ヒヨドリとメジロ

 メジロのために庭の木に刺しているみかんにヒヨドリが気づいて、食べに来るようになった。
 ちきちきと可愛らしいさえずりをするメジロとは違って、ヒヨドリはけたたましいきんきんした声で、全身を振り絞るような鳴き方をしながら飛んで来る。メジロが小さなくちばしで少しずつついばんで食べていたみかんを荒っぽく突っついて、中身をごっそり持っていってしまう。
 自分より体の大きなヒヨドリはメジロにとって至極迷惑な相手なのだろうけれど、私はメジロを可愛く思う一方で、ヒヨドリのことも好きである。子供の頃、家のベランダによくヒヨドリが飛んできたから、「ヒヨちゃん、ヒヨちゃん」と呼んでパンをやり、親しんでいた。
 ベランダに来ていたヒヨドリのうち、とくに馴れていたのがいて、頭の羽がぼさぼさしていたから「ボサ」と呼んでいたのだけれど、そのうちパンを私の手からじかに食べるようになった。手のひらの上にパンをのせて腕をいっぱいに伸ばすとボサが飛んできて、手のひらからパンをついばんでいく。
 やがてボサは細君を連れてきて、ベランダのすぐ横にひょろりと生えた杉の木の上に巣を作った。手を伸ばせば届くようなところだったから、ボサが寄せてくれた信頼の厚さに感動した。
 貴重な体験だったはずだが、雛がどのようの育って巣立っていったか、あまりよく覚えていない。覚えているのは、親鳥が雛のために捕らえてきたバッタか何かの虫の、きらきらするような鮮やかな緑色と、それから、まだ卵の時分だったと思うけれど、私が学校に行っているあいだに、杉の木の幹を一匹のシマヘビがするすると登ってきて、卵をひとつ呑んでしまったということである。ヘビが相手では親鳥もなすすべがない。けたたましく鳴きながら巣の周りを哀れに飛び回っていたそうだ。卵を呑んだシマヘビは、父が捕まえて裏の山に放逐したと言った。憎らしくてしょうがないが、ヘビにも生活があるから仕方がない。
 時がたって、もう死んでしまったのか、ボサは来なくなった。庭に植木屋が入ったときに、使われなくなった巣を取って貰った。枯れ草を上手に編んで作ってあって、雛が育つ巣の真ん中は、麦藁帽子をひっくり返したような、きれいな丸い形になっていた。その巣は、今も実家のどこかに仕舞ってあると思う。
 ボサの思い出があるからヒヨドリは好きなのだけれど、このあいだ、先に来ていたメジロを追い払って、隣家の庭の木まで執拗に追いかけていったのには閉口した。もっとも、うちに来るヒヨドリはまだまだ警戒心が強くて、人影を見ればすぐに逃げてしまうから、そのあとあまり人を怖がらないメジロがすぐさまやってきて、慌てるようにみかんをついばんでいる。


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