公園の黒を見ない

 久しぶりに公園に行ったので、冬のあいだ、いつも寒そうに木の根元でうずくまっていた黒猫を探してみたが、いなかった。春先に一度見かけて以降、姿を見ていない。
 木のうしろをのぞいてみたりしていると、茂みの陰に、猫缶の中身を盛ったプラスチックの皿を見つかった。人目を忍ぶように黒猫にえさをあげている人がいるのだとわかってほっとして、何気なく顔を上げて向こうを見渡すと、少し離れた自動販売機の裏にも缶詰とドライフードが置いてあった。よく見ると、たくさんえさの入ったどちらの皿も、猫が食べた様子はなかった。えさが置かれてから、日にちが経っているようだった。ほっとした気持ちが、重たく沈んだ。
 一週間ほどしてまた公園に行くと、猫のえさは一週間前のままのようであった。
 どこか、もっと心地よい居場所を見つけて、引っ越したのかもしれなかった。
 そう思いたいのと同時に、黒猫の、つやのないぱさぱさとした毛並みと、日溜りでも寒そうに丸くなって、疲れたように、緑色の目を細く開けてこっちを見上げたその顔が、何度も、頭の中に現れ出た。
 猫が食べなかったえさを、鳩の群れがうまそうについばんでいるのが、恨めしかった。
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