猫に名前をつけすぎると

 十年ばかり前だったか、立ち寄った本屋の新刊コーナーに、「猫に名前をつけすぎると」という本を見つけた。思わず手が伸びたが、その頃は、猫本というだけで手当たり次第に買い漁って、その結果、たいして良い出来ともいえないものにもいくつか当たって、いささか食傷気味になっていたから、伸ばしかけた手を引っ込めて、中も見ずにその場を去った。だから、猫に名前をつけすぎるといったいどうなるのか、わからずじまいであった。
 その本のことを、なぜか、最近思い出した。十年経って、猫に名前をつけすぎたらどうなるのか気になって、あの時、買っておけばよかったと思った。ネット書店で調べてみたら、著者は阿部昭、知らなかったのだけれど、きれいな文章を書く人だそうである。「猫に名前をつけすぎると」は品切れ、重版未定の状態で、いよいよ、十年前に買わなかったことを後悔した。
 猫が別名を持つことは、特に外飼いの場合では、そうめずらしいことではない。家ではミミちゃんでも、通い先の別宅ではタマちゃん、通りの向こうの顔馴染みの店ではミケちゃん、というふうである。
 完全室内飼いの猫でも、家の者によって呼び名が違うことがあって、実家のデビンちゃんも、父には「ぷーちゃん」、「ぷーちん」などと呼ばれている。駆け出したり椅子から飛び降りたりするときに、気合が入るのか、よくデビンちゃんは「ぷう」という声を漏らすのである。
 我が家では、まだ言葉の上手く喋れない息子が、最近、みゆちゃんのことを「みんま」と呼ぶようになった。自分のことだとわかっているのかわかっていないのか、「みんま、みんま」と慕ってくる息子に、ともかくみゆちゃんは目を細めて応じている。
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