めだか三代物語(2)

 三年前の夏の日に、とあるペットショップの前を通ったら、軒先に立派なホテイアオイが水に浮かべて置いてあった。鮮やかな緑の大きな株で、水の下には黒々と茂った長い根が揺らいでいる。値段も安かったので、家の金魚のために、二つ買って帰った。
 家に帰って、いざ金魚鉢に入れてみると、ホテイアオイがあまりにも大きすぎるために、二つは鉢に入らなかった。仕方がないので、余った方はバケツに水を張って入れておいた。新しい水草が入って嬉しいかいと水の中を覗くと、二匹の金魚は、何かしきりに、毛深い根っこを突付いていた。
 次の日になって、ホテイアオイをよけておいたバケツの中で、何かが動いたように思った。最初は錯覚かと思ったのだけれど、目を凝らして見てみると、すい、すい、と可愛らしい赤ちゃんめだかが泳いでいる。よく見ると、一匹だけではない。五匹、六匹と、水面近く、それぞれが好き勝手な方向に、幼い動きで泳いでいた。
 ホテイアオイの根っこに、たくさんのめだかの卵がついていたのである。卵はどんどん孵って、その次の朝に、十匹ほどに増えた子めだかは、夕方には二十匹を越えて、最終的に、正確な数を数えるのは至難の業であるけれど、だいたいで四十匹以上にもなった。
 予期せず、家の水槽が可愛い赤ちゃんめだかでいっぱいになったので、とても喜んだのだけれど、いったいこのホテイアオイは、どういう環境で育てて売っていたのか、他にも、赤い糸ミミズみたいなのや、水中に棲むダンゴムシみたいなのまでがくっついていた。金魚が根っこをしきりに突付いていたのは、これらの付随物を一心に食べ漁っていたのであって、金魚鉢に入れたほうも一応引き上げて見てみたけれど、根っこはもうすっかりきれいになっていた。
 しかし、この不純物だらけの水草のおかげで、金魚は白い斑点のできる病気になってしまった。食塩浴をさせて、治ったのでよかったけれど、彼らにとってはとんだとばっちりであった。(つづく)
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