きみはぼくに訊いた。
"きみはなぜうつになったんだろう?"って
ぼくはきみに昨日、適当に曖昧に答えたね。
"ぼくは父に育てられて、ぼくは父と相互依存の関係に陥ってたんだ。父からの愛情に飢えて、一時期は寝たきりになるほど鬱が酷かった。父もそんなぼくのそばで何もしてやれないことにすごく苦しみ続けていた。"
きみが知りたかったのは、もっと詳しいこと?
ぼくはそれに気付いてたけど、答えられなかったね。
だから、今ここできみに告白するよ。
ぼくは傷つき果てているであろうきみを、心から愛してる。
きみが性の飢えを必死に満たそうとすることが、この砂漠の戦場みたいな世界を身体を引き摺るように歩き続けなくてはならない途方にくれる時間のなかで、ほんの慰みにすらならないであろう寒々しく、浅ましい慰みであると気づいていることも。
ぼくは愛してる。
だからきみに、ぼくのほんとうの苦しみを、決して癒える日の来ない傷を、きみに話すよ。
ぼくが"本当の"鬱になって、もうその世界から戻ってこれなくなった理由は、ぼくのほんとうのトラウマは、人間の悲しい"性欲"というものが原因なんだ。
ぼくは最愛の父親の、"性欲の処理にされてしまったモノ"を、20歳のときに、皮肉にも父がぼくの鬱が治るようにと買ってくれたパソコンのなかに、観てしまったんだ。
それを観るまでは、ぼくにはまだ父と生きて行く希望があるかもしれないときっと感じられていた気がする。
でも、だめだった。
そこに映っていたものが、きみと同じアメリカ人という"よその"世界の人なら、こんなことにはならなかったのかもしれない。ぼくはまだ戻ってこれたかもしれない。
でも、そうじゃなかった。
そこに映って、無機質な画面のなかで、自慰行為に耽って喘いでいたのは、紛れもなく、ぼく自身だった。
ぼくにしか、見えなかったんだ。
汚い、最悪なぼく。
恥ずかしいポルノビデオのなかで男を欲しがっている娘。
絶対、父に見られたくなかったぼくの、一番醜い姿。
ぼくのこのトラウマが、きみには理解できることをぼくは信じてる。
なぜならぼくも必死に、この最悪な吐き気の終わる瞬間も来ないできごとを克服しようと、自らの性欲という最もおぞましい醜い欲を肯定しようと、のたうち続けている人間であるからだよ。
この世に、性の汚れがあることがぼくを本当に毎日死にたくさせる。
ぼくにとって、夫婦間以外の性の欲望は何もかも、すべてがぼくを絶望させるものなんだ。
ぼくは本気で想った。ひょっとして、嫉妬深かった死んだ母がぼくにとり憑いてるんじゃないかって。
ぼくはただの嫉妬で苦しみ続けてきたんじゃないかって。
でもぼくは同時に、"近親相姦"の性欲に苦しんで生きてきた人間なんだ。
ぼくは父と兄と三人でずっと暮らしてきた。
家族のなかで、ぼくだけが女という生き物だった。
ぼくはずっとずっと逃げてきた。
ときに娘や妹を越えて"女"として見られてしまうことから。
でも逃げ場はなかったんだ。
この不快な、変な世界から逃げられる場所なんて、どこにも見つからなかった。
ぼくはやがて、父とも兄とも相互依存の関係に陥ってしまっていることに気づく。
それは魂が求めあっているものでも肉体が求めあっているものでもないもっと不自然で、奇妙なものかもしれない。
ぼくを最も絶望させ続ける奇妙なトライアングルの檻だ。
ぼくはまだ、全然ちっとも人間の"性欲"というものを肯定できていない。
最も下らないぼくを興醒めさせる刺激だ。なにひとつ、そこに魂の喜びなど感じられたこともない。
だからきみにあらゆる性の愛を求められたとき、なにひとつ、ぼくはほんとうは応えたくなんてなかった。
応えた瞬間、それは汚れきったものに成り果てて、もう二度と戻れないとぼくは知ってる。
ぼくときみは、もう戻れないだろう。
でも愛しているよ。ぼくもきみも、まるで成長できない幼児みたいだ。
そう、どこに行ったって、みずから新しい浅い部分に溺れることを望んでるみたいだ。
窒息しそうなほど、深い海なのに。
性欲は、ぼくにとって暴力そのものだ。
破壊するためにしかないもの。
すべてを。
愛してるよ。破壊し尽くそうとがんばってるきみを、愛している。
ぼくもきみも、この性欲を、決して満たされない。
何もかも冷たい肉の上。
冷えきって、退屈な、快さで死を演出している肉体という化物。
きみとぼくが最も渇望する濁った水の中の死んだような魚たち。
ここ以外、ぼくらが生きられる場所がないと、ぼくらが確信しながら生きるこの、悲しいエンパシーの世界。
いつでも、それが、トライアングル形の水槽だった。
"きみはなぜうつになったんだろう?"って
ぼくはきみに昨日、適当に曖昧に答えたね。
"ぼくは父に育てられて、ぼくは父と相互依存の関係に陥ってたんだ。父からの愛情に飢えて、一時期は寝たきりになるほど鬱が酷かった。父もそんなぼくのそばで何もしてやれないことにすごく苦しみ続けていた。"
きみが知りたかったのは、もっと詳しいこと?
