このデータは、日誌法により、初語20語について京阪奈周辺の赤ちゃん17人から得た時系列データで語彙学習の速度の変化点を特定している。

日誌法とは、お母さんに、新しく言えるようになった語の記録をお願いしたもので、初語20語までとした。この日誌法は、時間的な漏れが少なく,日齢単位でデータが取得できるために語彙発達における速度成分の詳細な解析である。日誌法により得られたデータによると、17人とも線形に語彙取得を行う時期と、それが停滞するプラトーの時期があるが、このプラトーを除去すると線形関数で近似した。つまり語彙爆発は、線形関数+プラトー割込みと言う事になるのだ。面白い!

この研究成果から、語彙学習速度を加速する?要因の研究が進捗する契機となるだろうし、語彙習得の成長を後押しする教育法、育児法や、言語習得が緩やかな赤ちゃんの早期発見と適切な対処が出来るようになる可能性がある。勿論、英語など外国語が苦手な大人の言語習得にも役立つ研究だと感得した。

北極評議会が開催~北極圏での物流イノベーション~

2013年05月16日 | 日記
5月15日からスウェーデンのキルナで「北極評議会」が開催されている。北極評議会は、1996年9月のオタワ宣言より設立された国際組織で、参加国は北極海に面するロシア、カナダ、アメリカ、フィンランド、アイスランド、フィンランド、スウェーデン、それとグリーンランド自治とフェロー諸島を含むデンマーク。
北極評議会は、北極圏の氷の溶解が進む中での新たなルールづくりなどについて話し合うが、最大の焦点は、資源開発と北極海航路の2つだ。

北極圏航路について、例えば横浜港からオランダ・ロッテルダムまでは、スエズ運河を経由する為1万1200カイリだが、北海航路だと半分の6500カイリで済んでしまう。スエズ運河の航行料や、貴重な燃料も節約できるし圧倒的に経済性が良い。またスエズ運河やパナマ運河を通れない巨大タンカーなどの艦船についても北極海航路を通ると事ができるので、海運業界にとってのメリットは計り知れない。北極海航路が本格的に活用できるようになると、世界の海運業界全体で年間数十億ドルの経費削減になると試算されている。また不安定な中東・インド洋海域を通過しなくても良いし、狭いマラッカ海峡の通過も無しと言う事でよいことずくめだ。

今後、さらに北極圏のアイスキャップの後退が進むと、北極点域を超える航路も実現する可能性がある。具体的には、北米カナダのハドソン湾とロシアのムルマンスクが直結すると、北極アウトバーンが現出する。これは北米の高速道路網と鉄道網と直結する事で世界的な物流環境を大きく変貌させる。北米の港湾を起点として、太平洋からアフリカ、南米へのアクセス出来る。これはシェール革命並のイノベーションとなる。

この北極海シーレーンが重要性を増す中、各国は様々な動きを示している。特に過去ブログでも書いているが、ロシアの動きが顕著だ。
ロシアの北極域での防衛力強化 ~ロシア北極軍~
北極海におけるロシア海軍の動向と原子力発電プラント船
ロシアの北極圏での活動を財政的、技術的支援を行い、国益につなげる為にも、ロシアとの包括的な平和・経済条約の締結が必要だ。それもプーチン大統領の任期中に。しかしプーチンさんの健康が心配だ。

さて、北極航路を砕氷する能力を持つ艦船は、世界で262隻。しかし全世界で砕氷能力を有する船が、今後234隻が建造され運用されるようになるし、新たな形態の船舶が考案され、これまた船舶イノベーションが起こる可能性も否定出来ない。特にダブル・アクティング・タンカーなど砕氷船の先導が不要なタンカーなどは、北極圏での資源開発を促進させる事になるだろう。日本の海運業もそうだが、造船業界にとってもチャンスではないのか?

時間があれば、中国の北極政策と警戒するロシアの状況を書いてみたいと思っている。 

※ご参考まで。アメリカも頑張ってはいる。「最新の北極研究船「シクーリアック」が進水