ぼくはそれに気付いてたけど、答えられなかったね。
だから、今ここできみに告白するよ。
ぼくは傷つき果てているであろうきみを、心から愛してる。
きみが性の飢えを必死に満たそうとすることが、この砂漠の戦場みたいな世界を身体を引き摺るように歩き続けなくてはならない途方にくれる時間のなかで、ほんの慰みにすらならないであろう寒々しく、浅ましい慰みであると気づいていることも。
ぼくは愛してる。
だからきみに、ぼくのほんとうの苦しみを、決して癒える日の来ない傷を、きみに話すよ。
ぼくが"本当の"鬱になって、もうその世界から戻ってこれなくなった理由は、ぼくのほんとうのトラウマは、人間の悲しい"性欲"というものが原因なんだ。
ぼくは最愛の父親の、"性欲の処理にされてしまったモノ"を、20歳のときに、皮肉にも父がぼくの鬱が治るようにと買ってくれたパソコンのなかに、観てしまったんだ。
それを観るまでは、ぼくにはまだ父と生きて行く希望があるかもしれないときっと感じられていた気がする。
でも、だめだった。
そこに映っていたものが、きみと同じアメリカ人という"よその"世界の人なら、こんなことにはならなかったのかもしれない。ぼくはまだ戻ってこれたかもしれない。
でも、そうじゃなかった。
そこに映って、無機質な画面のなかで、自慰行為に耽って喘いでいたのは、紛れもなく、ぼく自身だった。
ぼくにしか、見えなかったんだ。
汚い、最悪なぼく。
恥ずかしいポルノビデオのなかで男を欲しがっている娘。
絶対、父に見られたくなかったぼくの、一番醜い姿。
ぼくのこのトラウマが、きみには理解できることをぼくは信じてる。
なぜならぼくも必死に、この最悪な吐き気の終わる瞬間も来ないできごとを克服しようと、自らの性欲という最もおぞましい醜い欲を肯定しようと、のたうち続けている人間であるからだよ。
この世に、性の汚れがあることがぼくを本当に毎日死にたくさせる。
ぼくにとって、夫婦間以外の性の欲望は何もかも、すべてがぼくを絶望させるものなんだ。
ぼくは本気で想った。ひょっとして、嫉妬深かった死んだ母がぼくにとり憑いてるんじゃないかって。
ぼくはただの嫉妬で苦しみ続けてきたんじゃないかって。
でもぼくは同時に、"近親相姦"の性欲に苦しんで生きてきた人間なんだ。
ぼくは父と兄と三人でずっと暮らしてきた。
家族のなかで、ぼくだけが女という生き物だった。
ぼくはずっとずっと逃げてきた。
ときに娘や妹を越えて"女"として見られてしまうことから。
でも逃げ場はなかったんだ。
この不快な、変な世界から逃げられる場所なんて、どこにも見つからなかった。
ぼくはやがて、父とも兄とも相互依存の関係に陥ってしまっていることに気づく。
それは魂が求めあっているものでも肉体が求めあっているものでもないもっと不自然で、奇妙なものかもしれない。
ぼくを最も絶望させ続ける奇妙なトライアングルの檻だ。
ぼくはまだ、全然ちっとも人間の"性欲"というものを肯定できていない。
最も下らないぼくを興醒めさせる刺激だ。なにひとつ、そこに魂の喜びなど感じられたこともない。
だからきみにあらゆる性の愛を求められたとき、なにひとつ、ぼくはほんとうは応えたくなんてなかった。
応えた瞬間、それは汚れきったものに成り果てて、もう二度と戻れないとぼくは知ってる。
ぼくときみは、もう戻れないだろう。
でも愛しているよ。ぼくもきみも、まるで成長できない幼児みたいだ。
そう、どこに行ったって、みずから新しい浅い部分に溺れることを望んでるみたいだ。
窒息しそうなほど、深い海なのに。
性欲は、ぼくにとって暴力そのものだ。
破壊するためにしかないもの。
すべてを。
愛してるよ。破壊し尽くそうとがんばってるきみを、愛している。
ぼくもきみも、この性欲を、決して満たされない。
何もかも冷たい肉の上。
冷えきって、退屈な、快さで死を演出している肉体という化物。
きみとぼくが最も渇望する濁った水の中の死んだような魚たち。
ここ以外、ぼくらが生きられる場所がないと、ぼくらが確信しながら生きるこの、悲しいエンパシーの世界。
いつでも、それが、トライアングル形の水槽だった。